初夏の日(7)
まだ誰も作品を書いていない体で話をしているが、素朴な疑問がこぼれる。
「なあ、御伽って今、神ラノの連載書いてるじゃん。これってラノベ創造してることにはなんないのか」
いちウスに訊いたつもりだったが、御伽が答える。
「これは違うでしょ。だって活動記録だから創造してない。だから小説じゃない。いちウが執筆を頼んできたときジャンルは随筆って言ったわよ」
「でもあん時いちウスはラノベで書くとも言ったぜ」
今度こそいちウスに向けて訊いた。
「ラノベっぽく書いてほしいという意味で言った。でもこじつけるなら、この物語は事実を元にフィクションを交えたライトな小説です、と言っておこう」
「案外うまく言えてるわ。間違ってない、ラノベよね」
すみれのラノベ認定を得た。
「うん。読んでて思うけど、エッセイの書き方じゃないよね」
小花も同意したと考えていいだろう。
「だったらラノベ創造してるって言いきっていいんじゃねえかな」
顔色を窺うようにいちウスを覗き込んで、もう一度是非を質した。
「あくまでサークル主宰者としての考え方なのだが、以前言った通り、異世界創っちゃえるくらいの想像力で書かれたものが対象と考える。そして作者はその世界の神となる」
こいつデスノート持たせちゃダメなやつだ。
俺はただ、御伽を創作者と認めたい。だって御伽頑張ってるじゃん。なのにこれは違う、規定に該当しないとか、一刀両断に否定するの嫌なんだよな。つっても、御伽本人が違うって言ってるから、これ以上食い下がっても仕方ないんだけど。
「別に神ラノが認定されなくってもー、御伽ちゃんならすっごいの書くよ、絶対」
小花が期待を込めて言った。そーだ、そーだ。今に見てろよ。心で呟いて、何度も頷いた。
小花に話を合わせて俺も囃し立てる。
「このまま御伽が賞獲るくらいの作家になったらさ、神ラノは御伽の自叙伝みたいになるな」
自分で言って、それはそれで悪くないなと思えた。
「だったら、みんなが作家になったときのことも考えて、みんなの自叙伝も欲しいよね。みんなにも神ラノ執筆してもらおうか」
すごい提案で返された、御伽のこれジョークで言ってない。からかってるわけでもない、大マジの顔だ。
「俺らも書くの?」
無理だと思うと付け足したかったが、呑み込んだ。御伽だって無理を推して書いている。そう考えたら、俺が無理だと口にするなんておこがましい。
「自分で書かなきゃ自叙伝とは言えないでしょ」
話に水を差したくないので口には出さないが、実のところ俺は作家になりたいとまでは思ってない。サークルの活動として作品を作りたいって気持ちは本気だ。だから真剣に取り組む。が、これを将来の職業にしたいとまでは今は考えられない。
「くっ、創作のカケラも見えてこない俺に自叙伝なんて。大それた話だし荷が重い、勘弁してくれよお」
ホントに大それてて勘弁して欲しかったので、おどけた調子でごまかした。
気がつけば勉強会はすっかり雑談にシフトしてしまっている。そろそろ軌道修正が入りそうなので、おどけたついでにあと一発だけ悪ノリに付き合ってもらおう。この相方は小花にしか務まらない。黒い尻尾のイタズラ邪神に身をゆだねる。
「自叙伝って言えばさあ、小花あ、自叙伝って言ってみ」
せっかくネタを振ってやったのに、小花は変態みたいなイヤラシイ目で笑っている。なんだそのリアクションは。
「ムフフー、さすがにこれはミスらないよ、全然ムズくないもん」
確かにちょっと簡単すぎたか。どう間違えるかイメージできねえもんな。ん-と、じょじょでん、とか? 奇妙だ。
小花は変な目のまま、一つ咳ばらいをして続ける。やったるでぇー、とか思ってそう。
「……」 いちいち溜めんな。 「……デデン、デン、デデン!」
そう来たか。かなりブッ飛んだネタで返されて思わず吹いちまった。
「ぶははは! なんだそのミスり方、さすがに無理あんだろ! それって思っきりターミネーターじゃ……」
……
ん? あれ?
機械仕掛けの骸骨が、ふと頭に浮かんだところで、俺は言葉に詰まった。
違うな、詰まったんじゃなくって、考えることに集中しすぎて話すのをやめた。俺の頭の中はそれどころじゃなくなっていた。骸骨のイメージが膨らんで、爆発するみたいに世界が広がる。それが溢れ出して自分で止められない。そんな感じ。




