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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇好きと言い守ると誓う。

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第20話 大人と子供。

曽房は昇だとわかると「おや?楠木さん?坊ちゃんからお電話が行きませんでしたか?」と聞き、昇が「うん。電話は貰って話はしたんだけどさ」と返す。


そのまま、「曽房さん、またちょっとやらかすから助けてくれる?」と聞くと、「是非よろしくお願いします。坊ちゃんが朝から学校に行ってくれて、皆で喜んでおりました。ですが楠木さんとのお約束が終わったから、もう行かないと言っていたんです」と曽房は返してくる。


昇が「でしょ?だから時間をみて折り返したんです。今回もハンズフリーでお願いしますね」と言うと、曽房は早々にハンズフリーにしてしまい「坊ちゃん!楠木さんからお電話ですよ!」と声をかけた。


小岩茂は「あぁ!?今話したんだぞ!?」と言いながら駆けてきた。


「忘れてたんだよ。ごめんねー」

「ハンズフリー!?」

「いいじゃん。曽房さんの笑い声聞きたいし」

「…何!?」

「聞き忘れた事が少しあってさ、小岩って明日から学校どうすんの?」

「…行かねえよ。早起きなんて懲り懲りだぜ。俺は今晩は夜更かしして朝も思いっきり寝る!」


小岩茂のドヤ顔を想像しながら「あ、それダメになったんだよね」と昇が言うと、小岩茂は「何!?」と聞き返す。


「先に言うとさ、明日からなんて辛いって。今晩も時計見てみ、夜になったら眠くなるしさ、『寝ないとなー』って思うよ?明日もさ8時になったら『あー。もう早い奴は登校してるなぁ』って思うし、8時半、9時半って学校が気になって、チャイムの幻聴まで聞こえてくるから行ったほうがいいって。もう折角だから二学期は全部学校行きなよ。ね?決定!」


小岩茂が「ちっ」と舌打ちしながら聞いていたのに、休むなと言われたところで、「おい!決定とかふざけんなよ!」と慌てるが、曽房は笑いながら「決まってしまいましたね」と賛同してしまう。


「あ、曽房さんの笑い声が聞けた」と喜ぶ昇に、小岩茂が「なんでお前の指図を受けなきゃいけねーんだよ」と怒る。


昇は普通に「香川とか高松とか知ってる?元中央小の奴らなんだけど、他にも何人かがさ、俺と小岩の仲を気にしてたんだよね。だから会えば手を振りあうし、電話もする仲って言っておいたんだ。香川達に聞かれたらチキンカツには負けるけど好かれてるって言っていいよ」と言うと小岩茂は無言になる。


「小岩?」

「お前…、俺なんかと仲良いなんて言ったら良くないぞ?」

「なんで?平気だよ。香川達にも小岩は俺との約束で、学校にキチンと行くようになったんだって言っておいたし。小岩って自粛中でしょ?もうずっと自粛してなよ。キチンと学校行ってさ、皆に聞かれたら楠木に言われて渋々通ってるって言っていいからさ」


しんみりした空気は、また小岩茂の「何!?」で吹き飛び、曽房が声を上げて笑い「責任重大ですね坊ちゃん」と言う。


「後は夜眠れないなら勉強しなよ。今回の中間はどうだった?俺はまあまあ、上から数えて20番以内だよ?俺と同じ高校を目指すなら、今から頑張んなよ。大丈夫だよ。それで眠くなったら寝ればいいんだし。朝目が覚めたら学校行きなよ」

