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神々のラノベ創造  作者: 一条アル彦


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きっと素晴らしい部屋になるんだ(4)

 片付けと与太話が一通り終わったので、奈子さんは家事に戻ると言う。

「それじゃあ私は階下(した)に戻るよ。小花はお風呂とかトイレとか御伽ちゃんを案内してあげてね。どうせ屋根裏も行くんでしょ」

 見透かされた小花ちゃんは小さくへへと笑った。

「あ、奈子さん、寮の規則とかないんですか。門限とか、起床時間とか」

 私の質問に、奈子さんは虚をつかれたような顔をしてしばらくの間沈黙し、答えた。

「ない。考えてなかった。寮生っても御伽ちゃん親戚だしね。門限なんて良識の範囲で自分で考えて行動しなさい。遅くなるときは電話入れるとか。それに規則なんて決めたら、守らない誰かさんを四六時中叱らなくちゃならなくなる」

 奈子さんはチラリと小花ちゃんを横目で見て、そのまま数秒()めつけた。小花ちゃんは正面から首を絞められているような顔で大人しくしている。

「まあ、言うまでもないけど、一応言っておきましょうか。まず、朝は自分で起きる。あとできれば、小花も起こしてほしい」

「できます。でも、ちょっと……手強そうな予感がしますね」

「いい勘してるね」

 小花ちゃんはずっと言い返せないままだ。率直な感想を言っただけで、意地悪で言ってないからね。

 気にせず奈子さんが続ける。

「あと、食事は三食用意するけど、掃除洗濯は自分でやってね。あ、洗濯は嫌じゃなければ私たちのと一緒にやっちゃうけど、どうする?」

「お願いできると助かります」

「じゃあ、洗濯物の出し方とかの説明も頼んだよ、小花」

「ら、らじゃー!」

 何かから解放されたように安堵する小花ちゃん。

「御伽ちゃんは長旅で疲れてるだろうから、案内はほどほどにあんまり連れまわさないで、夕食前に休みが取れるくらいにするんだよ」

 奈子さんが釘を刺す目で小花ちゃんの顔を覗き込む。あまりアテにならないが小花ちゃんは元気に「分かった!」と答える。

「今日の夕食は六時くらいでいいかな」

「はい。えーと、さっきお蕎麦を食べた部屋が食堂だよね」

 質問は小花ちゃんの方を見て言った。

「そうだよ。あ、今日の晩ご飯ごちそうだよー、ビーフシチューなんだけど牛のベロを丸ごと一本煮込んだタンシチューだからねー」

「ちょっと待ちな、小花」

 急に視線を尖らせて奈子さんが小花ちゃんを睨む。

「ビーフシチューだとは言ったが、タンシチューとまでは言ってないよ」

 グイと詰め寄られ小花ちゃんがたじろぐ。刑事ドラマとかで真犯人しか知らない事実を言ってしまう、いわゆる秘密の暴露(ばくろ)ってやつだ。生で見てしまった。目の前のこれはホームドラマだけど。

「つまみ食いしたろ?」

「し、してない」

 小花ちゃんは目線を合わせない。汗はかいてないけど汗ダラの表情だ。嘘、下手だなあ。

 助け舟を出したいけど、気の利いた逃げ口上が思いつかない。

「あ……味見しかしてない」

 認めたような否定したような、どっちにしても言い訳としてはかなり苦しい。大人って言い訳をやたら嫌う。奈子さんも例外ではないらしく、この一言でさらにご立腹のようだ。十五歳の美少女が五歳の悪ガキのようにたしなめられる。

「で、どれだけ味見したの」

「タン元を五ミリほど……」

 小花ちゃんはおずおずと答える。

「なんだ、その程度なの。前みたいに半分以上食べちゃったのかと思った」

 前科(まえ)があるのか。しかもかなり重罪だ。でも前科が罪深いおかげでか、奈子さんは溜飲を下げたみたいだ。

「御伽ちゃんの分がなくなったらだめだから、精神力で五ミリで止めた」

 うおー、また余計なことを……なぜその精神力でつまみ食いが止められないのかとツッコまれるのが目に見える。何とか話を逸らしてみよう。

「こ、小花ちゃん、味見の結果はどうだったのかな~?」

 咄嗟に言っちゃったけど、これ小花ちゃんの返答次第では火に油を注ぐことになるかもしれない。マズったかな?

 そんな私の心配をよそに、小花ちゃんは一変し嬉々として答える。

「めっちゃおいしかった! お肉がやーらかくて、それでいて程よい歯ごたえがあってね、キバで噛みついて引き千切る歯ごたえじゃなくって、前歯に跳ね返る弾力があって、それでもストンと嚙み切れる。トロけるようなのもいいんだけどー、歯ごたえがあったらさ、あ~私は今お肉を食べてるんだ~って、文字通り噛みしめる喜びがあるんだよね。もう目を瞑ったら歓喜の歌の大合唱が聞こえるよ」

 頭の中が一万人の年末になるのか。どんだけ壮大に美味しいんだろ。小花ちゃんがめっちゃ語るの可笑しいのか、奈子さんが半笑いになっている。

「驚いた。以外に語るじゃないの」

 好評だ。確かにグルメリポートとしては、独自の切り口でいいかもしれない。そうか、毎回これが言えれば、つまみ食いは味見にアップグレードする。

「あの、奈子さん。小花ちゃんを正式に味見係に任命しちゃえばよくないですか。そうすれば腹も立たないし、後ろめたくもない」

 奈子さんは腕を組んで「うーん」と唸り、小花ちゃんは人差し指と親指で顎を挟み「ほほう」とか言って興味を示す。

 でも頭ごなしの否定はない。決め手に欠けるのは、条件が小花ちゃんに一方的に有利だからだ。奈子さんにもメリットがないと首を縦に振らせるのは難しい。

 奈子さんは小花ちゃんのコメントに感心した。料理を作って、具体的な感想で美味しいと言われるのは誰だって嬉しいはず。苦労して書いた文章を、まさにそこが面白いと評されたらきっと嬉しい。それと一緒だ。

 ただし、と続ける。

「量はスプーン一杯程度、そして必ず感想を伝えること」

 で、どうでしょう? 奈子さんの顔色を窺うと、腕組は崩さないものの口元が明らかに緩んでいる。

「分かった、さっきみたいな感想を毎回言えるなら味見を許すわ」

 おお、何とか丸く収まった。なんだこの達成感。大岡裁きみたい。

「感想をしっかり言葉にするのは表現の練習にもなるしね。あ、そだ、言った感想は必ずノートに控えて残すことにしよう。グルメ小説ってジャンルもあるから挑戦してみてもいいかも」

 私の提案に今度は奈子さんが「ほほう」のポーズで言う。

「そーか、味見が小花のためになることなら致し方ないね。『小花つまみ食い日記』とか期待してるわよ。頑張んなさい」

 ノルマを課しすぎたか、小花ちゃんが少したじろぐ。

「そ、そだね。つまみ食いも程ほどにがんばるよ。……あ、違った、味見だ」

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