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神々のラノベ創造  作者: 一条アル彦


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初夏の日(2)

「いちウスの言葉を真に受けると、みんなの心には秘めた物語があって、創作のためにそれを引き出さなきゃならない。さらにその物語は異世界として展開可能になる、らしいのよね。と、いうことは、みんなが秘めている物語は、『異世界もの』なのではないかと考えています」

 御伽の熱のこもった講義で勉強会は始まった。小説ド素人の俺たちのために御伽が週末に開いてくれている。御伽が言うには、自分もド素人に毛が生えた程度だそうだが、俺からすればその毛はもじゃもじゃで頼もしい限りだ。御伽本人は気づいてないかもだが、勉強会のときの話し方は割と先生っぽい。最初は頑なにリーダーの役を拒んではいたが、今では実質的に俺たちを引っ張っていく存在になっている。いちウスのことも最初こそ怪しむような目で見ていたが、最近はいちウスの突飛な話が正しいという前提で話を進めることが多い。

「質問。異世界ものって何かしら」

 すみれの質問が飛ぶ。すみれも俺と一緒でライトノベルとかの用語に長けてないから、何かと用語解説を求ることが多い。もちろん俺も『異世界もの』の意味はよくわからん。

「ラノベのジャンルの一つなんだけど、例えば私たちが住む世界の人物が、何らかの事情で異世界に行ったり生まれ変わったりして始まる物語です。お決まりのパターンとして、主人公がトラックに轢かれて死亡し、女神が特殊能力を授けたうえで異世界にて新たな生を与える、という異世界転生テンプレートがあります」

 スラスラと御伽が答える。そういうジャンルということですみれは納得したみたいだ。

 なるほど夜中にそんな感じのタイトルのアニメやってるよな。今どきの流行りなわけだ。時間帯だけにイカガワしい番組だと思っていたが、そうでもないのか。ちょっと訊いてみる。

「夜中にやってるアニメとかのやつ?見たことはねえんだけど」

「そうだよー、私は録画して視たことあるよ」

 小花が知ったような顔で答える。小花が視るくらいだから健全なやつなのか。

「で、仮にみんなが書くのが異世界ものだとしたら、このジャンルを理解しなければなりません。すみれさんも蘭も異世界ものが分からないなら、百聞は一見に如かず、異世界転生する小説を読んでみましょう」

 御伽が課題っぽいことを言いだした。ますます先生みてえだ。

「アニメとか漫画じゃだめなの?」

 小花、字ぃだけの本読むの避けようとしてるな。

「うん。小花ちゃんはジャンルとしては分かってるかもしれないけど、いつか自分で書くなら文章という形で物語に触れる方がいいと思う」

 そりゃ理にかなっている。俺としても(うなず)くしかねえ。小花も「ふーん」と軽い返事で、読むのを嫌がってるって程ではなさそうだ。

「あと、読むときは『自分にこれが書けるか』という意識を持って読んでほしい」

「うーん、九分九厘『無理です』って思いながら読むことになりそうなのだけど」

 すみれが苦い顔で反論する。実際俺もそうなるだろうな。小説を教材にした国語の授業で習うのは読解であって、それを書けるようになるためのものじゃなかった。

「大丈夫、普通そうです。自分にはこの発想は無理だと思いながらも、こんな発想があるのかと見識は深まる。自分が書いたらこの結末に帰着しただろうか。この結末にしたいがためにこの始まり方が書けるか。なぜこの描写を入れた。この描写のあるなしで印象がどう違うか。などなど、全部『無理です』でいいけど、著者が叙述でどんなに工夫や苦労をしてるかを、物語の内容とは別に読み取ってみてほしい」

 すげえ事言い出すやつだ、御伽は。要求事項が学校(がっこ)の先公の遥か上を行ってる。ただ漫然と本を読むんじゃなくて、書くことを意識して読めってか。読書という行為のハードルが爆上がりしてんぞ。すみれも読書するだけなのに、えも言われぬ緊張感を漂わせている。小花は平然と動じない様子だが、ちゃんと聞いてるのか心配になる。

「著者の叙述の工夫を読む、か……」

 御伽の話を声に出して反芻(はんすう)してみて余計に緊張しちまったが、言ってひとつ、閃いた。ヒヒヒ。

「なあ小花、ちょっと……著者って言ってみ」

「ん?ちょちゃ」

 サラッと期待通りの言えてなさ。だが、あえて笑いは(こら)える。すみれは緊張感を引きずっていてノーリアクションだ。御伽は先生モード継続だが、絶対に笑ってはいけないモードに入ったとみえる。ふふふ、こっからが本番だ。

「うにゃー! 言えてないー」

 小花が頭を抱えて悔しがる。では、挽回のチャンスを与えよう。

「じゃ次、叙述って言ってみて」

 小花の鼻息に「次はミスるもんか」との意気込みを感じる。心の中で何度も唱えているのか少し間を置いて、唇を咥えて湿らせ、生唾を飲んで、いざ、

「じょ、じょじゅちゅ」

 ぷっ。アカン、アウトぉ。三人一斉に吹いてしまった。

「もー何なの何なの。御伽ちゃんの話ちゃんと聞こうよっ」

 小花が熱を出した子供みたいに頬を赤らめて話を逸らす。あんだけ身構えても言えないとは、期待以上だ。思惑通りに緊張もほぐれたし。

「あっはっは、悪りい。緊張感を何とかしたくなって、つい。えと、なんだっけ、ちょちゃのじょじゅちゅを意識して読めって話だよな」

「ムキーーー!」

 両の拳を振り上げて激オコアピールの小花。笑いを堪える御伽はちょっと待ってと掌を向ける仕草。笑いの波が()ぐのを待って、一呼吸おいて御伽が話す。

「そういう読み方をすると時間もかかるから、先ずは一回楽しんで読んでから、もう一回叙述を噛みしめて読むといいかもね。それか、短いので分析の練習をしてもいい」

「短いのって、例えば?」

 すみれは実用的な質問をしてくれるので助かる。

「前の勉強会で使った走れメロスとか。羅生門とかもすぐに読めちゃう。フリーで読めるアプリとかあるし」

 教科書に載るようなやつを題材に選べばいいってことか。でも、さすがに異世界ものは教科書にはないだろう。

「んじゃ、異世界ものとかは何読んだらいいんだ。俺とすみれはこういうの全然分からねえ」

「それは自分で探してみてほしい。ピンと来るというか、琴線に触れるというか、直感で選んだもののこそが心に秘めたものを引き出すヒントになるんじゃないかなって思う」

「いや、本屋でも多分ジャンル分けされてねえよな。裏表紙に主人公は異世界に転生しますとか書いちゃねえだろうし」

「ライト文芸コーナーに行けばいっぱいあるよ。でも普通の文芸作家さんでもそういう筋の話もあるし、古い作家さんとか海外の作家さんのでもある。不思議の国のアリスなんて正にそれだもん」

「うおー、ますます選べねえ。簡単に言うなよー」

「そんな構えなくっていいよ。直感でいいんだから気軽に探そう」

 御伽はそう言うが、何でもいいからと適当に選んじゃダメな気がする。直感ってもなあ、タイトルとか表紙でしか選びようがねえ。

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