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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆序章・24歳→12歳。
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第1話 人生最悪の結婚式。

人生最悪の結婚式に参列をした。

新郎新婦両方の友人で、参列して2人の門出を見送った。

新郎の勝ち誇った顔。

新婦の幸せそうな顔。


吐き気を催す気分だった。

出欠確認の招待状が届いた時、断る気だったが新郎新婦両方から個別に電話が来て断れなかった。


「春香がどうしても参加して欲しいって言ってるから頼むよ」

「ケジメじゃないけど来て欲しいな」


その言葉には逆らえず、見送りたい気持ちと送り出したい気持ちで参列をした。

周りからは、「よく出るな」と言われたが、「直電きて断れなかった」、「別に終わった話だ」と言って参列をした。


ウェルカムドリンクを飲んでいると、新郎の優雅ゆうがが「きてくれてありがとうのぼる」と声をかけてくる。


「ご祝儀は弾んでおいたよ」

「じゃあ昇の時には倍返しだな」

「やめてくれ、恐れ多い」


2人は和やかに話すが、周りは一触即発に見えてひりついてしまう。


優雅は昇に挨拶を済ませると、他の参列者達にも挨拶をしていく。

その後ろ姿を見て、ウェルカムドリンクで飲んだいた水割りが急に不味く感じる。昇の耳には、あの日聞こえた新婦 春香はるかの「ごめんね昇」の声がリフレインしていた。


「早く昇に会えていたら違っていたのに」


夏のゲリラ豪雨の中、傘もささずにそう言った春香は泣いていたのか、雨で濡れていたのか昇には判別不能だった。


式中はずっとその事ばかりが思い出される。

ほぼ地元同士の結婚式で、共通の友人も多数いるし、中には殊更性格の悪い奴も居て、何かにつけて昇の顔を見てくる。

誓いのキスをする時に、昇の顔を見てニヤついたソイツは、「すごい顔をしてた」と共通の友人達に話して好き勝手に盛り上がる。


コイツはどうあっても昇を笑い物にしたかったのだろう。

まあ参列する時から昇は覚悟をしていた。

だからこそ全てを、「気のせいだろ?」で済ましてしまう。

優雅の趣味か春香の趣味かわからないが、派手婚でお色直しにキャンドルサービスなんかもある。


お色直しは、かつて春香が、「なんとなく」と言って持ってきたブライダル雑誌を、昇の横で開いて「お色直しは赤かな?青もいいね?」と春香が聞き、昇が「青色。春香は赤が好きだから似合うけど、俺からみた春香には青がよく似合うよ」と返し、春香が「そんな気がする」と喜んでいた、あの時に見たような青色のドレス姿で現れて気分が悪くなるし、キャンドルサービスの時、初めて春香と目が合うようにセッティングされた席順だと気付き、優雅から「来てくれてありがとな」とわざわざ言われ、春香から「幸せになるね」と言われた。

周りの連中は火が灯されるキャンドルよりも昇の顔を見ていた。


披露宴の終わり際、皆が二次会だなんだと盛り上がる中、昇は残っても帰っても邪推と揶揄いが待っていて、居心地の悪さから振る舞われた日本酒を浴びるように呑んで、前後不覚になる事で二次会から逃げ出して帰宅をする。


二次会に行かない昇を気遣って、友人の1人が「送るよ」と言ってくれて、酔い覚ましに歩く中、「春香もやり過ぎだよ」と言ってくれた。


救われた気持ちの中、昇は付き合ってくれた事に感謝しながら「ありがとう。かなた」と声をかける。


一木いちき君も悪ノリしすぎだし帰って正解だよ」


一木というのが、誓いのキスやキャンドルサービスで昇の顔を覗き込んで笑い物にしてきた、性格が悪い男。

元々は昇と同じ中学で、高校は別々だったが、高校で優雅と同じ高校になってしまい、共通の友達として長い付き合いになってしまっていた。


今横を歩くかなたは小学校と中学校が同じ友達で、高校こそ別の学校だったが、アルバイト先は偶然同じで付き合いが生まれる。

そのアルバイト先には春香も居た。


昇は「愚痴って楽になりなよ」と言ってくれたかなたに感謝をする形で、過去を振り返って愚痴を言う。


春香と昇が付き合ったのは大学一年の冬。

それまで春香は優雅と付き合っていた。

別に昇が寝取ったとか奪ったとかではなく、元々浮気性で自分優先の優雅が、その場その場の快楽を優先して浮気を繰り返して、春香が愛想を尽かす形で昇は春香の愚痴を聞いているウチに付き合う形になっていた。


