初夏の日(6)
「だってさ、魔人みたいのに生まれ変わるのに、ま、ま、交わったりとか、乳房がどうとかあるんだよ! そんなエッチなの抜きにして変身すればいいじゃん! 要んの? それ」
「うっひひー、蘭ちゃーん、思春期だー」また小花は嬉しそうに囃し立てる。「でも私これ映画で知ってるよー。沢田研二が天草四郎で出てるやつだよね、ちょいちょいエロいよね!」
「小花、それすごく古い昭和の映画じゃない? 私が知ってる天草四郎は窪塚洋介なのだけど」
すみれも知ってんのか。てか、お前らエロいの気にならないの?
「小花ちゃん、茶化さないの。蘭がどうしてもソコ気になっちゃうのは仕方ないよ」御伽は最初小花の方を見てそう言ってから、視線を俺に向けた。「そういう設定とか描写が要るのかと言われると、要るんじゃないかな。その生まれ変わりの儀式みたいのが人道に外れた外法なんだとか、その悪者?の人たちが常人には理解し難い価値観で行動する連中だとか、そんな印象を読者に伝えたいんだったら、ちょっと異常なことする方が伝わるよね」
「なあるほどぉ……確かに読んでてトチ狂った連中だなと思ったぜ」
俺は感嘆の息を混ぜながら納得の言葉を漏らした。俺が感嘆したのは作者の表現だけじゃなくて御伽に対してもだ。御伽はこの本読んでもいないのに「著者の叙述の工夫」を読み取った。それは今回の宿題の真の課題だ。御伽って何気にすごくない?
「ただ、それがエッチな描写でなくちゃダメかって考えると、エッチじゃない表現も可能と言えば可能だよね。あえてエロ側に寄せたのは男子中学生とかにウケるためかもしれない。さっき蘭がはにかんだ時の小花ちゃんのはしゃぎよう覚えてる? あんな感じで男の子にウケちゃうなら、そりゃ狙って書くでしょ」
御伽の解説に、小花が俺に先んじて「なるほどー」と納得の声を漏らす。
なるほどじゃねえ。御伽はそういうが、それで女子高生が恥ずかしがるのはいいのかよ。俺が書くときそんなの書けるかなー、著者の自由だよな、少年ウケを狙わないんなら書かなくてもいいよな。
「じゃあ、そこは仕方ないってことで諦めて読むよ」
腹をくくったつもりだったが、俺は少しうなだれて言った。それを見て御伽が「面白く、ない?」と俺に問う。
ゆっくりと問いかける御伽の声から、面白くないなら読まなくてもいいとの含みを感じる。でも決してそんなことはないんだ。
「それは、ああ、面白いよ。面白くなきゃ頑張って読んだりしねえよ。名だたる剣豪が生まれ変わって敵となって戦うんだぜ。奇想天外っていうのか、ホントよくこんなこと思いつくよな。これ六十年前に書かれたんだぜ」
ちなみに今言ったのが俺の正直な感想だ。作者の発想の奇抜さに感服したんだ。
「歴代のライダーとかプリキュアが勢ぞろいするスペシャル回みたいなアレと一緒だ!」
「言われてみればそうね。オールスターゲームみたいなものね」
小花とすみれが似たようなシチュを例示してくれたが、なるほど、ある意味定番の盛り上げ方ってことか。
「いちウスが大好きなFateも魔術で過去の英霊を召喚する話だもんね」
御伽が俺の知らないアニメネタでいちウスに話を振る。こっち方面に話が傾くと俺とすみれは付いていけなくなる。
「Fateの那須きのこ先生も、Fateは魔界転生のオマージュと言い切っておられる。蘭はいい本を選んだね」
いちウスのオタ知識も負けていない。定番じゃなくて元祖ってことか。半世紀以上経ってなお今の作品に影響を与える、改めてすげえ作品なんだと思えた。御伽も魔界転生のすごさに認識を改めたみたいだ。
「へえ、そうなんだ。結構すごい作品なんだね。蘭は知っててこの本を選んだの?」
「俺がそんな通なわけねえだろ。御伽に言われた通り、直感だ。ほんとそれだけだ。タイトルを見た瞬間、魔界っていう異世界に生まれ変わる話を想像したんだ。転生する異世界が魔界ってだけで、そこがなんかすげえ刺さったんだ」
「転生先の異世界が魔界って話は、私の知ってる範囲では思いつかないわね。蘭はそこに惹かれたんだ」
「ああ。でも全然違ったんだけどね。異世界行かない」
「神々のラノベ創造もタイトルの印象と内容が全然違うよねー」
小花が不意に痛いところを突いてくる。まだ誰もラノベを創造していないし、その見込みもないから、確かに今んとこタイトルに偽りありだ。御伽をはじめメンバーは特に気にしちゃいないんだが、いちウスだけは自分がコトを始めた手前気にしているみたいだ。
「ぐ……君たちが作品を創ればタイトル通りになるんですけど」
いちウスの主張は他力本願だが、本人にその自覚があるのか、いちウスは目を伏せて遠慮がちに言った。
だからと言っていきなり作品が書けるわけもないから、気負わずマイペースでやってはいるが、俺たちだって誰かが作品を書くのを待ち望んでいる。多分創作に一番近いのは御伽だ。期待を込めて御伽に意気込みを問う。
「だからこうやってべんきょーしてんじゃねえか、なあ御伽」
「そうね。いつか必ずタイトル通りにならなきゃね」
そう答えた御伽の曇りのない眼差しは、息を吞むほどに印象的だった。




