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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇過去と対峙する。

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第14話 作戦本部は図書室。

その後の話はスムーズだった。

話の最後に昇は小岩と曽房に、「北小学校出身の奴に一木について聞いてみなよ。俺たちの所にはすぐに危険人物って話が来たよ」と説明する。

曽房は「必ずします」と言ってから、「楠木さん」と声をかけてきて、「もし、坊ちゃんのご友人になって貰えませんか?とお声をかけさせてもらったらどうなりますか?」と聞いてきて母親は倒れた。


小岩茂はバツが悪そうに、「こんなのべっとした奴やだよ。ふざけんなよ」と漏らすが、目は満更ではない。


昇は倒れた母親を見て笑いながら、「んー、今は無理かなー。街とかで会ったら声をかける仲ならいいけどね。手を振ったら振り返してくれる?」と言う。

大体の奴らはのらりくらりと誤魔化すのに、昇はキチンとNOと言う。

それでも手を振ると言ってくれて、曽房と小岩茂は嬉しそうな顔をした。


曽房が「残念です。理由を聞いてもよろしいですか?」と聞く横で、小岩茂はどうせ親が反社だからと言われるかと思って顔を暗くするが昇の回答は違う。


「俺の趣味って読書とかなんだよね。そもそも未成年で酒もタバコもやらないし。小岩って本読む?読まなそうなんだよね。だから趣味が違うってのが1つ目。後は俺バカだから今から受験勉強始めてるんだ。小岩と遊ぶと遊ぶ日数が増えて勉強出来なくなりそうだし。学力落とすの困るからってのが2つ目」


「本?」と小岩が聞き返すと、曽房は声を出して笑い、「失礼、確かに坊ちゃんは読めても漫画か絵本くらいですね」と言うと、「志望校は?」と聞いてくる。


「まだないんだ。でも行きたいって思った時に手も足も出ないのは困るから、何処でも行けるように勉強してるんだ」


それは春香と同じ高校に行くため。

本来は春香が進学した東の京高校に行けるだけの学力があれば良かったはずなのだが、祖父母を助けたからか、自身が東中学校に進学したからか、一木幸平やかなたも東中学校に来てしまっている。

その影響が春香にまで出ていて、もっと偏差値の高い高校を目指した場合、後から追いかけることは難しい。

なのですぐに行動に出ていた。


「素晴らしいです。ではもし仮に、坊ちゃんが同じ高校に行けたらご友人になってくれますか?」

「まあ友達ってなるならないとかじゃないけど、話聞いたり話したりとかはするよ。誰かと喧嘩して殴ったとかの怖い話は勘弁だけどさ。後は他にも友達は居るから、俺を独占しようとか思わなきゃ平気だよ。え?小岩って勉強出来んの?顔よし頭よしとか反則じゃない?」


小岩茂は顔を赤くして「変なこと言うな!」と言うと、曽房は嬉しそうに「では楠木さんと同じ高校に行けるように、頑張りましょう坊ちゃん」と言って帰って行った。


祖父はジト目で「おめー、余裕じゃねえかよ」と漏らし、昇は「爺ちゃんが横にいたからに決まってるだろ?さー、勉強頑張って小岩のこない学校目指さなきゃ」と言って笑った。



翌日から東中の中は微妙に荒れた。

担任には小岩茂との話は済んだ。菓子折りも茶封筒も受け取らず、被害届は保留にしたと伝えておく。


あくまで保留で取り下げではない。

ここが重要になる。


荒れたのは一木の周りで、一木は警察に持ちかけられた被害届の話を持ち出して、小岩茂との縁を切ろうとして、元東小学校の連中に被害届を出さないかと持ちかける。


会田晶から話の回っている連中は、「仕返しが怖い」と難色を示すが、一木は「バカ、だから今なんだよ。あの昇が被害届を出して恨まれてる間に、俺たちも出して小岩茂には別荘に行ってもらうんだよ」と話し始める。


一木幸平は昇の想像通り、昇に責任を被せ、仲間を増やすことで自分の罪を軽くしようと画策していた。


元東中の連中でも会田晶達から昇を裏切ると予見されていたメンバー達は、一木幸平に同調して「じゃあ小岩が戻ってきたら?」と聞く。


「その頃には俺たちは高校生とかだろ?接点なんてないし、ああいう手合いは別荘でできた仲間たちと連んだり、家業を継ぐだろ?家業を継いだら、本格的に国に守って貰えばいいんだよ」


