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神々のラノベ創造  作者: 一条アル彦


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今夜月の見える館で(7)

「無理!かっこいいだけじゃ全然タイプじゃないよ。彼氏候補には程遠いねー」

 ……なんでえ、そうなのか。そうだよな。こんなおかしな男に惚れる訳はないよな。小花はこう見えてしっかりと人を見る目があるんだよ。いや、分かってたよ。うん。

 俺にニヤニヤした視線を送りながら、奈子が小花に耳打ちする。

「ほら、直君の顔見てごらん。もう態度が軟化してるよ」

「ほんとだ。ふにゃふにゃだ。さっきまですっごい険しい顔してたのに。え、なに、てゆうことは、そんな理由でいちウスさん危険視されてたの?」

 しょーがねえだろ。そこ最重要課題なんだよ。小花の彼氏になるなら俺を倒して奪って行かなきゃならないわけだが、この男ときたら不思議能力一発で俺の(しかばね)を乗り越えて行きそうだからな。でも小花が相手にしなきゃ、そもそもこの問題は発生しない。だからこいつが悪魔だとかはもうどうでもよくなった。

 奈子と小花から注がれる視線がチクチクする。あっさりと見透かされたのがいたたまれなくなって顔を背け、乱暴に話をぶった切った。

「だーっ、もういいだろ。おい、いちウスつったか、飯食わせてやるから(ウチ)入れ」

「ありがとう。世話になるよ。でも心配はいらない、食事だけいただけたら僕は立ち去るよ。先ずは暮らしを立てるために職を求めるとしよう」

 自分から断りやがった。思い返すと、この男からは食事や居候を要求していない。それでも、小花は(しぼ)んだ目で俺に訴える。

「直さん、泊めてあげようよぉ。こんな格好してたらどこにも雇ってもらえないし、部屋も貸してくれないし、絶対路頭に迷っちゃうよぉ」

 まあ、そうだろうな。小花の予想は概ね正しい。ああもう、小花にこんな顔させたのはこの男か、それとも俺か。

「いちウスよ、お前、その身ひとつでこの世に降臨したのか」

「おっしゃる通り。この(ころも)以外に所持品はない。降臨に先立って衣服だけは着用しろと忠告を受けたことがあるのだ」

 その忠告の主には食料と路銀も携えるように伝えて欲しかったところだが、ダビデ像みたいに丸出しで現れることを思ったら服を着ろと言っただけでもファインプレーか。

「いいか、いちウス。小花もよく聞け。つまるところ、お前って無戸籍だろ。住民票がなければ身分証明ができないから職には就けないし住処(すみか)も借りられない。その恰好とかの問題じゃねえんだ。もちろん職安とか、諸々(もろもろ)の行政サービスも受けられないし、免許も取れない健康保険も加入できない」

 現実は小花が考えるよりずっと厳しい。それを突き付けられても、いちウスは他人事のように平然としているが、代わりに小花が途方に暮れるように言葉を返せないでいる。

「戸籍がなくても住民票は作れんでもないが、生まれた場所とか親の名前とか出自が明らかにできなければかなり難しい。いちウス、降臨したってことは、お前この世とは違うどこかから来て、この世に親はいないんだよな」

「お察しの通り。この世どころか、どの世にもいない。僕は自力でこの体をこの状態で構築し、単独で発生した」

「だったら、行政の対応としては記憶喪失の行き倒れみたいな扱いになるだろう。行旅病人(こうりょびょうにん)ってやつだ。多分病院に連れて行かれて、『おかしな妄言を口走る全生活史健忘』とか診断されるだろう。それと並行して指紋やDNAで全国の行方不明者との照合なんかもする。今日この世界に降り立ったのなら当然合致することはない。記憶喪失の回復を期待して二、三年は施設で様子見して、それでも記憶が戻らず身元も判明しなければ仕方ない、そこでやっと戸籍を作るために裁判所に就籍(しゅうせき)の申し立てをする。まあ、こんな流れだ」

「物知りだねえ。行き倒れる前に役所を訪れるとしよう」

 いちウスは感心してみせたが、たまたまそういう小説を読んだことがあるだけだ。

 小花、そんなにしょんぼりするんじゃねえ。道のりは険しくても、社会はちゃんと救済の道を用意しているってことでもあるんだから。

 俺は屈んで小花の目を正面に見据え、その小さな肩をそっと叩いた。

「この世界で暮らしを立てるのはそれくらい、それ以上に大変だ。小花、分かるか、服着替えて一晩泊ってもどうにかなるもんじゃねえよ」立ち上がり、次にいちウスに向き直る「……だからいちウス、お前しばらくここに住め。押し入れよりは上等なベッドで寝かせてやるよ」

 (うつむ)いて(しお)れていた小さな花が今、スコールを浴びたみたいに、見る見る明るく華やぐのが横目に見えた。

「わーやったあぁー! 直さん大好きぃー!」

 言って俺の背中にかぶりつくような勢いで飛びついてきた。そして予想はしていたが、尋常ではない力で締め付けてくる。だが苦しい素振りは絶対に見せない。やせ我慢は男の矜持だ。

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