春香と優雅の出会いは高校。

高校一年の夏頃には付き合っていて、優雅と遊びに行く為に春香はバイトを始めていた。


春香は優雅との学力差もあり大学が別々になった。それでもなんとか付き合っていたが、浮気の決定的な現場を目撃して、更に浮気相手が学校とバイト先に乗り込んできた事で、春香は優雅に愛想を尽かす。


そしてフリーになってしまった春香は、「ごめん、買い物に行くの一人だと選べなかったりするの、今までは優雅が居たからよかったんだけど、頼めないかな?」と昇に持ちかけるようになり、居心地の良さから出かける回数が増えて、食事にも行くようになり付き合いが始まった。


そんな形の始まりでも昇にとっては幸せだった。


優雅の事は一木経由で高校時代に知り合いになっていた。何回かボーリングなんかに出掛けたりして男同士としては良くも悪くもない間柄だった。

遊びに行くお金を稼ぐ為にアルバイトを見つけてきたら、そこに春香とかなたが居た。


近いような遠いような人間関係の中、春香と昇が付き合う事に優雅は不満気な顔をしたが、どんな事情があっても浮気相手がバイト先に乗り込んできて、泥沼の中お別れしたのは優雅に原因があるのだから自業自得だと皆に言われて、円満に交際解消をした。


昇だからか、相性だからか、春香と昇は傍目に仲睦まじく付き合っていた。

2人とも就職活動を頑張り、お互いの就職祝いもした。

遊びの気持ちもなくて、春香はブライダル雑誌を半分本気の牽制や冷やかし混じりで持ってきて、昇も雑誌の先に見える2人の結婚式に思いを馳せていた。


だがそれは呆気なく終わりを迎える。


昇が研修として地方都市に3ヶ月ほど行っている間に、春香と優雅が再会してしまい、優雅がアプローチを仕掛けた結果、春香は昇が戻る3ヶ月を待てずに優雅の元に戻ってしまった。


それを知った昇は、帰ってきてすぐに春香に真意を問うと、「ごめんなさい」と言われた。ゲリラ豪雨が降る中、傘もささずに「ごめんね昇」、「早く昇に会えていたら違っていたのに」と言われ、昇は未練がましい真似はできないとスッパリと別れを選んだ。


何がいけなかったのか。

自分の落ち度は何処にあったのか、それを口にしてもかなたは「昇くんは間違ってないよ。上田くんが女の子にだらしないのと、春香の態度が曖昧なのが悪いんだよ」と言って「少し飲み直そう」と誘ってくれて、昇の家の側で2人飲みをした。


昇は気が付けば泥酔していて、かなたは「頑張って家まで歩いて」と言って昇に肩を貸して、昇のアパートまで送ってくれると、「引出物は玄関に置くからね。お水飲んで。鍵はポストに入れておくからね」と、アレコレ世話を焼いてくれて、「またね」と言って帰っていく。


かなたの帰った後の部屋で「やべ、散らかってるのにかなた上げちゃった」、「あー、これひどい二日酔いになる奴だ」、「なんで日曜日に結婚式なんてやるんだよ」、「明日の仕事どうしよう」と言いながら昇は眠りについた。


かなたのおかげで、心はだいぶスッキリしていたが、それでも「何かできなかったのか?」、「どうしたら春香と結ばれたのか?」といった疑問が頭の中にあって、出てくる答えは「優雅より先に春香と付き合う」ばかりだった。

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