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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆絶望から始まるこれから・18歳秋~21歳。◇終わりを目指す者。

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第68話 遥か彼方。

かなたの顔と言葉に小岩茂は関谷優斗と姫宮明日香の事に関しては、これ以上何も言えなくなっていた。

出てきた言葉は「桜…、今回はうまくいくだろ?」だった。


「うん。ありがとう。晴れた春はダメだね。思い出しちゃう。昇のゲリラ豪雨と一緒」


かなたの耳には昇と4人で買い出しに行った33歳の春晴れの下、「ママ!僕唐揚げが食べたいよ!10個!」、「ママ!私はママのひと口オムレツ!」とねだる子供達の声が今も聞こえていた。


「ふふふ。いいよ。ママ頑張るね。パパは?」

「…かなたスペシャルのミートボール」


「うん。頑張るね。ママはお野菜も用意するからちゃんと食べてね」

「ママ!茂オジちゃん達来てくれるんだよね?たこ焼きとお好み焼き!」

「房子オバチャンのベビーカステラも食べたい」


広い通りで人の邪魔にならないように4人で手を繋いで歩きながら話し、子供達がかなたの手を引いてねだってくる。


「それはパパが茂くんにお願いしてくれるわよ」

「パパ!」

「お願い!」


子供の熱視線に、昇は「えぇ?ママのご馳走だけでお腹いっぱいだろ?」と聞いても、「それでも食べるー」、「大婆ちゃんのおはぎも食べたいよ!」と言われてしまいタジタジになる。


「それはママのが今じゃ美味いんだから、ママに別の時に頼んで公園ピクニックしようよ」

「えぇ!?やだよー。運動会はおはぎって大婆ちゃんが教えてくれたんだよ」

「パパは食べた事ないの?」


自分は食べていて子供達には食べさせられないというのも言い返せずに、昇は「……あるよ。ママも茂も皆婆ちゃんのおはぎを食べたよ」と答えると、かなたが「ふふ。お婆様には頼んであるから持ってきてくれるわよ」と言う。

今から頼むなんて祖父に何を言われるか分かったものではない昇は、「マジで?助かる。あんがとかなた」と言うと、かなたは眩しい笑顔を昇に向けて「いいえー。明日は素敵な運動会にしようね」と言って、帰るなりお弁当の下準備や下ごしらえ、仕込みなんかを始めていた。



そう言っていていたのに子供に戻された。

早く子供が飛び起きて喜ぶ姿が見たい。

ご馳走に舌鼓を打ち、会う頻度が減った小岩茂と笑い合い、ご馳走攻めに苦しみながら、かなたとかなた父に教わったカメラを持って他所の家の倍以上駆けまわって子供達の写真を撮って、一喜一憂する昇が見たい。


夜は後片付けが大変なのに「かなた、手伝うから…2日連続になっちゃうけど今晩もダメ?」と求めてくる昇を受け入れて、「いいけどアレはダメだよ」と一度は言う。

嬉しさの中でも少しガッカリする昇に、「3人目…いいならいいよ?」と言い、「マジで!任せて!仕事も育児も頑張る!」と目を輝かせる昇を見たい。


そして子供達の成長を見守り、昇と老人になる頃には子供達が孫を連れてきて、孫に「ばあちゃん!チョコプリン作って!」とせがまれたい。



そんな日を思い描いていると、昇が「かなた!茂!もう受付に堀切と王子が立つよ。式始まる!華子さん来てくれたから写真撮ろうよ!」と呼びにくる。


顔を見合わせて立つ、かなたと小岩茂。

昇は珍しそうに「長話してたけど何話してたの?」とかなたに聞くと、かなたは「ふふ。既定路線に行くための話」と説明をする。


昇は申し訳なさそうに「そっか、茂サンキューな。かなたもいつもありがとう」と言うと、小岩茂は「馬鹿野郎、ダチなんだから当然だろ」と言い、かなたは嬉しそうに「そうだよ昇。私は奥さんだよ?」と言って笑う。


昇は感謝の後で、申し訳なさそうに「もう忘れてるし、振り切っているのに、既定路線に乗せないと風が吹くのはなんでかなぁ…、これじゃあかなたに恩が返しきれない」と小さくボヤいているのを小岩茂は聞き洩らさない。

