第43話 夏の約束。
昇は小岩茂の誕生会で校外学習の話をすると、小岩茂は「あのガキ…潰さないとなにしでかすかわからねぇ」と怒りを露わにする。
だが、昇お手製の王冠と男子が作るお誕生日メダル、それに女子お手製の【祝!15歳!小岩茂お誕生日おめでとう!】の模造紙の前なので格好つかない。
「で?どうすんだよ」
「どうって?」
小岩茂は「最後に叩き潰して、気持ちよく卒業しねえのか?」と聞くと、昇はやれやれと呆れ顔で、「小岩、人生は漫画じゃないんだよ。一木を倒してハッピーエンドなんてないんだから、俺たちは関わらない。皆でアイツのいないところで幸せになる。それを狙うんだよ」と説明をする。
「とりあえずさ、小岩は勉強頑張ってよ」
「は?頑張ってるだろ?」
「んー…?足りない」
「はぁ!?ふざけんなよ!お前、この辺りじゃ獰猛高校しか行けなかった学力の俺が、この辺りの高校なら大体のところに行けるんだぞ!?」
「俺は京成学院を目指す。あそこなら一木は来ない」
昇の言葉に小岩茂が「馬鹿野郎…、C判定しか出てねえよ」と漏らすと、昇は「なら後二つ、頑張ってね」と言って微笑むと、「春香も一緒に行こうよ。皆もさ」と言う。
周りは皆、待て待て待てと顔に書いてある中、昇は「かなたは…、京成には写真部ないから嫌…だよね?」と聞くと、かなたは「ううん。私も昇くんと同じところがいいや。高校生になったらアルバイトしたいし、アルバイトでお下がりじゃないカメラ買うの。進学校でもバイトは出来るはずだから平気だよ」と言う。
正直、かなたと昇は行けそうで、努力が必要なのは春香と小岩茂。
その他のメンバーも、努力がかなり求められる人と、運を天に任せる人までいる。
小岩以外の皆には、最後の模試の結果で志望校を決めてもらうけど、小岩茂は何がなんでも受けて貰うと昇は言い切る。
小岩茂は「楠木が来るとキツい…。またやること増やされた」と言って肩を落としている時に、昇は離れてみている曽房に向かって、「夏祭りはやりますよね?」と確認を取る。
「はい。何かございますか?」
「うん。それもあってさ。小岩に頼みたいけど、今こんなだからおじさんとおばさんにもお願いしたいんだ」
小岩茂は「俺に頼み事?」と言いながら再起動すると、昇は「夏に何日かでいいから、邪魔の入らないここで勉強会をさせて貰えないかな?」と聞く。
「はあ、構いませんが」
「ああ、別にいいぜ?」
昇は「ありがとう」と言うと、中野真由を見て「中野さんも俺たちに勉強教えてよ。ダメかな?」と聞く。
中野真由は「おお!お姉さんの本領発揮だね!任せて!何日か知らないけど泊まるよ!茂のベッドで眠るよ!」と言う。
皆が顔を赤くして小岩茂の顔を見ると、小岩茂は顔を真っ赤にして、「真由!言うな!しかもお前俺が寝てから嫌がらせで入り込んできて、朝俺が悲鳴をあげるのを楽しんでるだけだろ!オフクロと寝ろよ!」と言う。
小岩房子が返す前に小岩巌が「母さんは俺のだからダメだな」と言って笑う。
「楠木さん、メンバーはこちらの皆さんですか?」
「んー…、後何人か増えてもいいですか?」
「楠木?どうした?」
「うん。俺は関谷優斗を誘いたいんだ。夏祭りから勉強会まで誘って、一木との繋がりを切ってあげたい。この先関谷は間違いなく成績を落とすよ。それで一木はしっかり行きたい学校に行って、選択肢のなくなった関谷を嘲笑う。それにアイツ、一木が誘導しているせいで校外学習の悪者にされていて、イジメスレスレの仲間はずれが始まってるから、夏休み中に助けたいんだ」
それは予想でもなんでもない実体験。
かつての昇が一木幸平に捕まって、散々な目に遭った経験を口にしていただけだった。
堀切拓実達が「そんなの」、「楠木の想像」と聞こえてくる中、かなたは「うん。助けたいよね。小岩君、お願いしちゃダメかな?」と言った。
「なんにもねー客間を繋げれば人数増えても問題ねーよ。オヤジ、オフクロ、修さん。いいよね?」
「おう!合宿みたいで楽しいな!」
「夕飯も食べて行きなよ!カレーにしてあげるわ!」
「坊ちゃん、大掃除はよろしくお願いしますね」
こうして夏祭りと勉強会が決まると、昇はクラスで孤立しかける関谷優斗に声をかける。
あくまで1人で声をかけずにかなたと声をかける。
「関谷、少しいい?」
「今日は1人で帰るよね?皆で帰ろう」
それは関谷優斗からしたら驚きだった。
あの校外学習の日から地獄のようだった。
本人は蒲生葉子と早稲田七海の2人を残したくなかった。心配だった。
教師に怒られても立ち去ったことで、一木幸平に「お前も同罪」と言われた時に死んでしまいたくなった。
翌日から学校は地獄と化していた。
皆から悪く言われる。
一木はシレッと関谷優斗に罪をなすりつけて誤魔化していて、何か言われてもすぐに、「関谷に言ってよ。俺は関谷に従っただけ。黄色信号で止まりたかったのに、前に出たのは関谷だよ」と言う。
現実は違う。
だがそれを知る蒲生葉子と早稲田七海が、酷い目に遭わせた自分を助けることはない。




