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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇変化の実感。

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第28話 確実な変化。

春香と歩きながら前を見ると、たこ焼き屋に小岩茂はいなかった。

厳密には小岩茂は忙しすぎて限界を迎えていて、店の裏側でキャンプで使う椅子に腰掛けて、真っ白な灰になっていた。


「あれ?小岩いないの?」という昇の声が聞こえてきて、父親の「やあ!楠木君!山野さん!」という声が聞こえてくると、途端に再起動した小岩茂は「楠木ィィッ!」と言って立ち上がる。


「あ、いたいた。お疲れー」

「お疲れじゃない!お前が流した噂のせいで、よく知らない女子から『孤高のイケメン』とか呼ばれたし、働く姿が見たいって先週も買いにこられたぞ!」


昇は謝るどころか「おお、俺って売上貢献した偉い奴じゃん」と言うと、小岩巌に「おじさん、俺って役に立ちました?」と聞いて、小岩巌も「バッチリだよ楠木君。曽房のお好み焼きは食べたかい?」と質問する。


「うん。今日は春香がお好み焼きが食べたくて、おかしくなってた俺を助けてくれました。あれ本当に美味くて驚きました」


昇の説明に、小岩茂が「話聞けー!こっち見ろー!」と言うが、全員でスルーをして小岩巌は野山夫妻に挨拶をしている。


挨拶が終わるタイミングで、春香が「食べようよ昇くん」と声をかけて、昇が「うん!」と返すと、春香の母が「たこ焼きを四つ」と注文する。


「出番だぞ茂。楠木君にハーフ&ハーフを見て貰え」

「わかってるよ。見てみろ楠木」


ソースを構える小岩茂に「あ、ちょっと待って」と言って止めた昇は、春香に「春香って俺とシェア大丈夫?」と聞く。



それはかつて付き合う直前に2人で食事をした時の会話。


「春香はシェア大丈夫なの?」

「昇となら平気。誰とでもする訳じゃないよ。こっち食べてみて、それ頂戴」


昇はその日の事を今でも覚えている。

普通に扱ってもらった忘れられない輝かしい過去。



今はまだ早かったかと思ったが聞きたかった。

昇の距離感に春香の両親も少し驚いていたが、春香は「うん。昇くんとは平気。どうしたの?」と返してくれる。


「小岩のハーフ&ハーフも見たいんだけど、一つはソース全開、一つはノーソースにして貰わない?」

「あ、それいいね」


2人の姿に親達は「ならお父さんとお母さんはハーフ&ハーフにしようか?」と言ってくれた。


昇はソースを構える小岩茂に「小岩、最後の一滴まで命を振り絞るんだ」と声をかけると、小岩茂は「もうやり過ぎてヘトヘトだよ」と返してくる。小岩巌は嬉しそうにそれを見てニコニコしていて楽しそうにたこ焼きを焼いていく。


本当に小岩茂の動きは洗練されていて、ビジュアル的にも綺麗なハーフ&ハーフになっていて「おお!レベルアップしてる!」と褒めると、「お前…何百食やったと思ってんだよ。夢にまで出てきてうなされたんだぞ!」と言って目が笑っていない。


「でも頑張ってくれたから美味しいって皆が思ってくれたんだよ。やったじゃん!」

「お前…。この野郎。力尽きていた俺を見て何とも思わないのか?」

「…食べなさすぎなんだよ。食べて体力つけなよ」

「何!?」


ここで小岩巌も「そうだな。もう少し食べないとな」と言うと、小岩茂は「勘弁してくれよ!最近はキチンと食べてるだろ!?」と返す。


「でも小岩、来年の運動会でもあんな姿晒す事になったら、ダメダメイケメンになっちゃうよ?」

「だから楠木はイケメンから離れろよ!」


笑いながらたこ焼きを食べた春香の両親も、たこ焼きのおいしさには驚いていて、今日来れた事を喜んでくれていた。


最後にお参りをして帰る時、「楠木君、私は息子が欲しかったんだ。また会おう」と春香の父が言ってくれた。

その横で「お父さん、昇くんを困らせないで」と春香が言うが、嫌そうな顔はしていない。


昇はまた一つ前に進めた喜びを隠すように、「はい!ありがとうございます。俺も今日は楽しかったです。ご馳走様でした」と言って帰る。


確実に前の世界とは変わっているという自覚があった。

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