最終話 オレの未来
「巽さん、いってらっしゃい」
アパートの玄関の前でオレに手を振る笑顔の智子さん。
あの後、部屋を行ったり来たりの半同棲生活が始まった。
お互いにもう少しお金を貯めて、広いマンションに引っ越す予定だ。
オレの再就職も無事決まった。
新しい職場は小さな会社で、給料も正直安い。
でも、オレを見掛けだけで判断するようなひとはいなかった。今や、オレの目つきの悪さは、自分で笑いのネタにしている。
オレはここで初めて気がついた。
これまでの人生、周囲がオレを蔑み続けたが、『蔑むひとの方が異常』だということを。オレは周囲の環境に恵まれてこなかっただけだったのだ。それに気付けたことは、オレにとって凄く大きなことだった。
そして、未来が見えるめがねは、いつしか無くしてしまっていた。あれ以来使っていなかったし、捨てようと思っていたので未練は全く無い。
未来なんて見えない方がいい。見えた未来に惑わされて、自分の人生が狂うだけだ。あの時、ふたりをずっと無視し続けていたら、智子さんの叫び声を無視していたら、さっさと引っ越してしまっていたら……優綺ちゃんを助けられなかったかもしれないし、智子さんと結ばれることもなかっただろう。
もしかしたら大いなる力が働いていて、オレたちの未来は決められているのかもしれない。それでもオレは信じたい。オレたちに新しい未来を切り開ける力があることを。
「パパー、いってらっしゃーい」
ほら、オレの未来が微笑みながら手を振っている。
そして、智子さんにも新しい未来が宿った。
「いってきまーす!」
優綺ちゃんと智子さんに笑顔で手を振りながら、オレは明るい未来に思いを馳せた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おや、アンタも自分の行く末に不安を感じてるのかい?
このめがね、未来が見えるんじゃよ。
五千円でいいよ。買わんかね?
さぁ、未来が見えたらアンタはどうする?
未来に惑わされながら生きていくのか。
新しい未来を切り開きながら生きていくのか。
すべてはアンタ次第じゃ。
どうだい、未来を見てみたいかい?