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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆絶望から始まるこれから・18歳秋~21歳。◇終わりを目指す者。

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第66話 一木幸平が目指すもの。

かなたの言い方と声が更に怖くなった事で、小岩茂は「桜?お前…まさか…」と震えながら聞くと、「あはは。私は殺したりなんてしないよ?それで刑務所に送られたら24歳で結婚して、26歳の時に出産もできなくなって、大切な子供達に会えないもん」と言ってかなたは笑い飛ばす。


小岩茂は自分の思い過ごしに安堵しながら「だよなー」と言った時、かなたはスマホを取り出すと「茂くん、スパイって知ってる?」と聞いた。


「…なに?」

「スパイだよ。あ、私のじゃないよ。一木のスパイ。まあ本人はスパイしているつもりはないけどね。ある種ダブルスパイって言うのかな?」


言葉の意味が上手く入ってこない小岩茂に、「本人は馬鹿みたいに、18歳の運命の日の後ですら、一木幸平の『卒業して6年だろ?東中の皆と仲直りしたいから、…俺も大人になったから変わったんだ。昔の俺じゃない。皆と会いたいから色々近況とか教えてよ』って言葉に騙されてるんだよ」とかなたは続ける。


「誰だよソイツ…」と言いながら町屋梅子達を見る小岩茂に、かなたは楽しそうに「あはは、梅子達じゃないよ。私が窓口に…、ううん。一木は『楠木に1番悪い事をしたから、1番楠木に謝りたい』ってスパイに言うんだよね。そうしたらスパイは私に色々聞いてきて、頼んでもいない一木の近況をくれるんだよ。まあ、その前から『皆って元気してる?会っている?』なんて言葉に騙されているから、18歳の運命の日の後は、『これ、知ってる?』なんて言われて、色んなモノが回ってくるんだ。だからあれだけの証拠を揃えられるんだ」と言う。


かなたはこの会話が初めてで心躍っていてテンションが高い。


「だから私は今回、携帯を2回線持つ事にしたの。2回線目を昇の回線って事にして、スパイや一木から届くメッセージに、適当に返信をして、今まで以上の情報を手に入れた。聞いていないのに春香の近況なんかも入ってきたよ」

「マジかよ…、お前」


「昇が言ってたでしょ?ゲームとか戻ってきたらやらなくなったって。私もそうだよ。だからお金は残るから、18歳の運命の時に1か月間昇と暮らしてもお金は残ったし、また昇と本屋さんでバイトを再開したから、2回線の携帯なんて格安の回線にしておけば余裕で払えるよ」

「だがそれだって、一木の奴が桜みたいに知っていたら…」


ここでかなたが意外そうに「あ、またその話に戻るんだ。訴求力とかいうのかな?前の時もその話したよ」と言い、驚きながらかなたは、小岩茂に「あいつは多分…ううん、ほぼ絶対、最初とその次、2回しか戻れていない」と言い切った。


「なに?」

「いつも戻ってきた時に、移動教室のフォークダンスでカマかけるんだ。アイツが昇を困らせたくて、春香を追い込んですぐの気分がいい時に、私が『なんでアンタが東中にいるの?西中じゃないの?』って話しかけるの。そうすると顔色を変えて『桜、お前もなのか?』って聞いてくるよ」


一木幸平は自分だけがやり直した存在だと思っていて、昇とかなたが東中に進んだのは、自分がやり直した事による何らかの偶然だと思っていた。

昇の春香への執念。

かなたの昇への執念。

それこそ【初恋は忘れられない…】で、その執念が、この偶然を引き起こしたと思っていた。

だから、かなたの発言に顔色を変えていた。


「後は中2の時、昇達と違うクラスになっている時に、昇の目を盗んで少しだけ話しかけられる。昇は戻ってきているのか?自分達みたいに記憶があるのか?春香への態度をどう思う?ってそればかり聞かれるから、私は知らない。話した感じは子供の頃と変わらないって言って誤魔化すの…」


その後で、かなたは毎回少しだけ話す時に、聞く内容を変えて一木の状況を確認する。

一木幸平は昇とかなたの婚約を台無しにして、昇が消えて暫くしてから小6に戻ってきていた。


暫くしてからの部分をかなたが聞くと、日時はかなたの戻った時期より少しばかり後で、かなたが探ろうとすると、毎回「いひひ、桜は聞かないほうが良いんじゃない?ふふふ」と言ってかなたを精神的に苦しめようとしてくる。

かなたはここに関しては、もう関係のない事として探る事を辞めていた。


後、かなたは知る必要があると思い。最初の時、どうやって山野春香を篭絡して上田優雅に寝取らせたのかを聞くと、一木幸平は勝ち誇った顔で、一木幸平が把握している山野春香の性格を説明し、仕方ない理由と状況を与えて、責任を上田優雅に被せ、上田優雅に「大丈夫だって、昇には俺からも言ってやるから」と言わせれば、山野春香は簡単に堕ちた事を説明してきた。


