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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇結実。

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第45話 全員の進路。

受験生の一年間はあまりにも過酷であっという間だった。

夏休みに入り、二度目だからこそ夏期講習の必要性がわかり、親に結構な値段の夏期講習を頼むと、祖父が「おめえでも受けたいのか?」と聞いてくる。


「今のままだと危ないよ。模試でA判定が出てもまだまだだよ。ここで一気に実力をつけないと。前の世界で行った微劣高校なら余裕だけど、京成学院相手だとね」


この返しに祖父は「年金から出してやる。行け」と背中を押してくれて、昇は一木幸平と上田優雅の居ない学校に行って、春香と今度こそ幸せになる為に努力に努力を重ねた。

同じ学習塾だが、一段マイルドな夏期講習を選択していた春香とかなた、小岩茂は昇の努力を見て愕然とする。

そして、「夏休み後半は昇と同じ講習にする」、「うん。お金かかるけどお母さんに頼んでみる」、「俺もやる」と言っていた。


お盆休みに行った小岩邸での勉強会も、決して遊び半分のものにならないように、徹底して問題集を解いて、わからない点を中野真由に付き合ってもらう形で全員の底上げにあてる。追加で参加したのは姫宮明日香と関谷優斗で蒲生葉子と早稲田七海は参加しなかった。


「おじさんもおばさんも曽房さんも、夏休みなのにごめんなさい」と昇が謝っても、「何言ってんだ!楠木君が皆を励ますから皆頑張ってるんだぞ!うちの茂だってまた成績が上がったって喜んでるんだ!」、「そうだよ!もう楠木君も皆もウチの子同然だから、カレー食べて頑張りな!」、「そうです。来年休めば良いんですよ。今年は一丸となって頑張りましょう」と言葉を返してくれて、昇は感謝しながら勉強に集中した。


最終日はカレーではなく、房子のベビーカステラに巌のたこ焼き、曽房のお好み焼きになって皆で舌鼓を打っていると、堀切拓実が「塾選びしくじった。安い所にしなきゃ良かった。明日から行きたくない」と漏らすと、同じ塾に通う会田晶と町屋梅子が「本当、嫌だよね」、「一木が居るから余計嫌なんだよね。まあアイツは東中とも西中ともつるまないで、川向こうの連中とつるんでるからいいけど、コソコソニヤニヤと何話してるかと思うと気持ち悪くてさ」と続く。


その時、昇にはなんとも言えない不安感と、気持ち悪さがあったがわからなかった。


考えたくても頭の中は受験勉強でヘトヘトになっていて、何も考えたくなかった上に、春香が「そのまま川向こうの人達と仲良くなって、その人達の行く高校に行ってくれればいいのにね」と言い、「確かに」と思って考える事を放棄してしまっていた。


毎月の模試、塾での模試、両方でA判定を連発して、ようやく安心する昇とかなた。

春香と小岩茂は辛うじてA判定で、調子が出ないとB判定が出てしまうが、昇の熱望により京成学院を志望校にした。


やはりと言うか、堀切拓実達は塾の指導内容や人生の考え方もあり、危ういA判定の出る京成学院よりも、上位に食い込めて学業で苦労しないで済む東の京高校を目指すように言われていた。

関谷優斗は3年序盤の落ち込み具合が嘘のように荒川さくら高校のA判定が出て、家族ぐるみで楠木昇に感謝をして、わざわざ親が両親宛に電話をしてきていた。


志望校が決まるとあっという間に年を越してしまう。

ここまで努力をしたのになのか、努力をしたからなのか、それはさておいて昇とかなたは推薦で京成学院の合格を手に入れてしまう。



「くそっ!ざっけんな!おめでとう!待ってろよな!楠木!」と電話で言う小岩茂。


小岩茂は進路指導の教師から「一年最初の失態がなければ…、早く東中の楠木君に会えていれば推薦が受けられたのに」と言われてしまい、後悔しても手遅れなので、その悔しさと自分への怒りをバネにして、小岩茂は一般入試での合格を目指していた。


「ありがとう小岩。とりあえず1番に小岩に言いたくてさ」

「ふん。自慢と取らずに激励と取るのは、俺だからなんだぞ」


嬉しくてクスクスと笑う昇は、「なあ小岩、合格して同じ高校になったら、昇と茂で呼ぼうよ。いつまでも小岩と楠木じゃつまんないって」と提案すると、嬉しさを隠すように努力しても隠しきれない小岩茂は、「マジかよ?絶対だかんな!」と言うと、「時間が勿体ねぇ!切るぞ!」と言って電話を切っていた。


早く高校が決まってしまうと退屈になるが、そこはかなたも居るわけで話し相手には困らない。


とりあえず今回一木幸平と春香が同じ高校になる事は、春香の進路を東の京高校から京成学院に変えた事で回避できた。

後は無事に合格してくれればいい。

そうすれば東の京高校に行く上田優雅との出会いも同時になくなる。


これで回避できたと思ってしまっていた。

どこか油断はあったし、受験勉強の疲れもあって気が回らなかった。


そんな時、興味のなかった一木幸平の進路を聞いて、昇は夏の小岩邸合宿の日に感じた漠然とした不安感に再び襲われていた。


一木幸平は私立の「榎取高校」に進路を決めてきていた。

前と同じなら東の京だと思ったのに違っていて、堀切拓実達が本人が同じ教室にいてもお構いなしで、「アイツの成績なら東の京だと思ってたけど違ってくれた!」と喜ぶ中、不安感と嫌な予感の答えに気付いた。



上田優雅の住まいが川向こうだった事。

上田優雅が中学時代はサッカー部に所属していた事。

川向こうにある塾だと友達と遊んでしまうからと親に言われて、高校受験の時の講習ではコチラ側に越境してきていた事。


かつて前の世界で上田優雅から聞いた事を思い出していた。


偶然だと思いたかった。

一木はサッカー部だった。

何度も試合をして、すでに出会っている恐れがある。

塾にしても偶然会っている可能性がある。


この世界で一木と春香と優雅を結びつけるものは無いと思いたかったが、どうしても本来なら京成学院を選ばない自分やかなた、不良道を極めて、進学しても獰猛高校に行くはずだった小岩茂が京成学院を目指した結果、世界がズレてしまっていたら、死ぬはずの祖父母も生きている。

だから優雅と春香と一木の縁が消えていなかったら、そう思ったら今更ながらに昇は慌てた。


その昇を見て「ニヤリ」と擬音がつくくらいの笑顔で睨んでくる一木幸平を見た時に気のせいでは済ませられなくなっていた。

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