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第4話:偽りの平和の代償

冷たい夜風が、弘志の頬を刺すように吹き抜けていた。街は静まり返り、煌めくネオンの光が銀座のビル群を照らしている。この街並みが平和に満ちているかのように見える一方で、弘志の心には深い影が落ちていた。連盟が作り上げた「平和」の背後に、どれほどの闇が隠されているのか。その真実を知ってしまった今、平和という言葉の軽さに苛立ちを覚えていた。


昨夜、連盟の影響下にある編集者との対話で得られたのは、曖昧な答えと、真実に近づこうとする彼を包み込む危険の兆しだった。冷たい月明かりの中、彼は静かに誓った。「自分が知り得たこの真実を、闇に埋もれさせるわけにはいかない」と。


翌朝:


朝の光が部屋に差し込み、弘志は静かに目を覚ました。寝不足の体に重さを感じながらも、彼の決意は昨夜よりもさらに強まっていた。彼がこの先進むべき道は明確であり、今や後戻りする余地はなかった。


朝早くに喫茶店に向かうと、そこには健一が待っていた。彼は弘志の様子に気づき、少し眉をひそめた。


「おい、弘志。昨夜、何かあったのか?表情が硬いぞ。」


弘志はため息をつきながら、静かに席に座り、健一に向き合った。「健一、次の手を打つ必要がある。連盟の内部に通じる人物に接触しなければならない。その人物は『真田』という男だ。」


健一はその名前に反応し、しばらくの間、考え込むような表情を浮かべた。「真田……連盟の情報網の深い部分に関わっていると言われているが、接触は相当な危険を伴う。だが、他に方法はないのか?」


弘志は強い眼差しで健一を見つめ、「今の俺にとって、彼に近づく以外に道はない。彼から真実を引き出すことができれば、連盟の背後にある真実が少しずつ明らかになるはずだ」と答えた。


健一は深く頷き、弘志に資料を手渡した。「近々、真田がある国際シンポジウムに出席するという情報がある。その場でなら、彼に接触できるかもしれないが、場所が場所だ。目立たないように動かなければ、すぐに警戒される。」


二人は顔を見合わせ、黙ったまま決意を固めた。健一が視線を逸らさず、低い声で言った。「弘志、覚悟しているとは思うが、連盟の手は想像以上に深い。君が挑む相手は、人々の意識そのものを操ろうとしている存在だ。もし危険を感じたら、無理をするな。」


弘志は微笑みを浮かべ、静かに頷いた。「分かっている。だが、ここまで来た以上、俺は引き返すつもりはない。」


その言葉に、健一も微かに笑みを浮かべ、二人は固く握手を交わした。


夜、シンポジウムの会場:


その夜、弘志はシンポジウムの会場に足を踏み入れた。豪華なホテルの一角に設けられた会場は、控えめな照明が場を包み込み、静かな高級感が漂っていた。周囲には様々な分野のエリートたちが集まり、口元には笑みを浮かべながらも、どこか緊張感が感じられる。


弘志は人混みに紛れ、自然な振る舞いで真田の姿を探した。しばらくして、奥の方で立っている真田を見つけた。年配で引き締まった表情、鋭い眼差し——その姿は威圧感すら漂わせ、周囲の人々も自然と距離を保っているようだった。


「ここで接触しなければ、次のチャンスはないかもしれない……。」


そう心に決めた弘志は、真田のそばに静かに近づき、深呼吸をして意を決した。


「失礼します、真田さんでいらっしゃいますか?」


真田は冷静に振り返り、弘志に冷たい視線を向けた。その眼差しには鋭い警戒が込められているが、弘志は動じることなく、その視線を受け止めた。


「私は真田だが……君は?」


「中村と申します。ジャーナリストです。少しお話を伺いたいのですが、お時間をいただけませんか?」


真田はしばらくの間、弘志を見つめ続けていたが、やがてゆっくりと頷き、彼に目で合図を送った。弘志はその示された方向へと歩みを進め、二人は会場の端の静かな場所へと向かった。


周囲の喧騒から遠ざかると、真田は低い声で問いかけた。「君が何を求めているか、察しはついている。だが、君の探っているその先にあるものは、誰にとっても得策ではない。」


弘志は緊張を抑えながらも、強い意志で真田を見つめ返した。「それでも、知るべきだと思っています。人々が『平和』と信じているものが、偽りであるなら、それを知る権利があるはずです。」


真田の目が一瞬揺れ、どこか悲しみを帯びた表情が現れた。彼は小さくため息をつき、視線を遠くにやった。


「君のような者が現れるとは思わなかった。だが、覚えておけ。真実が必ずしも幸福をもたらすわけではない。時には、無知であることが救いであることもある。」


弘志は、その言葉に一瞬ためらいを感じたが、それでも信念を崩さなかった。「誰かが真実を隠し続ければ、本当の自由は存在しないのではないですか?それを判断するのは、個々の人々であるべきです。」


真田は再び弘志を見つめ、しばらく無言で立っていた。そして、静かに口を開いた。「君のような者がいることは知っている。だが、それでも何も変わらなかった。それほど、連盟の力は強大だ。」


その言葉に、弘志は言葉を失った。しかし、真田は再び口を開き、低い声で呟くように言った。


「だが、君の覚悟を試してみたい気持ちになった。」そう言って、真田はポケットから小さな紙片を取り出し、弘志に手渡した。


「これは……?」


「君がその先を知るための手がかりだ。だが、これを使うということは、決して容易なことではない。」


弘志はその紙片を見つめ、深く一礼してから真田を見上げた。「ありがとうございます。この選択がどんな結果をもたらすか分かりませんが、俺は進みます。」


真田は静かに頷き、彼を見送るように視線を逸らした。その目には、何かを悟ったかのような憂いが漂っていた。


夜の帰路:


静寂の中、弘志はシンポジウムの会場を後にし、夜の街を一人歩いていた。手に握りしめた紙片を見つめ、その重みを感じていた。そこにはある住所とわずかな指示が記されており、それが連盟の秘密施設であることを確信した。


月明かりに照らされる静かな街並みが、彼の決意を一層引き立てていた。平和の裏に潜む闇、そこに待ち受ける危険——それらすべてが、今や彼の中で一つの真実に繋がりつつあった。


「俺は進む。どんな代償を払っても、この真実を明かす。」


弘志は静かに心に誓い、ゆっくりと歩みを進めた。その背後には、無言の夜の静寂が、彼の覚悟を見守るように漂っていた。

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