一木幸平の言葉をありがたそうに聞くメンバーを見て、一木幸平はそんな事もわからないのかという顔で「それに俺たちは、昇が学校で被害届を出そうって触れ回ってた事のせいで、親たちに逆らえなかったとか、後から心配する手紙の一枚でも送っておけば、小岩ならコロっと騙されるって」と自慢げに語り出す。


会田晶は昇から「あの一木って奴なら、間違いなく俺のせいにしようとか、小岩の事をバカにして、騙せるからなんて言って被害届を出そうって言うと思う。聞いていると余裕そうに聞こえてくるかも知れないけど騙されないで。会田にある程度任せるけど、会田が信じられる奴にだけ、小岩は甘くないし、キチンと取り下げたら今後変に絡まれたりしなくなるって教えてあげて」と言われていた。


なので今まさに昇の言う通りになって目を丸くしてしまう。


会田晶は本当に今回の事で、昇にもしもがあったらと心配したメンバーや、なんとか小岩や一木から離れたいメンバーに、絶対の他言無用と言い聞かせてから、「小岩は一木が言うほど甘くない。でもキチンと昇が小岩と話してくれて、被害届を出さずに殴られた事や金を取られた事を持ち出さなきゃ何もなくなるんだ。でもこれは誰にでも言っていい話じゃない。一木みたいに、人を巻き込んで悪さをする奴達には好き勝手やって貰う。人類皆きょうだいなんて夢なんだ。俺たちは楠木昇と一緒に助かろう」と言っていて、誰も反対をしなかった。


そのメンバー達も、一木の言葉を聞いて驚いてしまうが、顔には出さずに「うん。親と話してみる。親は小岩の家が怖いからどうするか悩んでんだ」と返すと、一木は「皆で手を組んでなんとかしようぜ!それで全責任は昇が取れば良いんだよ!」と言い切って解散となった。


解散になるのは今は教師達に目をつけられていて、集まっていると何を話しているんだと聞かれてしまうからだった。


会田晶は解散して帰るふりをして図書室を目指すと、図書室は大盛況の大賑わいで作戦本部のようになっている。

昇は呆れ顔で「うわ、また人が来た」と言いながら、「あ!会田じゃん!いらっさい」と手を振る。


会田晶は「なにこれ?」と聞くと、春香とかなたは「楠木くんを守る会」、「昇くんがやられると東中はおしまいだからね」と言い、堀切拓実は「元北小学校の連中も、一木の奴なら何しでかしてくるかわからねえけど、まだ何とか想像つくから守るって言ってくれててさ。お陰で友達増えたわ」なんて言っている。


「皆、嬉しいんだけど、修学旅行の用意とか中間とかあるんだけど?」と昇が言っても、「なら勉強会だね」と始まって、皆で図書室を占拠して勉強を始めてしまう。


春香が「楠木くんは理科強かったよね?ここ教えてよ」なんて聞いてきて、昇は昔は春香の方が偏差値高かったのになと思いながら教えると、元北小学校の連中まで聞きにくる。

そして元北小学校の連中は、それこそ学年中から集まっていて、他クラスの情報まで聞けてしまう。


「元東小学校は俺と会田と山野さんだけかぁ」

「仕方ないよ。この集まりを一木が見て、小岩に告げ口とかしてたら困るだろ?」


堀切拓実と会田晶の会話に、春香が「本当、小岩が家まで来るなんて思ったら怖いよね」と言うと、昇を見て「楠木くんは怖かったでしょ?大丈夫だった?」と聞く。


昇は「まあ怖かったけど、一緒にいた家族の人はキチンとしてたし、小岩もキチンと話して言葉が届けば大丈夫な感じだよ。まあ家族の人が小岩に怒った時は、すごい迫力で怖かったし、ウチの母さんは気絶してたよ」と言って母が気絶した時を思い出して笑うと、「おばさん可哀想だよ」とかなたがつっこむ。


ここで堀切拓実が「なあ.今回がうまく行ったらさ」と切り出してきた。


「どしたの堀切?」

「今回がうまく行ったら、東中1年は皆でこんな風にやれるようになるよな?」

「こんな風に?」

「うん。元東小学校とか、元北小学校とか気にしないで、気の合う奴達と仲良くできてさ、それで移動教室行けたらサイコーじゃないかな?」


昇からしても昔には体験していない事。

西中学校では体験しなかったことに身震いして、周りを見て「そうだね。やれたらいいね」と返すと、会田晶が「…俺もいいのかな?」と聞いてきた。


元北小学校の連中まで「当たり前だろ?一木に付き纏われて人が信じられなくなってるだけだって!」と言っていて、会田晶はまた泣いて、「良かった。楠木が無事でよかった」と言っていた。

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