「…やってもうまく行かねえよ」

「いくって。とりあえず毎日宿題やってさ、わかんなかったらわかるところからやりなよ。俺も小6の最後に始めたけど、3年生くらいからわかんなくてやり直したんだよ」


ここで曽房が「坊ちゃん、私は小学校の教科書を残しておきましたからご安心くださいね」と口を挟み、小岩茂は「何!?」と言って卒倒する。


「まあじゃあ勉強は曽房さんにお任せしてと、でもさ、今やっとかないと3年になってからじゃ手遅れだから頑張ってね」

「…もうやだ。電話切るぞ」


疲れましたという気持ちを声に出す小岩茂に、昇は面白くなりながらも笑わないように注意する。


「えぇ?委員会とか聞きたかったのに」

「保健委員だよ」

「おお、困った人を助けるいい人だな」

「サボりてーんだよ。病人いたら保健室に連れて行ってのんびりできるだろ?」

「まあまた香川達には困った人を助けるいい人って言っておくよ」

「やめてくれ!俺をどうするつもりだよ!」


卒倒して壊れていく小岩茂に曽房が笑いながら、「明日も学校に行ってお勉強と委員会活動ですね坊ちゃん」と言うと、「ふざけんな!じゃあな!修さん切っておいてくれ!」と言って小岩茂が立ち去ってしまう。


小岩茂の足音が遠ざかりながら聞こえてくる、「おやおや」と言う曽房の声は少し怖くなっていた。

昇は子供のフリをやめて「曽房さん。少し話せますか?」と聞くと、「何かありますか?私もあります」と言ってハンズフリーを止めると、「目的は?」と怖い声で聞いてくる。

それは13歳に向ける声ではない。


「小岩と同じ高校にいく事」と言った後で、「なんて言えたらいいんですけどね。少しだけ下心があります」と言うと、「隠さないんですか?」と曽房が驚いた声で聞いてくる。


「はい。俺はあの一木幸平が俺達の敵だと思っています。未だに学校でも懲りていません。アイツは何かを諦めていなくて、それは西中をグチャグチャにしたいのかも知れない」

「ですがそれは東中の楠木さんには無関係では?」

「関係ありますよ。元中央小の連中もいるし、また周りを焚き付けて、俺や小岩を狙ってきたら困ります。小岩って話していて思ったけど、約束は守るし周りに気を遣っているし、学校で好き嫌いが流行っても、悪趣味であんまり楽しめないってキチンとしてるし、一木にやられてほしくないです」


曽房は一瞬の間のあとで口を開く。


「楠木さんは一木幸平の好きにさせない為に、坊ちゃんを助けるんですか?」

「はい。それが一木の出鼻を挫く一つになると思うんです。俺の中では、小岩が俺と同じ高校を目指すって一木が聞いたら、間違いなく嫌がらせしてきます。それも嫌なんです」


「何故そこまで?」

「勘です。どうしても一木の目と態度とほんの少ししか関わっていないのに、俺の友達は泣かされてます。だから小岩も困ってほしくなくて、まあ欲を言ったら正義の味方になって、西中の皆を一木から守ってほしいけど、それは言い過ぎなので、まずは一木に狙われないように学校に行って、委員会活動をキチンとしてテストの点数を上げてもらいたいです」


曽房はひと息つくと「難題ですね」と言った。


「一木の方は難題ですけど、小岩ならブツブツ言いながらやってくれると思いますよ」

「わかりました。私としても坊ちゃんの通学には賛成なので、これからもよろしくお願いします」


昇は「よかった。ありがとうございます」と答えると、曽房に「普段の子供子供したお姿は仮の姿ですね?」と言われる。


「いえ、俺がなりたい姿です。子供は子供でいられるなら子供でいた方が幸せなんですよ」と言って電話を終わらせると、春香と結ばれた日、大人になったと実感した日を思い出していた。


共に裸のまま抱きしめ合って眠った夜。

充実した気持ち、大人になった実感に心が昂り、夜中に何度も横に春香がいるという感覚から目が覚めてしまって、昇の方を向いてスヤスヤと眠る春香を見て「もう、自分は子供じゃないんだ。もう弱い自分とは決別する」と自分を奮い立たせた。

あの夜を思い出していた。


大人と子供は案外難しい。生活力はなくても結ばれる事は出来る。

ついムラムラした日には、春香を見ていて抱きしめあって、あの顔と声を今すぐにでも自分のものにしたい欲情に駆られる。

だがまだ自分は毛も生え揃っていない子供で、仮に避妊に失敗したらそれこそ春香を困らせる。

そもそも春香は未知の性に怯えるだろう。強要していいものではない。


だからこそ昇は子供でいる事を選んでいた。

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