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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇過去と対峙する。
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第10話 小岩茂。

土曜日。かなたは可愛らしい普段着で来ると、入れ違いで祖父母は出かけて行ってしまった。

どこに行くか聞いても、祖父母は教えてくれなかった。


かなたは宿題と、趣味で撮った写真をまとめたアルバムを持ってきて、「良かったら見て感想を教えてよ」と言う。


昇は実の所、前の時間の小学生の頃に前半の1割、中学校入学すぐに前半の更に2割を見せてもらっていたので懐かしい気持ちで眺めた時、一木が中学ではやし立ててきたのもセットで思い出して一瞬憂鬱になる。

だが、明らかに中学からの写真は昔と違っていて、明るいイメージのかなたらしい写真だった。


懐かしい気持ちで「かなたの写真はいつ見ても凄いよね」と言う。


その中で出てくる動物園の写真は、職員に頼んで4人で並んで撮った写真もあってつい見惚れる。


じっくり見たことで、かなたに「欲しい?」と聞かれれば「んー…、大人になったなとは思うし、楽しかったから欲しい気持ちもあるけど、でも部屋に飾って、母さんに見られてアレコレ言われるのは恥ずかしいかな」と返して、「えぇ?お母さんは嬉しいんじゃないかな?」と言われれば確かにと思ったりもする。


実の所、昇はかなたと長時間、アルコールや食べ物のない部屋に2人でいたことがなくて、手持ち無沙汰に困ってしまうかと思ったが、案外馬が合うのか昇が勉強に飽きるタイミングで、「気分転換に何か音楽聞かない?ラジオとかどうかな?」と言われてラジオをかければ、パーソナリティーが読み上げるリスナーの手紙に盛り上がるし、ラジオもダレてくると雑談や勉強の話になり高校の意見交換なんかもする。


「かなたは写真部のある学校にするのか?」

「んー…いくら好きでもそれはなぁ」


前の時間、かなたは写真部目当てで学校を探していたので、この先で変化が生じるのだろうと思っていると「昇くんは?」と聞かれる。


昇の高校時代は、中学に比べたらマシだったが、春香も誰もいない。

学校の中での友達は出来たが、卒業したらそこ止まりだった。

だからこそ、今回は春香が何処に行ってもいいように、学力だけは養うようにしていた。


昇が「まだなんにも。でも、選択肢が欲しいから勉強は頑張ってる」と答えると、かなたは笑顔で「おんなじだね」と言った。


祖父母は夕方4時に帰ってくると、作戦会議だと言ってかなただけを部屋に連れて行ってしまう。


昇が「えぇ!?俺は?」と引き止めると、祖父は「お前には別の重要任務があるから安心しろ。情報漏洩を防ぐんだよ」と言ってかなたを連れて行き、祖母が「お土産に芋羊羹を買ってきたの。食べながら話しましょう」なんて言っている。


昇は芋羊羹すら回ってこずに、部屋でかなたのアルバムを見させてもらう事にする。


何度春香を見ても胸がドキドキする。

そして今も耳の奥に聞こえてくる春香の声。


「ごめんね昇」、「早く昇に会えていたら違っていたのに」


優雅には渡さない。

あのゲリラ豪雨の別れは二度とごめんだ。

昇は写真の春香に向かって「俺達はもう出会った」と呟いていた。



ちなみに、昇への作戦なんてものはなく、祖父は「刺されても何とかなるようにサラシでも巻くか?」と笑い飛ばしてきて、「マジかよ」としか返せなかった。

かなたは昇の母と祖母が送り届けてくれた。


日曜日は祖父母が外に出て散歩をしてみると、それらしいのが近くの公園でたむろをしていたので、「早々にやられるな。明日気をつけとけ」と言われて、「何その熱心さ。ウケる」と軽口を叩いたが、夜には怖くなり「爺ちゃん、サラシ」と言いに行って笑われていた。