正直呆れてものが言えないかなた。

何度やり直しても、確かに一貫性がある。

春香らしい。

小中学校のような狭い世界で、ガチガチのルールの中では優等生だが、高校生以降の少しでも自主性と自己責任が必要になる場面では、他人に選択と責任を委ねてしまう。

人を傷つけてはいけない。学校や社会のルール、罰則もあるからやってはいけないとわかっているが、何故なのか問われると答えられない。

それが山野春香だった。



そして一木の一度目をかなたは聞かされていた。

勝ち誇る一木幸平はかなたが何回もやり直していて、自分の上位互換の存在である事を考えもせず、自分だけがミスを犯してもまたやり直せた存在で、永遠にやり直せると信じて疑わない事を声高に言い、一度目のミスについて話してきた。

一木は昇がいると思って西中を選び、昇のいない事に苛立ち、自身が25歳で12歳に戻った大人だった事もあり、八つ当たりのように、当時ならアンタッチャブルだった中学生の小岩茂をバカにして、メタメタにやりかえされる。

そして当たり所が悪くて入院した時に、再び小6に戻されていて東中を選択していた。


この回答は何回聞いても同じだった。



「そもそもなんでそうなる?」

「風の話?中学で最初に願ったのは多分私と一木だよ。当時の私は婚約をしてくれた昇と一緒にいたかったからそうなるよ。多少、前後の誤差はあるみたい。私は一木が茂くんにやられて入院したのは知らないんだよね。きっと私は昇とやり直したくて、もし昇もなら、昇は春香の事で何か失敗をして、やり直したいと思い、一木は退院後の学生生活を悲観したんじゃないかな?」


かなたはここで一木を前もって倒す選択肢を外すことにした。


「だから子供の頃に一木を倒す選択肢も外した。18歳の夏にも一度説明したけど、一木が常に風を吹かせていたら、それこそ昇が春香の機嫌一つで一喜一憂して風が吹いちゃう。一木に何かをするなら運命の日以降、出来たら高校卒業以降の上田優雅と春香が離れてからにしなきゃダメだと思ってるんだよね」


小岩茂はその部分も聞いてみたかったが、先にかなたが説明をしてくれて、聞く手間が省けてしまう。


「一木は、アイツは何がしたいんだ?聞かなかったのか?」

「何回か探って聞いたよ。だいぶ前だけど統合して全容にたどり着いたと思う。運命の日に言っても良い事はないから、昇には知らないって誤魔化したけど、アイツは皆に好かれる人気者になりたいんだって。バラエティ番組とかで見た事ないかな?意地悪な芸人の司会者。あんな感じで人を笑い者にして人気者になりたい。その為に風を吹かせていた。吹かせてる自覚はないけどね」


小岩茂は辟易とした顔で「人気者?アイツじゃ無理だろ?」と言うと、かなたも同じ顔で「ね?私が困るのわかるでしょ?」と言い、ジェスチャーをしながら「しかもアイツの人気者って無理難題なんだよ。無理してやりたくもない努力をして、人気者になりたいんじゃないの。唯一の成功体験に縋り付く亡者だよ」と説明をする。


「成功体験?なんだよそれ?」

「アイツは昇を玩具にして、馬鹿にして笑い物にした時が一番輝いていて、皆の視線を釘付けにして、人気と拍手喝采を手に入れたと思い込んでいる。だから昇が壊れるまでやり続けて人気を不動にしたい。絶対無理でしょ?それに…、何回も見てきたけど、アイツはブレーキが壊れていて、常軌を逸しているから、アイツが拍手喝采だと思う行動だと誰も喜ばない」


それはあの運命の日、別のルートだった時でも証明されている。

初めてルートに入った日。8月7日に昇が壊れている事をかなたが知らず、カウンターも放てなかった時の事、昇達と会おうにも受験勉強をしていると言われて、なかなか会えずにいたかなたは、春香のことを聞いても昇は[今横にいるよ]と言い、春香も[今日は昇の家にいるよ。勉強とアルバイトで、なかなか会えなくてさ]なんて普通にしていて、かなたは遂に春香が高校生で籠絡されない道があったのかと思い、コレまでの反動で直接確認せずに新学期を迎えた。


また別で春香が昇を裏切る運命の日が訪れる可能性があるのなら、今回はその前に正体をあかしてみてもいいかもしれないと思案までしていた。

だが、そんなことはなかった。

率先して情報収集を行わないと、かなたの元には一木幸平が拡散させていたムービーなんかは届かなかっただけだった。


昇の祖父母もかなたを信じきっていて、新規のルートの時なんかに起きやすい問題だが、未来を知っているかなたがきっと対処をしている。これも既定路線の一つなんだと思い込んでしまい、余計な行動を控えてしまう。

結果、祖父母は昇の不調もわかっていたが、昇が我慢をしていて、かなたが何も言ってこない事で、口出しも出来ずにいた。


夏休み明けにボロボロの昇にとどめを刺す為、学校に突撃し、上田優雅が「しつこい男は嫌われるんだよ。いい加減諦めろ」と言い、昇の居場所を全て奪い取って壊した時、一木幸平は拍手喝采を疑わなかった。


