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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇変化の実感。

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第30話 怒りのベビーカステラ。

昇からしたら、かつてのかなたは小学生の頃もこんな感じの距離感だったし、アルバイトで再会してから先も、出かければ鞄係をしたし、成人後はオールナイトで飲む仲だった。

春香も優雅と違う昇で、相手がかなたならと言って昇には文句を言わなかったので、2人で会ったりもしていて、かなたのタイミングはよく分かっているので自然体。


そんな姿を見て小岩茂は「お前こそモテモテじゃねぇかよ」と言う。


「俺?なんで?」

「お前、山野の他に桜とまで仲良く家族ぐるみの仲してるし、2人でたこ焼き食べてるし」


「え?俺とかなたは俺とかなただよ?ね?かなた?小学生の頃もこんな感じだったよ」

「うん。私と昇くんは私と昇くんだよね?小学生の頃もこんな感じだったよね」


小岩茂は照れることない2人に、「訳わかんネェ」と言って逆に照れていた。



かなたの両親が「なんて美味さだ」と喜ぶ中、昇が「おじさん、曽房さんから話があるって聞いたけど何?」と声をかけると、小岩巌は「おお、すまないね。曽房の所でも言ってくれていたらしいが、やはりプラ容器は良くないかな?」と言う。


「うん。湿気るし。熱々のを入れるから臭いが移るし、テイクアウトで帰りにソースで汚さないためには大事だけど、やっぱりこのたこ焼きとお好み焼きには勿体無いと思う。椅子は長居するのが出るから、背の高いテーブルとゴミ箱だけ置いて紙皿提供が出来る半イートインを用意した方が良くないかな?」


小岩茂が「なんでお前は詳しいんだよ」と突っ込むと、「読書だよ小岩」と返される。


「だが、ここの通りにテーブルを出して通行の妨げは許されないんだ」

「もう一コマあればそこをテーブルにして、何か売らないとっていうならビールとかお茶とかを売ればいいかなぁ」


昇のコメントを聞いていた小岩巌は「やはりそう思うよな」と言ってたこ焼きを見る。


「おじさん?」

「いや、うちにはもう一コマあってね。まあ売り上げはそんなに悪くないが、俺や曽房の所ほど売れるわけでもないし、廃棄する材料費を考えると3つ繋げてテーブルを置いた方のがいいのかなと思ってね。こういうのは一度手放すと借りるのが大変になるんだ。そこで楠木君の意見が貰いたいと俺と曽房で言っているんだ」


「俺…ガキンチョですよ?」

「アテにしてるよ」


昇は笑顔の小岩巌に逆らえず、「何屋さんなんです?」と聞くと、「ベビーカステラさ」と返ってきて、かなたが「甘くて美味しいですよね!」と言う。


昇は訝しげに「えぇ?おじさんの所の粉物なら美味しいですよね?なんでそんなに売れないんです?」と聞いた昇は、小岩巌の返事を待たずに「小岩、小岩の奢りで買ってきて」と言う。


その目は笑っていない。

小岩茂は文句の一つも言えずに「お金の関係はしないなんて言ってたのに、何なんだくそっ!」と言いながらベビーカステラを取りに行く。小岩巌は「茂、お客様がいなかったら連れて来い」と指示を出すと、五分してベビーカステラと共に入学式や卒業式で周囲を威嚇しまくっていたチンピラ風の男を連れてきた。


かなた達は三津下の見た目にドン引きしたが、昇は前に出ていき無言で小岩茂からベビーカステラを受け取ってひと口食べると「美味しくない」と言った。


昇の横に行き袋ごと貰ったかなたは、ひと口食べて「こんなもんだよね?」と言ったが、昇は首を横に振り「これならテーブルとお茶の方がいい」と言った。


三津下はよくわからない子供のダメ出しにキレて、「あぁ!?ガキが!何言ってくれてんだコラ!」と言い、小岩親子が「三津下!」と注意をしたが、昇は三津下に怯える事なく「外がグニグニ硬い。中は生焼けが残ってる。それなのに外は焦げてる」と言って目の色を変えると、かなたの袋から一つ取り出して三津下の口元に持って行き「食べてみて」と言う。


もはや恫喝に近い言い方に、怯えながら食べる三津下。


「美味しい?もしかして美味しいと思ってる?知ってる?これは美味しくないよ?知らないのなら知って?曽房さんのお好み焼きと、おじさんと小岩のたこ焼きと同じ材料で、こんなになるなんて素材への冒涜だよ。覚えて?美味しいの作れるようになりなよ。これで売ってて何?このくらいでいいとか思ってるなら、もう作っちゃダメだよ。頑張ってます?頑張りましたに意味はないんだ。ベビーカステラって高いよね?俺の小遣いの何割?それなのにやっと買って口に入れてコレだったら天罰が降るよ?天誅だよ」


言うだけ言って顔を戻した昇は「美味しくない!美味しいの食べたい!かなた!帰りに甘党天国で饅頭買おう!」とかなたに言う。

かなたは「いいよー」と言ってニコニコと嬉しそうにしている。


昇の圧にガクブルの三津下は、小岩茂に「坊ちゃん、何アイツ。怖い」と言っていて、「楠木はこえーんだよ」と小岩茂が返していた。


「やはりか」と言った小岩巌は、昇に「ベビーカステラはどうしようか?」と聞き、昇が「看板作ろう。機械の故障中って事にして、後はベビーカステラ修行中って奴」と即答すると「おお、それなら許されるね」と言い採用となる。


「口直しにたこ焼き食べるかい?」

「いいの?」

「ああ、茂の奢りにするよ」

「オヤジ!?」


首を横に振って「ううん。三津下さんの奢りで」と返す昇に、三津下がまた「あぁ!?」と言ったが、怖い顔の昇が現れると「ねぇ?先祖代々と小岩のご先祖様、後は食材の神様に謝ってね?反省文書いて奉納してね。小岩がいいって言うまでやってね。たこ焼きの代金はその一部だよ」と言って黙らせるし、小岩茂に「小岩、キチンと三津下さんが心から反省するまでチェックしてね。もしも甘い心で許したら小岩も同罪だよ。怒ってる俺を思い浮かべて、俺が許したなって思ったら許すんだからね」と新しい宿題まで出して、「おい!?巻き込むなよ!」と言ったが、小岩巌は「それも必要な事だな。楠木君に感謝しろよ茂」と喜んでたこ焼きを焼いた。


余談ではないが、小岩茂の働く姿を見にきたのに昇のキレっぷりをみてしまった元中央小の子達は顔も出せずに帰ると、勝手に「昇にいじめられる可哀想なイケメン」と小岩茂を呼んでしまう。

昇は悪い噂も関係なく「虐めてないよ。悪いのは小岩達だよ。食べ物をバカにしすぎだよ」と言っていた。


昇の提案はうまくいき、3件並んだ小岩家のお店の真ん中はテーブルとゴミ箱になり、奥には「ベビーカステラ修理&修行中、ごめんね」の看板が用意されていた。

本来なら申請と違う店舗を出す事はよろしくないのだが、そこら辺は経験と実績と機転でなんとかしていて、次の土曜日に早速見に来てくれと言われた昇は「これ、お好み焼き食べながらたこ焼き注文とか可能でサイコーだね!」と喜び、小岩茂は「がぁぁぁっ!また忙しくなった!殺される!」と言って壊れていた。

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