きっと素晴らしい部屋になるんだ(13)
金髪イケメンに加えてあの優美な所作。うーん、例えば……「さる王国の王子がお忍びで日本を訪れ、些細な偶然から日本人の女性と出会う。ほどなく二人は激しい恋に落ちるが、周囲の人々はそれを認めず、やがて二人の仲は引き裂かれる。しかし、彼女のお腹には、二人の愛の結晶が……」
うんうん、いーんじゃない! どこかの休日で聞いたことのある気もする話だけど、導入としては悪くないわね。
「彼女は身内の反対を恐れ、それまでの裕福な生活を捨てて独りで子を産み、育てる決意をする。そうして生まれた子がいちウス。しかし、その子が物心つく少し前、つつましく暮らす彼女のもとに王国の使者がやってくる……」
って、イイところで来週に続くのよ! 引きがベタすぎて来週の展開が丸わかりね!
「使者は話す。彼女が愛した王子は死んだ。いや、おそらくは殺された。いまや王位継承権は、遠縁の貴族で悪童と呼ばれたディオニスに委ねられようとしている。暴君の誕生を阻止できるのは、王子の正統な血を引くいちウスしかいない。それが王子の遺志だと説得され、彼女はいちウスを手放すのだった。そしてまだ母の顔も覚束ないままのいちウスは王国へと旅立っていく……」
ふう。いろいろとパクっちゃったかもだけど、物語なんてそんなものよね。
「時は流れ、成人し戴冠をむかえる直前になって、再び権力闘争に見舞われる。狡猾な相手の謀略によりいちウスは王国を追われ、生まれた国、日本へと逃れてきた」
うう……クスン。そんな事情が……いちウスかわいそう……
って待て待て、一番肝心なことが妄想できてない。なぜトキワ寮なのか、なぜ伯父さん夫婦はいちウスを受け入れるのか、なぜ道楽のようなサークル活動のためにトキワ寮という結構立派な屋敷を提供するのか。子供の私が見ても分かる、トキワ寮って絶対に経営成り立ってないよね。
えーっと、「トキワ寮は母親が少女時代に好んで訪れた別邸だった。母親を可愛がっていた祖父がこっそり所有していたので、身内でもここを知るものはほとんどいない。母子を不憫に思った祖父が王国の者を通じてこの屋敷をいちウスのために残したのだ。当時伯父さんはこの屋敷で庭師として働いていて、いちウスの母によく懐かれていた。そのため、母亡き後は管理を任されていた。そう、いちウスが帰ってきたとき、母はもうこの世にいなかった。掴もうとしたすべてが指の間から零れ落ちていく。いちウスに残されたのは卓越した妄想力。何物にも奪われることのない妄想の世界で、自由で無敵の生い立ちを語るのだった」
て、感じでどーよ。辻褄合ってるでしょ。まあ、多少強引さが見え隠れするのはやむを得まい。年齢考証もできていないけど気にしない。痩せても枯れてもいちウスは王族、日本に逃げ落ちてもそこそこの資産は保有している。だからトキワ寮は実はいちウス所有の不動産なのだ。ってことで。
そうなると、伯父さんがいちウスより立場が上っぽいの変だよね。いちウスを小間使いみたいに使ってるぽいし。
「トキワ寮の建物はトキワ寮株式会社の所有で、寮の管理運営といちウスの世話をすることを条件に伯父さんは株式の過半数を保有した」とか。
……不動産とか株式とか言うと生々しくなって、なんか冷めてきた。妄想はこの辺でお開きにしよう。
いちウスの事情はさておいて、連載の内容はいちウス演じるフィクションの壮大な設定集なわけだ。これを引き継ぎ、私が現代編の活動記録を執筆することになるのか……はっきり言って、この設定集は全く必要ないんですけど。仮に私が紛いなりにも女子高生四人組のゆるふわ活動記録を書いたとして、かつ読んでくれる一定の読者がいたとして、「せっかくの設定が生かしきれていない」とかコメントされるのがオチだと思う。導入がここまで非現実な内容だから、読者は私が書くパートを本当の活動記録だなんて思わない。フィクションの延長線上にあるのはフィクションでしかない。だから活動記録も事実を忠実に再現することに拘らなくてもいいだろう。寮の場所とか特定されちゃったら嫌だし、ちょいちょいフェイクも混ぜるべきね。てゆうか、いちウスが書いているパート、まだまだ続くのよね。サークル設立の経緯のカケラも見えてこないし。
続きかあ。いちウスにはこの過去編?を現代編に続くように締めてもらわないと続きは書けないよね。だけど、創作や投稿が私にも手が届くことなんだって知ってしまったから、何でもいいから書き始めたい気分になる。せめて寝る前に、書きかけの今日の出来事メモを書いておこう。
メモを書き留めながら振り返り思う。
昨日までの自宅での生活とは全く違う新しい暮らしを、今日トキワ寮で迎えた。
いろんな人が集う昼下がり。お行儀を気にしながら食べた夕食。そんな心配をよそにちょっと騒がしい食卓。寝間着で友達とおしゃべりして、その友達に「おやすみ」を言って開けた自分の部屋の扉。
睡魔の襲撃もなく、メモは書ききった。
自分で整えたベッドに潜ると、街や海の見えた窓の外には、今は夜空だけが見えている。星の見える日もあるのかな。月が見える日もあるだろう。カーテンは、開け放して寝よう。
不相応に広い部屋を見渡して思う。明日も明後日もこの部屋で眠り、この部屋で起きて学校に通い、この部屋に帰ってきて着替え、そしてこの部屋で何かを書き連ねるのかな。
うん、きっとそうなる。きっと、素晴らしい毎日が、この部屋から始まるんだ。




