第26話 新学期のお好み焼き。
新学期、昇は1番に悪い噂に巻き込まれる。
それは【楠木昇は反社に関わっているから、だからデカい態度を取っている】だったが、小岩茂の一家はテキ屋と不動産業を営んでいるだけで、反社じゃ無かったと早々と真実が周り、噂は1日ももたなかった。
発生源の一木幸平は逆に何も知らないで噂をばら撒いた輩として、更に評判を落としていた。
これが前の世界、西中だったら何故か噂が正しいように蔓延していたが、今の東中では起きなかった。
新学期、悪い噂は西中にも回ったのだろう。夜に小岩茂から電話が入る。
祖母から小岩茂だと聞いた昇は「おう!小岩だ!元気?お手伝いお疲れ様!」と挨拶をしながら電話に出る。
明るい昇に「お前」としか返せない小岩茂に、「どしたの?お正月大変だったから疲れてるの?」と聞くと、小岩茂は悪い噂の話を持ち出して、「それが嫌でお前は来なくなったんだろ!?」と声を荒げた。
昇はなんとなくだが、電話の時からその話なのはわかっていて、笑い飛ばすと「えぇ!?そんなに心配してくれたの?」と言うと、「ハンズフリーにしてよ。曽房さんやおじさんも心配してるよね?」と言ってハンズフリーにさせると、「噂の発生源は一木だったけど俺たちの勝ちだよ小岩」と言う。
「何がだよ?」
「元旦に会って、キチンと小岩が口下手のウルトラ不器用で、誤解を解かなかったせいで皆知らなかったけど、テキ屋さんでたこ焼きが滅茶苦茶美味いって広めといたよ。悪い噂なんて夕方にはなくなってたし、美味さを語ってたことで皆行くと思うから、お手伝い頑張ってね」
「何!?馬鹿野郎!元旦なんてハーフ&ハーフのせいで、久しぶりに売り切れになるまで働いたんだぞ!?また混むのかよ!?」
「にひひ。売り切れまで頑張ったんだ。たこ焼きの美味さをキチンと広めてくれてありがとう」
昇は話しながら周りを気にしていて、「おかしい。曽房さんの笑い声が聞こえてこない」と漏らすと、「修さんはお前が大変な事になったって思って責任感じてるし、お好み焼きを食べに来なかったから、もう俺達と距離を取ろうとしていると思って笑えないんだよ」と説明をする。
「お好み焼き!それだよ!俺さあ小岩とは物とか金を、やり取りする仲になりたくないから貰わなかったけどさ、絶対に小岩の家のお好み焼きなら美味しいだろ?帰り道からずっと気になってて、ちょっと歩いたら『お好み焼き』、またちょっと歩いたら『貰っておけばよかったかなぁ』、『格好つけすぎたかも』って言ってたら、堀切達から俺らしい悩み方だって笑われたりしたわけよ」
昇はオーバーに話しながら、春香が笑ってくれていた事を思い出して少しニヤッとしてしまう。
「なら食べにくればいいじゃないか?」
「馬鹿野郎!俺のお年玉は不況真っ只中!小遣いも月千円!今年はそれでなくても皆で会う機会とか増えるだろうから、お金取っておかないとダメなんだ、だから我慢に我慢を重ねたんだ!一昨日の夕飯なんて我慢の限界で、母さんにお好み焼きを焼いてもらったんだぞ!曽房さんのお好み焼きは絶対美味いだろうけど、俺の小遣いからしたらおいそれと行けないんだよ!」
「え?小遣いってそんなもんなのか?」
「小岩?…それ以上言うなよな。お手伝いしてる小岩はキチンとお小遣い貰って、将来のために取っておけよな」
怖い声の昇にガクブルの小岩茂は「わかった」としか言えないが、まだ曽房の笑い声が聞こえてこない。
「曽房さんが笑ってくれない」
「お前、修さんが笑うなんてそうそうないんだよ」
小岩茂も金銭的な理由だとわかってホッとしていたのだが、「曽房さんの笑い声が聞きたいから小岩に頑張らせる」と昇は言った。
昇は「これからかなたに言って、かなたは中央小の女子で、俺は香川と高松に言う」と言った後で、「今回の不器用小岩は、格好悪い弁解なんてできないからって、悪い噂に騙されないで信じてくれる友達を待つ、孤高のイケメンとして肩肘張っていただけだって言いふらす。小岩は孤高の意味を勘違いして、格好つけるのを間違えて悪ぶってた、ちょっとお茶目さんって言いふらす」と言った。
ここでも曽房が笑わない事を気にした昇は「イケメン目当ての女子達に、キャイキャイと真相を聞かれて赤くなればいいんだ。真っ赤に照れて『きゃー可愛い』とか言われればいいんだ」と言うと、聞いていた曽房は、我慢できずに「ぶふぉ」と吹き出すと、声を出して笑ってしまう。
「よし!曽房さんの笑い声ゲット!」と昇は喜ぶが、たまったものでないのは小岩茂で、「何!?馬鹿野郎!孤高!?やめろって!」と慌てても、昇は「ごめんな小岩、もう決まったんだ。俺、今からかなたに電話するから切るな。曽房さん。今度行くから俺にはちょっと多いところとか入れてね」と言う。
曽房は笑いながら「お待ちしております」と言い、小岩茂が「待て!楠木!俺の話を聞け!おい!?」と言っているのに昇は電話を切って、その足でかなたの所に電話をする。
出たのはかなたの母で「あ、こんばんは。楠木です。かなたいます?」と聞くと、かなたの母は嬉しそうに、「あら、タイミングピッタリね。待っててね」と言ってかなたが出てくる。
「昇くん?どうしたの?」
「あ、かなた?こんばんは。ピッタリって何?」
先に昇が小岩茂への新たな噂話を広めたいから助けてと言うと、かなたは「悪くない?」なんて聞き返しながら笑っている。
「悪くない。アイツが誤解を招いたから、キチンとしないととんでもない目に遭うって身をもって教える。だからよろしく」
「まあいいけど。既に何人かから昇くんは東中でどうなの?って聞かれてたからちょうどいいんだよね」
「それで、かなたのピッタリって何?」
「今度、うちの家族と出かけない?」
「え?何かあるの?」
「あるよ。昇くんが教えてくれたから、お父さん達に成人式の話をしたんだ。早いかもしれないけど着物の予約に行くの」
「え?俺がそこに?」
「うん。それで帰りにたこ焼きとお好み焼き食べない?昇くんがあまりにも食べたがるし、我慢できなくておうちのご飯もお好み焼きにして貰ったって聞いたから、お母さんに言ってみてたの」
昇は堪らず「行く」と言う。
一般的な男の子なら女子と出かける。しかも女子の家族と出かけるというのは憚れる問題かも知れない。
更に西中学校には一木もいた。
だが、今の昇はプラス12歳なので何の問題にもならないし、一木云々を無視しても、逆になぜそんな事を気にしていたのかとバカらしく思ってしまっていた。
「お父さん帰ってきたら予定聞いてみるね」
「よろしくー。くぅー腹減ってきた」
かなたは笑いながら電話を切ると、昇は「お好み焼きゲーット!」と喜び祖父から「うるせーぞ!ニュース聞かせろ馬鹿たれ!」と注意されてしまった。




