第31話 山田真の願い。
一月最後の日曜日。
昇、堀切拓実、会田晶は駅ビルに呼び出しを喰らっていた。
呼び出してきたのは山田真。
天然全開の山田真の呼び出しに何事かと思い出かけると、憩いの場として設置された噴水広場で、山田真は「王子さんからチョコが貰いたいんだ!楠木君なら何とかしてくれるよね!?」と、開始早々に言い出しやがった。
案外おませさんな山田真に、昇は「げぇ。面倒な事を言い出したぞ」と思いながらも、内心は春香がチョコをくれるか気になっていたし、春香の両親が「楠木君にチョコをあげないのかい?」とアシストしてくれないか気にしていた。
その後は男4人の不毛な話し合い。
言うのは簡単。
チョコだけならかなたに言えばなんとかなる。
だが、それでは昇の春香から貰うという目的には掠りもしない。
なんとか春香をチョコの話題に引っ張り出す必要がある。
そうなると、男どもも皆して欲望を丸出しにして、会田晶は「楠木…俺も町屋さんから貰いたい」と言い出し、堀切拓実は「俺は誰とかないけど貰いたい」と言い出した。
お前らふざけるな。
俺は誰より春香のファーストチョコレートが欲しいんだ。なんでも最初になりたいんだと、血涙を出してしまいたいほど強く願った時、「楠木?何やってんだ?」と声をかけてきたのは小岩茂だった。
「あれ?小岩だ。お手伝いは?」
「終わったよ。氏神様の所は一月中だけだから、後はスポットだよ。今日はもう出すのもやめた。オヤジ達もようやくのんびり出来るんだ。俺はお前のせいで買い出しだ」
そう言いながら見せてくるのは洋品店の紙袋。
聞けば昇のせいで食事が増やされて、成長期もあって体格ががっしりしてきてしまい、服が身体に合わなくなってきてしまった事で、今回のお手伝いの給金で服を買い揃える羽目になったと言う。
「へぇ、その服とか怖いからもう少し年相応の奴にすれば?」
「お前達みたいなの?嫌だ」
「まあいいや。小岩って忙しい?俺達の悩みに参加してよ」
「いいのか?」
「モテモテイケメンの力を借りたい」
「…お前、その扱いやめてくれよ。学校で変なあだ名が付くんだよ」
この返しに西中も穏やかになってくれたと昇は喜びながら、円陣に小岩茂を加えると、山田真がチョコを欲した所から始まった一連の話をする。
呆れ顔の小岩茂が「チョコなんかで」と言いかけた時には手遅れで、怖い昇が出てきていて「小岩?甘味を甘く見ている小岩としてか?それともモテモテイケメンの小岩としてか?どっちも許さないよ」と言うと、小岩茂は首をブンブンと振って許しを得る。
「で?どうしたいんだよ?」
「悩んでるんだって。かなたに言えば山田の望む王子のチョコは可能性あるけど、会田の言う町屋のチョコは無理ゲーだし」
「女どもを一カ所に集めて作らせれば?」
「なんか悪人臭がする言い方だなぁ。それも考えたけど、食べたいから集まって作ってね、なんて言えないよ。それこそ簡単な生チョコを作る会にして、皆で参加して一緒に作れればいいけど、中学生が借りられるレンタルキッチンなんて無いよ」
昇の話を聞きながら、小岩茂は「チョコが欲しい、女どもだけを働かせるのは悪いし、どうせなら一緒に作りたい、でもそんな場所がない」と要点を呟く。
小岩茂の言葉に沿って頷く会田晶達。
とても去年のこの頃は小岩茂と離れられますようにと願っていたとは思えない姿だった。
「あるぞ。多分なんとかなる」
「マジで!?どこに?」
「うちだ。ウチは大人数の宴会もやるからキッチンもバカでかいしなんとかなるぞ?」
「え!?小岩の家!?いいの?悪くない?」
「普通の奴ならアレだが、親父も修さんもお前なら大歓迎するんじゃないか?電話してみるか?」
小岩茂は普通にスマホを出して渡してくる。
「小岩、通話料高くない?いいの?」
「平気だから使えよ」
小岩茂が操作をして曽房の番号にかけると、すぐに曽房が出て「坊ちゃん?どうされました?お金が足りませんか?良い事ですがギリギリを持つと、この場合みたいに困る事もあるんですよ?」とお小言から始まる。
「あ、曽房さん?こんにちは!楠木です」
「楠木さん。こんにちは。坊ちゃんとご一緒なのですか?」
「うん。駅ビルで会ってさあ、困ってたら小岩が通りかかって助けてくれてて」
「悪漢ですか?三津下達を向かわせますか?」
呆れながら「違いますって」と言った昇は、「小岩、曽房さんに説明して」と言って丸投げすると、要点を伝えられた曽房は昇を出せと言う。
「曽房さん?」
「是非お使いください。坊ちゃんに大掃除もさせましょう!」
「おお、小岩が大掃除してくれるの?助かるー」
「何!?待て!?修さん!?楠木!?」
昇は小岩茂の肩に手を置いて「ありがとう小岩、もう決定なんだ」と言うと、「曽房さん、細々した話とか、人数とかは曽房さんに電話すればいいですか?」と確認をする。
「はい。そうしてください」
「じゃあ、人数とか決まったら言いますね」
曽房は「お待ちしております」と言って電話を切った。