いくら2回目の13歳だとしても刺される経験はない。

不安だったが、それでも祖父母や両親、かなたがいてくれて昇は落ち着いていられた。



月曜朝、人間には直感力があるのだなと気付かされる。

朝から本能が通学を拒み、気持ちと身体が重くなるが、祖父が「俺を信じろ。きっとここで変われば、お前の2回目は明るくなる」と声をかけてきて、昇は春香の笑顔を思い出して「うん。行くよ」と言う。


軒先で祖父が「鞄に入れとけ。お守りだ」と言って巾着を渡してくる。

中を見ようとする昇だったが、祖母から「ダメよ。助かったらわかるから」と言われて我慢をする。

異様な空気は外に出てすぐにまとわりつく。

そのまま学校を目指し歩き、家まで逃げ帰れず、学校まで走って逃げる事も難しい中間地点には、遅刻しても通学してきたら珍しかったあの小岩茂が、朝から西中の制服を見に纏った数名を連れてたむろしていた。


「アイツですよ小岩さん」なんて聞こえてくる中、昇はなんで顔知られてるんだ?と思ったが、西中は元中央小学校出身者が多い事を思い出して1人納得をする。


だが自分から向かうのは愚かなので、無視して学校を目指そうとすると、肩に手を置かれて「お前、楠木昇だろ?」と小岩茂から話しかけられた。


「誰?」

「俺の名前は小岩茂。お前が『社会の底辺』だの『救い難いバカ』だのなんだの、コソコソと言ってくれていた小岩茂だよ」


成程、一木は小岩に「バカにしている。悪口を言っている」と吹聴して焚き付けた訳で、しかも一木の機転だろう。この場にいない事で無関係を装うつもりなのかと昇は納得をした。


「そんなことしてないよ」と昇が返しても意味はない。

小岩茂の中では今日は昇を殴ってシメる日と決まっている。


「今更遅えよ。俺は舎弟思いなんだよ。幸平の奴をナメてかかったお前は、どのみちおしまいだ」と言うと、「ついて来い」と言って無理矢理肩を持って学校からどんどん離れた所に連れて行かれる。


チラホラいる周りの生徒たちは、巻き込まれたくないとばかりに、見てみないフリをしていた。だが昇には恨み言はない。自分も同じ立場だったら同じことをしている。


昇は歩きながら「幸平って誰?」と聞くと、「あぁ?とぼけてんのか?一木幸平だよ」と言われて、「一木って3組のかな?金曜日に初めて話したけど、なんかおかしな奴だったよ」と世間話のように返してみるが、小岩茂からは「とぼけんなって」で済まされてしまう。


連れてこられたのは北小学校近くの河原で、北小学校の始業ベルの音に「さよなら皆勤賞」と思ってしまう中、小岩茂が「全裸土下座で俺達と幸平に謝れよ。その動画をばら撒いてやる。後は迷惑料で十万持って来い。断るならヤル気になるまで殴ってやる」と言ったところで、聞こえてくるのはサイレンの音。


「面倒臭い。どうせならこっちにきてくれないかな」と昇が思っていると、2台のパトカーは河原で止まり、警官が昇に目掛けて走ってくる。


昇が「え?」と不思議に思っている間に、あれよあれよと小岩茂達は補導され、昇は保護をされた。


「おい!なんだよ!何もしてねーよ!」と小岩茂が言いながらパトカーに連れて行かれると、そこには祖父がいて「バッチリだったな。餌役ご苦労」と笑いながらスマートフォンを持っている。


「なにそれ?」

「オメーの為に仕方ねぇから買ったんだよ。で、今朝の巾着にはGPSが入ってる。かなたちゃんからオメーの通学経路は聞いておいたから、少しでも道から逸れたらポリスを呼ぶ事にしてたわけよ。俺は納税者様だからな。暴力なんて真似はしないで、国家権力様に守ってもらうんだよ」


ドヤ顔の祖父に昇は「だったら教えてよ」と言うと、祖父は「バーロー、お前なんて大根役者のへたくそ演技だから言える訳ねーだろ」と言って笑っていた。


このやり取りを見た小岩茂は、「ハメやがったな!?覚悟しておけ!」と怒号を飛ばし、警察に「騒ぐな!」と怒られていた。

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