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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇変化の実感。

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第21話 運動会。

昇の生活は忙しい。

テストが終われば運動会で、運動に関しては平均的な昇は大した見せ場もなく過ごす事になる。


一年の演目は組体操で、一木幸平は捨て身の行動に出て練習中にあえてピラミッドを崩してみたが、前もって皆で「一木ならやりかねない」と言っていたので、ある種身構えられていて、わざと一木の上に落ちる生徒までいて、一木がアザまみれになるばかりで怪我人は少なかった。


担任が「無事で良かったよ」とホームルームで言った時に、山田真が「一木ならやるかなって思って身構えてたんだよね」とバラしてしまい昇達は背筋が凍った。

担任は「こら、滅多な事は言うものではないよ」と言ったが、今回の事をきっかけとして組体操の内容が変わり、一木の周りは一木一派で固められていて、昇は「露骨だなぁ」と漏らしていた。


やはり昇の運動会の楽しみはフォークダンスで、堂々と春香と手を繋げる事だった。

だがそれは一木も春香と手を繋ぐので、「また一木が春香を困らせないか心配」と漏らすと、春香は「ありがとう昇くん」と言っていた。


運動会はクラス対抗なので、春香とも一木とも敵同士ということになる。

春香は健やかに「負けないよ!」なんて言っているが、昇は春香の怪我や一木からの妨害が心配で仕方なかった。



運動会当日は見事な秋晴れで快晴の二文字がピッタリだった。


かなたは流石にカメラマンになる事は許されずに悶々としていたが、かなたの父が現れるとカメラを借りて「皆!撮るよ!」とやってしまう。

担任が渋い顔をしていたが、カメラスイッチの入ったかなたは無敵だった。


事件という程ではないが、どよめきが起きたのは11時半少し前、声の方を見るとそこには運動会を見にきた小岩茂と香川高松コンビがいた。


昇は「おー!小岩!香川!高松!」と言って手を振ると、3人はやや困り顔で、香川高松コンビが手を振り返す。


昇はそのまま「かなたも手を振ろう!」と誘い、その流れで皆揃って小岩茂に手を振って「振り返せよ小岩ー!」と昇が言うと、「恥ずかしいだろ!」と言いながら手を振り返す。


小岩茂を知る保護者達はそれだけで目を丸くするが、「小岩、あっちに春香も居るよ。手を振ってね」と1組を指して、小岩茂と昇で春香に手を振ると、春香も振り返してくる。

その後ろで、小岩茂を知る春香の両親が、処理落ちしかねない顔をしていて昇は笑ってしまう。


「応援?あんがとね。でもあんまり話してると怒られるから、程々にしてね」

「ちげーよ」


「え?違うの?じゃあ何しにきたの?」

「お前に言われたから、キチンと学校行ってんだよ!勉強もしてんだよ!コイツらには証明してもらう為に呼んだんだよ」


昇は横で怯えた顔をしている高松と香川を見て、「うわ、ありがとね高松、香川」と言うと2人は小さく「大丈夫」と答える。


その顔は全然大丈夫なんかではなく、昇は小岩茂をジト目で見て、「小岩、一応聞くけどさ。『おい、お前達。楠木に証明する為に来い、明日11時半に東中に来いよな?』とか言って、無理やり呼んだ?」と聞くと図星で、昇は高松と香川に「…あんがとね」と言うと、小岩茂に「小岩も無理やり呼んだんだから、ごめんとありがとうを言いなよ」と言う。


小岩茂が「なんで俺が」と返しても、昇は「ごめんなさい」、「ありがとう」の催促しかしない。


小岩茂はキチンと「急についてきてもらってすまない。ありがとう」と言って、ようやく昇は小岩茂に「よし」と言ってから、「香川も高松も小岩は面白いから仲良くね」と言って競技に戻る。


小岩茂は少しだけ淡い期待をしていた。

昼を香川高松と食べられたらと思っていて、小遣いを用意していたが、そもそも香川高松とは小遣いの額が違うし、前もって誘わなかったのだから用意もない。

昼になって「じゃあご飯だから帰るね」と香川高松が帰っていってしまい、ガッカリしながら帰ろうとすると、「おう!小僧!昇の応援か?日曜に偉いな!」と声をかけたのは昇の祖父で、「何やってんだ?」と続ける。


昇の名前が出た事で、昇の祖父だと気付いた小岩茂は、「帰るんだよ。用事は済んだんだ」と言ったが、「馬鹿野郎。お前の飯もある。食ってけ」と言って腕を掴んで学校に連れ戻してしまう。


