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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇好きと言い守ると誓う。
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第18話 小岩茂の好き。

曽房はマメな男で、昇のいない間に起こった出来事を祖父宛に連絡してきた。

それを金曜日に帰宅した昇は聞いて、なんだかなと思う。


被害届は提出されていた。

だが真偽不明のもので謝罪や事実確認、慰謝料の面でも弁護士を立てて相手について調べたら、提出したのは一木の一味ばかりだったので昇は一先ず安心をした。まあ中には一部一木に引きずられ、親の説得をやりきれなかった生徒もいた。


しかもスパイ路線は捨てられないが、帰りのバスでも皆と仲良く歌を歌ったりしていて、とてもスパイに見えない。

一言で評すれば「バカな奴」で、昇は「あー…面倒くさい。移動教室で友達になった奴だよ」と漏らしながら会田晶に電話をして、「会田?お疲れのところごめん。山田と連絡取れない?」と聞きながら、山田が親の説得に失敗していた事を伝えると、「真が?あー…何となくそんな気する」と言ってから、「楠木、真はスパイとかやれる奴じゃないんだ」と言う。


昇は「わかってる。隣のクラスの王子さんに好きとか言っちゃうくらいだしな」と返しながら2人で笑ってから、「山田の事、頼むわ。取り下げの方向に向かえるように声だけかけてみてあげてよ」と言って電話を切った。


山田真は「人として」、「友達として」、と言っているのに勘違いして、わざわざ王子美咲の所に行って好きだと言っていて王子美咲は友達として受け入れていた。

あの抜けた感じが人を笑顔にしている山田真が暗くなるのは嫌だったので、昇は「やれやれだ」と言ってから曽房の所に電話をした。


「こんばんは。楠木です」

「こんばんは。お帰りなさい。お祖父様にお話させて貰った件ですね?」


昇はそうだと返してから、一木一派は全員被害届を出して居たこと、会田晶が信用して声をかけていても出していた、山田真に関しては多分親の説得に失敗してしまったんだと思うと伝えた。


「わかりました。ですがその山田氏は楠木さんがお電話をされる程の方なのですか?」

「まあ移動教室で少し話すようになったんだ。面白い奴ですよ」


「仮に坊ちゃんのお友達としては?とお聞きしてもよろしいですか?」

「あ、言われると思いました。小岩にはなぁ…。山田は少し天然なんで、小岩がイライラして怯えさせそうかも。イライラしないで優しくしてあげられればいい仲になれそうって思いますね」


嬉しそうなリアクションの曽房は「ありがとうございます。お時間はありますか?」と聞いてきた。昇は「あ、小岩ですね。少しなら平気です。でも出来たらその電話ってハンズフリー出来ます?曽房さんにも聞いておいてもらいたいかも」と言った。


曽房は意外そうに「何かあるんですか?」と聞き返し、昇は「少しだけ。簡単に笑ったらダメですよ」と返すと、「はい」と答えた曽房は「坊ちゃん、楠木さんからお電話ですよ!」と小岩を呼ぶ。


小岩茂は「あぁ!?」と言いながらも足早に電話に寄ってきて、曽房が「楠木さんはハンズフリーが御所望です。坊ちゃんはお茶を飲みながらお電話をしてください」と言うと「何でだよ?」と言いながらも「おい」と声をかけてくる。


「おー、小岩ー。ただいまー」

「…お前は何なんだよ?」

「楠木だよ。ただいまー」

「……お帰り」


「よし」と言った昇に小岩が面倒臭そうに舌打ちしながらお茶を飲んだ所で、昇が「小岩って俺の事好き?」と聞いてみる。


盛大にお茶を吹き出す音が聞こえてきて昇は笑い、小岩茂がゲホゲホ言いながら「何言ってんだお前!俺は男だぞ!?」と言う。


「ああ、それ関係ないやつ。一木の奴が移動教室でやらかしてさ、好き嫌いの話が出たから俺は子供として、男女関係なく好き嫌いの話してきたんだよ」

「意味わからねぇ」

「えぇ?言葉のままだって。人類は男と女しかいないのに、そこで分けて半分にしてから自分の性別だけで好き嫌いに分けたら、好きな人が少しになっちゃうだろ?だから俺は男友達の事も好きって言って、皆で移動教室中ずっと好き好き言ってたんだよ」


曽房も聞いていて恐ろしい空間をイメージしてしまっている中、小岩茂は「じゃあお前は俺の事どうなんだよ」と聞いてみる。


曽房は小岩茂がまさかそんな事を聞くなんて思わなかったので目を丸くする中、昇は「え?好きだよ。変に威圧とかしてこなかったら面白いじゃん。でもまだ鳥人間のチキンカツの方が小岩より好きだよ」とごく普通に返すと、小岩茂が「はぁ?」と間の抜けた返事をして曽房は吹き出してしまう。