昇も昇なりに頑張っている。

昇とかなたの頑張りならきっとうまく行く。

小岩茂は昇とかなたの背中に向けて「挫けずに頑張れ」と言葉を贈っていた。



この後は写真撮影をして皆でウエルカムドリンクを飲みながら結婚の話題で盛り上がり、中野真由が「結婚したい!茂!早く結婚してよ!」と小岩茂に迫ると皆が笑顔ではやし立てる。


何度過ごしても楽しい時間。

だがここでイレギュラーが起きる。


昇が「ねえ、輪になろうよ!俺とかなた、茂と中野さん、曽房さんと華子さん、堀切と王子、会田と町屋って感じで、前に公園でやった時とメンバーは違うけどやろう!」と言い出した。


かなたは「あー…ズレた」と漏らして少しだけ愕然とした。


これが新たな既定路線なのか?

小岩茂と新たに話したからか、それとも関谷優斗と姫宮明日香の事で結婚式の日時を変えた事だろうか?

かなた自身はこの流れをセットにしていたが、ルートから外れてしまうと分ける必要があったのかも知れない。

流れからズレたコレも入れると、【小岩茂に話す】、【結婚式の日時を変えて、関谷優斗と姫宮明日香を突き放す】、【手を繋いで輪になる】の3つになる。

トライ&エラーで3回、27年の検証なんて真っ平ごめんだ。

3回も高校受験に大学受験なんてしたくない。

4回目は考えたくないが、【結婚式の日時を変る】、【関谷優斗と姫宮明日香を突き放す】の2つに分ける必要が出てくるかも知れない。

とにかくうんざりだった。


春香のトラブルで壊れる昇を見たくない。

何故あの両親から春香が生まれたのかと思えるくらい、出来たご両親が悲しむ姿は見たくない。

春香と春香の母親に妊娠を告げて落胆させたくない。

そもそも中2の1年間、あの一木幸平と同じクラスになりたくないし、わかっていても父から貰ったカメラを壊されたくない。

小中学生のノリは本当にキツい。今くらいならまだ耐えられるが、もう子供のフリはしたくない。

そうなるともう手を繋ぐどころではない。


だがまだ想像でしかないが、考えていた対処法もあるし、想定している風が吹く条件もある。どうせならそれを試す。ダメならまたやり直すしかない。


かなたは手を繋いだ時、昇に「今日は帰る?2人きりで明日を迎える?」と持ちかける。


何故かイベントの前後になると、昇は普段以上にかなたを求めようとする。

普段ならかなた優先、体調が大事、無理はさせないと言って無理と我慢をするのに、イベントの前後はどうにもそれがなくなる。


嬉しさを隠せずに「いいの?」と聞く昇に、「うん。今日はお祝いの日だからアレもいいよ」と言うと、昇は笑顔がダダ漏れになっていた。


仮にズレが原因で風が吹く日が今日だとしたら、風を吹かせるのは後悔している人間、まず一木幸平だ。狙い通りなら一木は生死の境を彷徨うか、この世からいなくなる。

起きている時の無意識は昇で証明されているが、眠っている時や意識不明の時の無意識下はわからない。

仮に無意識化なら手に負えないが、意識不明なら風は吹かないと思いたい。

仮に吹いたとしても、昇が吹かせなければ戻される事もない。その間に一木がこの世から消えてくれればいい。いくらなんでも死ねば風は吹かなくなると思いたい。

次があれば、大樹珈琲に行って確認もしよう。


アレは関谷優斗と姫宮明日香、一木幸平の話を聞いた日にとっておきたかった。

一木幸平が生死の境を彷徨っている時、人伝で事件を聞いた昇が落ち込んで、無意識にやり直しを願わないように、アレで昇の気を逸らしたかった。


今日は風が吹くとしたら何だろう?

春香のお見合いの話は届かないだろう。

華子が着るお色直しの着物も、春香を連想させる赤と赤紫はキューピッド権限で避けてもらった。

あるとしたらこの輪になる事だろう。

中3の夏、皆で輪になった日、あの日の春香を思い出して、やっぱり戻りたいなんて無意識にでも思わせないためにもアレをする。


この後の事を思案した時、かなたの中ではなんで運動会の前の日に風が吹いたのかわかった気がした。


マジか、あの会話が影響するのなら、その前から会話運びから練り直さないと…。

子供達の喜ぶ顔と声に早く会いたい。

かなたはそう思って輪になっていた。

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