第32話 バレンタインに向けて。
昇はサッと電話を終わらせると、「休みがまた減った。寝たい」と言っている小岩茂に電話を返して、「行くよ皆」と声をかける。
「行くって何処にだよ?」
「チョコレートは待ってもやってこない。行動あるのみだよ」
昇はさっさと公衆電話を見つけると、10円玉を放り込んで手慣れた感じで電話をかけると、「あ、かなた?よかった。今皆で駅ビルに居て、頼みがあるんだけど来られる?春香?うん。今から呼んでみる。帰りは6時くらいまでには家に帰すっておじさん達に言っておいて。噴水広場に居るから」と言って電話を切って、もう10円で春香の家に電話をかけると、春香の父が出て「おお、楠木君!」と喜んでくれる。
「6時くらいまでに送りますから、これから駅ビルで春香さんと会っていいですか?2人じゃなくて皆も居ます」
「しっかりしてるね。楠木君なら安心だ。よろしく頼むよ」
春香の父はそのまま「春香、楠木君だよ」と呼ぶと、ドタドタと聞こえてきた直後に、「昇くん!?どうしたの?」と春香が電話に出る。
かなたに伝えた内容そのままで春香を呼ぶと、2人ともほぼ同時に噴水広場に着く。
「お前、電話するならコレ使えばいいのに」
「小岩?携帯代って高いんだ。だからダメだよ」
「お前ってじーさんみたいだな」
「そう?ガキンチョだよ」
春香とかなたに山田真の願いを伝えて、「貰えるかわからないけど、せっかくだから皆で楽しくチョコ作りたいって思ってたら、小岩が家なら場所あるからって言ってくれて、曽房さんも是非どうぞって言ってくれたよ。それで大掃除は小岩がやってくれるって」と説明すると小岩茂は「休み、また減った、楠木と修さんのバカ」とぶつくさ言っているが、かなたは「楽しそう!」と言い、春香も「やりたい!」と言う。
次に女子達をどう呼び出すかになって悩むが、小岩茂が「そんなもん楠木に任せれば1発OKだろ?楠木はコミュニケーションお化けだよ」と言って片してしまう。
その後は食品売り場で、生クリームとチョコレートなんかの値段を調べて分量から必要金額を出すと、「小遣いが死ぬ。正月にかなたの家と春香の家に助けてもらったからなんとかなるけど出費怖い」と昇は漏らしていた。
ちょうどバレンタインデーは日曜日なので、日曜に集まる約束までして解散すると、昇はキチンと春香とかなたを送ってから帰り、遅いと祖父から雷を落とされるが、「春香とかなたを送ってきたからだよ」と言えば、祖母が「立派よ」と褒めて終わる。
試験の他に忙しくなったと漏らしながら、昇は余計なこととかもする。
早々に大っぴらにならないように気をつけながら、かなたと2人で町屋梅子に「かなたとか春香と会田達と皆で集まってチョコ作るんだけど、町屋もどうかな?男女混合にしたいんだけど、会田が呼べる女の子が町屋しか居ないって言うんだ」と話しかけると、かなたも「お願い。人数揃わないとできないの」なんてあわせて、「まあいいけど、変な意味とかないよね?」と言わせながら誘う。
王子美咲は思い切り怪訝そうな顔をしたが、昇が「頼む。王子が来てくれないと会にならない。俺はチョコを貰いたい」と言ってかなたをみる。
「…楠木君、桜さんから貰いたいなら普通に貰えるんじゃないの?」
「春香からも皆からも貰いたい。爺ちゃんに『おめーはどうせゼロチョコだろうな』とか言われたから見返したい。貰うだけじゃなくて、皆で作りたい。楽しくして爺ちゃんを悔しがらせたい」
王子美咲がかなたをみると、かなたはごめんねという仕草で目配せをしてくる。
「仕方ない。ひと肌脱ぎましょう。でも山田とはなんにもないよ?」
「全然OK。そこら辺はそれって事で」
昇は人集めが成功した事を皆に伝えた後で、かなたから「そんなにチョコ欲しいの?あげるよ?」と言われる。
「貰えるなら欲しいけどアレ半分嘘。かなたも居てくれるし、小岩の家だからやりたい事とかあるんだよね。そっちを言うと王子とか町屋が来なそうだからさ」
かなたは昇の悪巧みを聞いて呆れながら「怒られない?」と聞き返してくる。
「きっと大丈夫だよ」
「…昇くんが言うと本当に大丈夫に聞こえるんだよね」
昇は悪巧みを曽房に伝えると、「そんな事までしてくださるのですか?よろしいのですか?」と聞き返される。
「曽房さんとおじさんこそOKかな?」
「はい。オヤジは昔から口にはせずに気にしていました」
「良かった。じゃあ買っておいて貰えますか?後一個甘えてもいいかな?」
「珍しいですね。なんですか?」
「皆で作るから、見分けをつけたいんだけど材料費がキツくて、食紅まで手に入らなくて…。女の子の分だけ分けてほしくて…」
「伝手ならありますからご用意しますね。当日は朝10時にいらしてください。坊ちゃんが大掃除のリストを作っていましたのでお楽しみに」
昇は春香のチョコレートだけはどうあっても感謝をしながら食べたいので、見分けるために食紅を曽房に頼む事にしていた。