「だから食べ物も何もかも混ぜて、その中で好き嫌いを言う遊びなんだよ。小岩こそ俺って好き?」と聞き返すと、小岩茂は「…お…おう」とだけ言う。


昇は「素直にならないとチキンカツに勝てないよ」と笑うと、曽房はまた吹き出してしまい、「何なんだよ!?」と言う小岩茂に、「まあいいや。チョコレートと俺ならどっちが好き?って聞こうかと思ったけど今度にしよう」と言うと、「今度もやめてくれ」と小岩茂は言う。


「いや、それは無理なんだな。なかなか流行ったから西中でも流行るか気になったんだよ。流行ったら教えてよ」

「…教えろってお前、そんな事のために連絡したのか?」


「まあ後は被害届の話は曽房さんにしておいたから聞いておいて。それよりも小岩の好き嫌いが気になったから、電話代わってもらったんだよね。あれ?小岩ってこの時間に家に居るの?」

「自粛中だよ。それに外に行きたくても、修さんが移動教室から帰ってきたお前から電話来るかもっていうから、仕方なく待ってたんだよ」


「おお、ありがとね小岩」

「…いいよ別に」


昇が「じゃあ後で曽房さん達にも何より好きか聞いてみなよ」と言うと、聞いていた

曽房は「坊ちゃんの事は大吟醸より好きですよ」と答え、遠くから「俺は水戸黄門より好きだぞ茂」と聞こえてくる。


「あれ?誰かいるの?」

「オヤジがいる」

「あ、曽房さんと小岩だけだと思ってスピーカーにしちゃってた。ごめんなさい!じゃあ小岩、またね」


「またってお前、またかけてくるのかよ?」

「んー…、なんか面白い事があったらね。とりあえず小岩は学校行って好き嫌いが流行ってたら教えてよね。だから電話は小岩が先じゃない?」

「お前、俺が電話するのかよ?」

「え?曽房さんに頼むの?子供らしく生きていきたいけど、それは小学生までじゃない?親が出るかもしれないから『おい』とか『楠木を出せ』なんて言わないで、キチンと『小岩です。昇くんいますか?』ってやってよね」


これにまた曽房が声を出して笑ってしまうと、小岩茂は「わかったよ。お前と話すとなんか俺が子供に戻る気がして困る」と漏らす。


「そう?思ったんだけどさ、俺たちが人間じゃなくて犬だったらさ、常に「う〜」って唸る犬より普段は、大人しいのに許せない時だけ怒った方が良くない?それと同じで子供で居られる間はいて、キチンと大人をしなければいけない時だけやるといいと思うんだよね」


昇の言葉が説教臭くて苛立つ小岩茂が「説教か?俺が常に唸る犬とか言いたいのか?」と聞くと、曽房は慌てて「坊ちゃん!」と制止するが、昇は「違うって。小岩は犬ならキチンと怒る方の犬だろ?ただ常々腹立つ事が多くて怒ってるから唸ってる風に見えるんだよ。普通に話せばこんなに長く話せるだろ?だから俺たちは子供でいて、大人のフリする必要はないって話だよ」と言うと小岩茂の空気が軽くなるのがわかる。


昇はそのタイミングで「とりあえず、小岩が言ってくれるより先に西中で好き嫌いが流行ったのを聞いたら悲しむからね。毎日学校行ってよね」と言うと、小岩茂は「なに!?ふざけんな!」と言ったが、曽房が「それは責任重大ですね」と乗っかってきて、小岩茂は「ふざけんなよ…朝起きられねーよ」と漏らす。


「ああ、朝のホームルームまでにこの手の話ってよくあるよね。後は小岩が威嚇してると皆が好き嫌いの話をしにくいかも知れないから、教室では愛想よくニコニコしててね」

「おい!?楠木!?」

「あ、やっと楠木って呼んだ。じゃあよろしくー。バイバーイ。曽房さん、小岩のお父さんもお邪魔しました」


昇は言うだけ言って電話を切る。

脳裏にはかつて昇を痛めつけた小岩茂と今普通に話せた小岩茂が居る。

ここまできたら、関わりたくなかった気持ちを抑え込んで、諸々を変えようと思っていた。


そう思ったのは一木幸平が東中学校にいたからだ。

距離を置こうとしても関わってきたからだ。


小岩茂を焚きつけて殴るように仕向けてきた一木幸平。

少しでもやる気になると勉強の邪魔をしてきた一木幸平。

周囲の人間より格下だと思わせるまで自信を失わせた一木幸平。

春香と自分の中を引き裂いた一木幸平。

春香と優雅の結婚式に参加する羽目になった原因の一木幸平。

春香と優雅の結婚式で散々笑い者にしてきた一木幸平。


二度と関わりたくないと、この世界では無関係だと思っていた一木幸平は、この世界でも関わってきて、自分だけではなく、かなたや春香を困らせていた。

涙を浮かべて、周りに誰もいなければ今にも泣きそうな春香の顔を見た時、打てる手は全部打って春香を守ろうと心に誓っていた。

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