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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆結実から絶望まで・16歳~18歳夏。◇昇の前に現れた事実。

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第47話 鳥は片翼では飛べない。

後に小岩茂は「昇は頑張った。やれるだけやっていた。お前は何にも悪くない。間違ってなかった」と言った。


昇は上田優雅の登場に、焦ってペースアップをした。

これ見よがしに春香との仲をアピールするようになり、小岩茂とかなたに呆れられるが春香は満更でもないし、昇は春香のパートナーとして行動が伴えるように結果を出し続けていた。


オリエンテーションの時に、将来の夢を漠然としたものでもいいから語るように担任から言われた時、小岩茂は「今はまだないです。友達に引き上げてもらってここまで来れた。ここまで来る。それしか考えていなかったから、今はまだないです。でも俺は思い悩んでも、見つからなくても友達が居てくれるから頑張ります」と言う。


少し趣旨からは離れたが、担任は「君達は大変な受験戦争を勝ち抜いてここにいる。小岩のように、入学が目標だった者は目標が消えてしまっているだろうが、それはおかしい事ではない。キチンと進みたい道を目指すんだ」と言って小岩の言葉を肯定し応援した。


かなたは「小さい時の夢はカメラマンでした。でも運と実力が必要で大変な仕事だと知ったので、その夢は趣味にして、将来はすごい事をする人を、頑張って努力をする人を支えられる、私にしかできない裏方の仕事がしたいです」とハッキリと言う。


春香は小岩と同じで、入学が目的で将来は何も決められていないと言っていた。

それは前の世界でも同じで、漠然と生きてお嫁さんになるという春香そのものだった。


「次、楠木昇。君の将来の夢は?」

「はい。俺は食品のバイヤーになりたいです。安くても産地がわからないものや、怪しいものが何も知らない消費者の口に入らないように、キチンとしたルートで多少高くても、安心安全で美味しいものを自信を持って皆に届けたい。料理人さん達が手を加えて唯一無二の料理を作って貰いたいです」


それは前の世界から変わらない昇の夢。

祖父母の死の遠因に食材が関わっていると思った昇は調べるようになっていた。

その結果、昇は学力の劣る高校に進学してもキチンとその仕事を目指して努力をし、キチンとその仕事に就いていた。

春香も応援してくれていたし、就職が決まった時には喜んでくれていた。

だからこそ胸を張って3ヶ月の研修、直接生産者のところと消費者のところで食材に関わる実地訓練に行ったのに一木幸平に邪魔をされた。


一木はわざと同窓会のお知らせではないが、皆を集めて飲み会を開く案内を昇に出した。心配する昇に、春香は「もう、心配性なんだから。優雅とはもう何にもないよ」と言っていたのに、解散後2人で消えたと一木から連絡が来て気が気ではなかった。

その日を境に緩慢になる春香からの返信。


そして、3ヶ月後…。

ようやく逢えた春香は優雅からの強引な復縁を断れずによりを戻していた。


ハッキリと言う昇を見て、担任は嬉しさが見える顔で、「良い夢だ。応援する。共にその夢を目指そう」と言ってくれた。


昇を見て小岩が「昇、お前…だから三津下にキレて…」と言うと、春香も「私彼女なのに知らなかった」と続く。


これが良かったのかよくなかったのかは今となってはわからない。


春香は春香なりに昇の彼女として頑張ったのだと思う。

外の世界へと意識を向けて努力をしようとした。アルバイトをしたいと言い出したが、春香に京成学院の授業は厳しくてそんな余裕は無かった。

周りから、少し慣れてからでいいのではないかと言われて夏まで我慢をした。


夏休み、少し早いが昇は自分の誕生日を口実に、春香と外泊をした。

そこで昇は春香と結ばれた。

前の世界では春香は優雅と経験済みで、昇は初めてだった。


前の世界では春香にリードされる形だったが今回は逆で、初めて同士なのにうまくできている事、春香が悦ぶポイントを的確に触れて満足させると、周りから聞いていた初めてとは違うことを不思議がる春香に、「相性だよ。俺たちの相性は最高なんだ。春香、このままずっと一緒だ」と言っていた。


だが、どれだけ取り繕っても昇1人の努力ではなかなか上手くいかない。

ギリギリの成績の春香は段々と余裕を失い始めてくる。


折衷案ではないが、書店のアルバイトを見つけてきて昇と春香で雇ってもらった。

恐ろしいのは、何をどう仕入れたのか一木と優雅がバイトしたいと売り込んで来たが、昇と春香がいるのでバイトは断ってもらえていた。


油断のならない日々。

2回目の世界だと春香に言い出せない昇は、憔悴しては祖父母に「敵と違う道を選んだのにニアミスしてくる」と漏らし、小岩茂には「なんでか俺の周りに一木がウロつく」と愚痴を言って誤魔化していた。


2年になると京成学院は成績でクラスが分けられてしまう。

そんな事を知らない昇はかなたと同じクラスになり、これが3年まで続く事を知って愕然とした。

その事が春香に重くのしかかると、春香は書店のバイトを急に辞めてしまう。

空いた穴はかなたが入る事でなんとかなったし、かなたはそつなくこなしてくれて店長の覚えも良かった。


昇が春香に事情を聞くと、「学力で昇に追いつけなかったら社会経験で追いつくしかないの!」と声を荒げられた。

自身の努力が春香を追い詰めていた事に昇は愕然としながらも、「俺は春香といるからそんなの気にしないで、無理のないペースを保っていていいんだ」と言葉を送ったが、「それはできる人の余裕だよ。私は一緒に進みたいの」と言って、ほんの少し距離ができてしまった。


かなたがサポートする形で間に入って、なんとか関係修復もしたし、春香の両親から昇のところに電話が来て「娘がすまないね。あの子はいつも昇君を自慢していて、今の成績の事もアルバイトの事も、君といたい気持ちからだから見捨てないであげてくれ」と言われた時に、昇は「勿論です。俺は春香と仲良くやって行く為にも頑張っているんです」と言った。


だがやはり、頑張っても片方だけでは無理が出る。

鳥は両翼で羽ばたくから飛べる。

2年の終わり側、春香はファミレスのバイトを始めた。

学力不足でギリギリなのにアルバイトを始めた春香に、担任達も小岩茂もかなたも呆れたが昇からすればバイト先が問題だった。


そのファミレスは春香と昇が出会ったファミレスだった。

運命的な何かを感じた昇は漠然とした気持ち悪さと不安感に潰されそうになった。


ここまでで昇に落ち度らしい落ち度はなかった。10月の春香の誕生日には盛大にお祝いもしたし、記念品も贈り、沢山の思い出も残してきた。

肌だって何回も重ねた。

夏休みには朝から晩までラブホテルで過ごした事もある。


できることは全部やった。


それなのに春香はファミレスに行ってしまい、一木幸平と上田優雅が短期バイトで入ってきてしまった。


「ねぇ、聞いてよ。あの一木が入ってきたよ。あと前に入学式に肩を組んでた男、上田っていうんだけどさ、アイツも居たよ」


春香から電話で聞いた時、昇は立って居られずに崩れ落ちていた。

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