「はぁ?なんだよ?なんなんだよ?」と言いながら連れ戻された小岩茂は、埃っぽい校庭で昇の一家と昼を食べることになった。


昇の周りには堀切拓実の一家や、かなたの一家、会田晶の一家もいたりして大賑わいで、昇は「春香!春香もこっち来る?」と誘うと、「後で行くー」と聞こえてくる。


昇の横に座らされた小岩茂を堀切拓実達は少しだけ警戒したが、昇が「いやー、小岩が来てくれて嬉しいよ。それに約束守ってくれて学校行ってくれてるなんてな。これで鳥人間のチキンカツと同じくらい好きになれたよ」と話しながら、「堀切は肉屋のコロッケと小岩ならどっち?」と聞くと、「コロッケ。コーンコロッケと小岩なら小岩」と普通を意識しながら話すと、そこから少しずつ打ち解けていく。


「かなた、ね?前に言った通り小岩って話すと普通でしょ?」

「うん。でも昇くんといる時だけかもよ?」


「まあ、小岩もすぐ『あぁ?』とか『んだよ』とか言うからねぇ」と言うと、「小岩、その口癖止めよう」と言い出し、小岩茂が「あぁ!?」と言うと皆が笑う。


祖父が「いいから食え!」と出してきた食事に、小岩茂が「こんなに食えねーよ」と漏らすと、昇はモリモリと食べながら、「うわ、イケメン少食とか狙ってんの?」と質問をする。


「狙ってねーよ。俺は少食なんだよ」と小岩茂が返している時に小岩茂のスマホが鳴り、昇は「おー、懐かしい。廃番モデルだ」と思いながら液晶を見ると曽房修の名前。


あえて「誰?家族?」と聞くと、「修さんだ」と言って通話にするのだが、曽房が「もしもし?坊ちゃん?何処ですか?」と言っている時に、昇が「小岩、俺曽房さんの笑い声聞きたい。スピーカーにして」と言う。


「あぁ?」と聞き返すだけで周りからは笑いが起きて、その真ん中に小岩がいる。

そして声だけで昇がいる事がわかった曽房は、「坊ちゃん?東中に?」と聞いた後で、「ご挨拶しますからスピーカーにしてください」と言われてしまう。


「修さん?えぇ…」と言いながらも、小岩茂がスピーカーにすると昇は、「もしもし、こんにちは。楠木です。小岩が香川高松と応援に来てくれたから、ウチの爺ちゃんが誘ってお昼ご飯食べてます」と言ってしまう。


「え?お昼をいただいているのですか?」

「うん。校庭でうちの家族とか堀切の家族とかかなたの家族…面倒くさいな…皆で食べてます」


曽房はそれをにわかには信じられなかった。

他校の校庭で皆で弁当を食べる。

しかも周りからは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


「坊ちゃんが…ですか?」

「うん。でも少食とか言うんですよ?イケメン少食なんて狙いすぎだから、大喰らいに生まれ変わらせますね」


昇の言葉に小岩が「何ぃ!?無理だ!」と慌てるが、向かいの祖父が「無理は嘘つきの言葉だ食え!若いんだから食え!俺なんか食いたいのに、血圧だのなんだの言われんだぞ!俺の分まで食え!食えない時は俺の顔を思い出して食え!」と言っていて、「マジかよ…」と漏らす声まで聞こえてきてしまう。


曽房は声を上げて笑うと「責任重大ですね」と言った後で、昇に「楠木さん、坊ちゃんは食べ方があまり綺麗ではなくて、私がいつも注意してるんです」と言い、昇はようやく小岩茂が少食な理由がわかる。


「あ!小岩って曽房さんに怒られたくなくて、食べなくしてたから少食なの?子供かよ!?てか子供だから練習して食べられるようになりなよ!」


昇は言いながら「食べにくそうなのは…」と言って、山田真の弁当にある鶏肉のチューリップを見つけて「山田!鶏肉くれない?骨付きって食べにくそうだから、小岩に練習させようよ!代わりに俺の唐揚げあげるからさ!」と言ってトレードして小岩茂の皿に乗せると、皆も楽しくなってきて、それならと言って次々に小岩茂の皿におかずを乗せていく。


目を白黒させながら「無理だって!全部美味そうだけど、食べたら歩けなくなるって」と言う小岩茂はどう見ても子供だった。

その姿に皆微笑ましい気持ちになっていた。


小岩はおかずで山盛りの皿を見ながら「修さん。俺、頑張って食べるけど、多分歩けなくなる…迎えにきて…」と言うと、曽房は嬉しさを隠しながら「はい。すぐに伺います」と言って電話は切られた。

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