昇の事をサイコーに面白く調理してやったと自負し、人気を不動のものにしたと思った。

自殺未遂の噂を学校に流し、上田優雅を連れて学校に攻め込んで、優雅を使い、昇を心身ともに痛めつけて高笑いをしたムービー。

それを可能な限り全方位に向けて拡散した時、一木の中では、タイムラインは激流のように流れ、スマホが壊れる程の通知音を鳴らして夜も眠れず、豪雨のような賞賛の言葉を浴び、詳しく聞きたいと皆が自分の元に殺到し、何べんも説明を求められる。


その説明でも面白おかしく昇を笑い者にして、更に拍手喝采で、人気者になれる。

面白い人気者の腕の見せ所が遂に来た。


そう思って疑わなかった。

だが、上田優雅や1人…2人の常識が壊れた異常者は笑ったかも知れないが、あの壊した昇の姿、壊れた昇を上田優雅が罵倒して、居場所を奪った瞬間のムービー。

そのムービーを全方位に拡散し、近所から住む街、学校やアルバイト先、進学を希望している大学、それら全てから居場所を奪った報告のムービー。

上田優雅に春香の身体の特徴、性行為中にした春香の反応を話させたムービー。

性行為中に無理矢理春香に言わせた、矯正混じりの「昇より優雅の方がいい」という音声や、上田優雅を誘導してでっち上げた、春香が「男として昇より優雅の方がいい」という発言の音声を聞いて、正常な人間は誰も笑わなかった。

それどころか一木幸平の狂気に触れて、一木幸平をブロックする、一木幸平に言わせると面白さを何もわかっていない奴らが多数現れた。


驚いた一木幸平は、目を見開いて、どれだけ昇が苦しみ壊れたかの経緯と姿。その楽しさを一木なりに面白おかしく説明し、何度もムービーを再生して、壊れた昇の姿を笑って、同調圧力をかけても誰も笑わず周囲の人間が離れて行ってしまう。

その結果、一木幸平はやり直しを願う。

同時に昇は常にやり直しを願っていた状態なので即座に風が吹いた。



一木幸平が壊れているのは、これが昇の見ていない、榎取高校なんかでトラブルが起きても、大概の事では風が吹かない。

仮に交通事故で入院していても吹かない。


数回前にかなたがスパイの存在を疑い、逆に調べた時、一木幸平は榎取高校でかつて東の京高校でやったように上田優雅を使ってカップルを台無しにしていた。


認めたくないが、一木幸平の性格の悪さ、声の大きさ、それこそ深夜番組のようなノリで迫ってきて、ノリが悪い、付き合いが悪いと学校中、地元で広められたくない女子は無視一択が正解なのに話を聞いてしまう。

話を聞くと言いくるめられてしまうし、上田優雅のノリの良さや軽さに声の大きさ、そこに嫌悪感を抱かせにくい顔面偏差値を前にされると、一定の女子は拒む力が緩んでしまうらしい。


そんな一木幸平と上田優雅、2人揃うとタチが悪い。

榎取高校も一木幸平が調べたのだろう。キチンと通学路を一本外れると駅付近にラブホテルがあった。


やはり、一木幸平は拒めても、ホテル街で待っている上田優雅の元まで到達してしまうと、「まあまあ」、「じゃあ入るだけ入ってみようぜ」、「こういう時のノリの良さって大事だぜ?」、「嫌なら何もしないって」と言って、上田優雅が強引に中に連れていく事を、足がすくんで拒めない女子がいたり、逆に上田優雅は拒めても、一木幸平のように「中学校の友達、ノリが悪いって知ってるの?いひひ」、「ただ話をしようって言っている友達を拒むなんて、地元の人たちが知ったら、ご両親も困るよね。ふふふ」と言って迫ってみたり、「うんうん、そのリアクションはもう見たからいいから、じゃあ行こうよ優雅が待ってるよ」と深夜番組のように話されると逃げ切れない女子がいたりする。


更に相手を見極めて、気の強い女子には「ビビってる?その姿を皆に見せちゃお、明日からスクールカースト底辺で見下されちゃうね。今まで生意気だったとか言われて、イジ…仕返しされたりして、イヒヒ」と言い、気の弱い女子には「ここまで来た事、ご両親が知ったらどうなっちゃうんだろうね。怒られて学校辞めさせられて、もう友達に会えないかもよ?ふふふ」と、言って逃げ道を封殺してしまう。


そして、一番恐ろしいのは、被害者が道連れを求める事だとかなたは思っている。

東の京高校の時、学年の被害者が5人、6人となった時、全く別の学年に行くのではなく、被害者の友達、別のカップルを狙った一木幸平と上田優雅。

数日前に泣かされた子は、友達を庇うのではなく、お前もやられて来いと見捨ててしまう事、「何もないって言ってるじゃん」、「ノリが悪いって地元で言われちゃうよ」、「ピンクのパーカーなんてないって」、「優雅は顔は良いんだからいいじゃん」なんて言った時には正気を疑ってしまった。

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