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神々のラノベ創造  作者: 一条アル彦


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24/57

きっと素晴らしい部屋になるんだ(1)

 次回の予定が決まったところで、いちウスは伯父さんに庭仕事の手伝いを頼まれて外に出ていき、蘭とすみれさんは用事があるらしく、自宅に帰っていった。

 いろいろと盛りだくさんで頭の整理が追いつかないけど、引っ越しの荷物の整理もやってしまわなくちゃならない。荷物は私より一足早く届いていて、すでに部屋の前のリビングに運び込んであると小花ちゃんが教えてくれた。

 なぜ部屋の前が廊下ではなくリビングなのかと疑問を口にしたら、見ればわかるよと小花ちゃんに促されて上階に案内された。

 なるほど、二階の真ん中にみんなで共用する大きなリビングルームがあって、その周りの壁に寮生の各部屋のドアが並んでいる。廊下を挟まずにリビングから直接出入りする造りになっているのか。リビングの南側一面は庭を望むバルコニーになっていて、全開になった掃出(はきだ)しの窓から春風がそよぎ、端に寄せられたカーテンを柔らかく波打たせていた。陽光に誘われるようにバルコニーに出ると、青く茂る芝生を(たた)えた庭が広がり、その向こうの木立ちを超えて麓の街並み、遠くに海まで見渡せる。

「今日は特に気持ちのいい風だね」

 奈子さんはそう言いつつ両手を頭の後ろに回し、背中まで伸びた髪を束ねて手早くクルクルと丸め、クリップで留めた。

「年頃の(むすめ)ちゃんの荷物だから男衆に手伝わせるわけにいかないからね。私たちだけでやっちゃうよ」

「おー!」

 小花ちゃんが拳を振り上げて気勢を上げる。

「お手数おかけします」

 ペコリと二人に頭を下げる。実際、手伝ってもらえるのはありがたい。一人でやると、ついつい古いものに見入ったり本を読み始めたりで捗らない。荷造りのときもそうだった。

「私も髪縛ってー」

 奈子さんの横に顔を割り込ませた小花ちゃんがくるりと後ろ頭を向ける。縛るほど長くもない髪だと思うけど、奈子さんがハイハイと応じて手櫛で軽く髪をとかす。二人は寮生と寮母というよりも親子みたい。気持ちが和んで、このアットホームな雰囲気を(たた)えたくなった。

「なんかふつーに家族みたいですね」

 私の言葉に奈子さんは少しだけ口元をクシャっと崩した。それが苦笑いなのか照れ笑いなのか、私には図別がつかなかった。

「いやあ実は、小花は私の妹なんだ。腹違いのね」

 なんと、意外な事実。私の驚きは顔に出ていたと思うけど、その表情は薄いものだっただろう。心のどこかに、そんなこともあるよねという思いがあったから。お父さんも知らなかったのかな、知ってたら先に教えてくれそうなものだけど。

「実は()ーちゃんなんだよ! もう私の三倍近く生きてる」

 奈子さんは冗談めかして「言うなっ」と言いながら小花ちゃんの髪を真上に絞り上げる。痛い痛いと騒ぐ小花ちゃんが耳を掴まれた子ウサギみたいに見える。奈子さんは痛がる小花ちゃんを無視して、ポケットからゴム紐を取り出しつつ事情を話してくれた。 

「私の両親は離婚しててね、母と暮らすようになって父親とは疎遠になった。小花は父親がその後再婚して遅くに生まれた子だよ。まあ、この子にもいろいろ事情があってね、小花は私たちと暮らすようになった」

 話しながら小花ちゃんの髪を結わえて直立(ちょくりつ)ちょんまげにしてしまった。小花ちゃんは上機嫌で、ちょんまげを触りながら話す。

「だから直さんもお兄さんになるんだけどねー。ちょっと兄ちゃんとは呼べない。48歳」

「あはは、普通におっちゃんだからね、こっちも呼ばれたくない。あ、私はもっと下の40だから」

 確かに伯父さんが小花ちゃんにお()ーちゃんと呼ばれたら、行く先々で注目を浴びてしまうだろうな。

「ということは、小花ちゃんは私の伯母の妹ということに……私、姪っ子なの」

「おお、なんか承太郎と仗助みたい! グレートだ!」

「やれやれだぜ。 って言っとけばいい?」

 さっきそんなこともあるよねって思ったのはこの漫画のせいか。しかし、このネタですんなり会話ができる同級生も珍しい。小花ちゃんはどうやら少年漫画が好きそうだ。私もどちらかというと少女漫画より少年漫画の方が好みなんだよね。

「御伽ちゃんがここに来たのは、両親の海外赴任にはついて行かずに日本に残ることにしたからだったね。その話は聞いてたけど、小説家の夢は今日初めて聞いた。立派だと思うよ」

「まだ堂々と夢だと言えるほどのことはしてないです。趣味です」

「今日聞いたときは、そんな事情があったのかって思ったよ。人それぞれ事情があって、そこで何かしらの選択をして、その結果一つ屋根の下暮らすことになった」

 何でもないような出来事でも、それぞれの事情が出来事をドラマチックにする。そんなニュアンスに聞こえた。

「そうですね、私の場合人生の岐路ってほどのことではなかったと思いますけど、変な男にカラまれて気がつけば文芸サークルの記録係になってました」

 奈子さんが波乱万丈じゃないかと笑う。

「ん-、ちょっと一言(ひとこと)だけ。こっからは私の想像だけど、蘭とすみれも多少なりと事情があると思ってる」

 言うか言うまいか悩んだうえでの一言なのか、奈子さんは少し目線を外した。あくまで想像だよと念押しして奈子さんが続ける。

「いち君が蘭とすみれのことを個性が際立っているとか言ってたけど、そういう子って何か事情があって際立っちゃってるもんなんだよ」

 奈子さんは想像だと言ったけど、何か知っているのかもしれない。でも私はそれを詮索するべきじゃないとも思う。

「あの子たちに事情があるとして、それをどうにかしてやってくれってわけじゃないんだ。御伽ちゃんサークルの活動記録書くんだよね。それを書くのは自分たちのプライベートを公開することと同じだ。必然か、知らず知らずか、あの子たちのナーバスな部分に触れることになるかもしれない。だから、書くときは慎重にね」

 ゴクリと唾をのむ。確かにその通りだ。面白おかしく活動を書いたつもりでも、当人にとっては書かれたくないこともあるかもしれない。少なくとも公開前に全員の検閲(けんえつ)を受けた方がよさそうだ。

「それが言いたかっただけ。ごめんね、張り切ってるところに水を差すようなこと言って。でも悩むときがあっても一人で悩むんじゃないよ。そのための仲間だ。小花もこう見えて頼りになるよ」

「えーどう見えるのさー」

「んー、かわいく見えてるよー!?」

 はは、蘭と同じこと言ってるし。奈子さんは大切に(すく)い上げる様に愛娘(まなむすめ)の頬に両手を添え、そのあと少し乱暴にグリグリとそれを愛でた。多分奈子さんは蘭やすみれさんのことも(いと)おしく思っているのだろう。優しい人なんだ。

「さ、言いたいことは言ったし、やることやりましょうか」

「御伽ちゃん、まだ部屋見てないでしょ。早く見に行こうよー」

 小花ちゃんは軽快なフットワークで段ボールの山の向こうに駆けて行き、扉の前で手招きする。私も自然と早足になって部屋の前に着くと、小花ちゃんがじゃーんと言って扉を開ける。その扉をくぐった向こうに広がる空間は、素敵の一言以外では言い表せなかった。

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