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いちウス創世期

 申し遅れたが、僕の名はいちウス。それが真名だ。もちろん一条アル彦はペンネームだが、通り名でもある。この国では名前と言えば姓と名が必要なので、記名を求められたときなどはこの通り名を使うことにしている。

 サークルを主宰するに至る経緯だが、どこから話そうか。少し時間を遡る。いや、君たちにとっては少しとは言い難い、きっと気の遠くなる程の時間を、天地創造よりもっと前の前の、というかもう、これ以上遡ることができないいっぱいいっぱいまで遡り、創世の頃から語らねばなるまい。創世とは世界の始まりである。これから話す「世界」とは、地球という君たちが生きる「世界」ではなく、全宇宙という意味の「世界」だ。ワールドではなくユニバースだと言えばわかってもらえるだろうか。


 で、創世の話だが、君たち人類が存在するこの世界は、かつて僕が創った。誤解しないで欲しいのは、僕は世界を創ったが、人類を創造してはいないということ。あくまで僕は入れ物となる世界を創っただけで、君たち人類の発生は僕の意思によるものではなく、純粋に偶然の産物だ。だから、君たちがイメージするいわゆる「創造主」と呼ばれるものとは、僕は全く異なる存在だということを、あらかじめ断っておく。僕が杖だの鍬だのを振るうと宇宙と地面が生まれたとイメージしてもらっても大して差し障りはないが、最初の人類となる男と女をお創りにはなっていないのだ。「創造主」と区別するために、僕は自身を「第一創者」と呼称しよう。一番最初に最初の部分だけ作った者という意味です。

 あ、ちなみに、せっかく区別はしたんだけれど、実際のところ創造主とか神とかはどこにも存在しませんから。世界を創って見守ってきた僕が言うんだから間違いない。信仰の深い方は気を悪くされたと思いますが、事実なのですみません。でも、神の概念の一つとして、それは世界や人類を創造した者であると、僕もそう認識しているし、君たちの心の中の世界には神は存在するし、心の中のそれを決して失わないで欲しいと、僕は切に願います。


 話を戻そう。

 僕が世界を創ったのは1回や2回じゃない。今のこの世界を創造する以前にも創世の履歴は存在する。幾度となく世界は創造され、終焉を迎えてきた。具体的に言うと、今のこの世界は68235番目に作られた世界であり、世界は68234回にわたる創造と消滅を繰り返してきた。これら過去の世界において、人類のような知的生命体が誕生したことはただの一度もなかった。

 ちなみに今の世界において、知的生命体は宇宙広しと言えど君たち人類しか存在しませんから。君たちの言うところの宇宙人なるものは、今のところこの世界のどこにも存在しない。世界を創って見守ってきた僕が言うんだから間違いない。それくらい君たちの誕生は稀有な例であり、そう簡単にポコポコ発生する現象ではないということだ。オカルト好きな方は気を悪くされたと思いますが、事実なのですみません。でも、君たちの心の中の世界には宇宙人も未来人も超能力者も存在するし、心の中のそれを決して失わないでほしい。


 再び話を戻そう。

 最初の世界創造の話をしよう。この時僕は創世にあたり、先ずことわりを設定した。そして世界を起動した。ただそれだけだ。理とは物理法則のことで、起動はビッグバンだと思ってもらってほぼ支障ないだろう。起動後、多分宇宙は均質で一様な状態を保ったまま膨張を続け、どこかの時点で収縮に転じ、起動から3000億年程で消滅した。多分と言ったのは、3000億年の間、一部始終を一切観察しなかったのだ。特に興味もなかったので。例えるなら、炊飯器の炊飯ボタンを押したら、ピーと鳴って炊きあがるまで中を覗いたりしないだろう?そんな感じだ。

 2回目の創世も1回目と同じ手順で起動し、1回目と同じく3000億年で閉界した。淡々と繰り返しのお仕事をこなしただけだ。

 3回目の創世も1回目・2回目と同じ結果になるだろうと予想した。予想はあくまで予想であり、まだ結果は出ていない。それは僕にとっての「未知」であった。未知の事象の予想とはすなわち興味であり、僕の中に「興味」が生まれた。その結果、僕は覗いたのだ。3回目の起動後、世界がどのような有様であるのかを。言わば、お米がアルファ化する過程が気になっちゃったのだ。

 その世界は僕の予想と全く違っていた。世界は膨張を続けたが、均質で一様ではなかった。星々が生まれ消滅し、原子が生まれ融合しさらに高位の原子となり、広がり、集まり、散っていく。万華鏡のように変遷する世界に僕は魅了された。そしていつしか世界の膨張は収縮に転じ、3000億年で閉界した。

 1回目と2回目が均質で一様な世界だったかどうかは確認していないのでわからない。でも僕は、僕が興味を抱いて観察したことが、3回目が多様な世界になった原因だと考えた。お米に例えるには少々無理がありそうだ。

 4回目は一切観察しなかった。興味を失ったのではなく、観察しないとどうなるかという興味に従っただけだ。というか、すっごい見たかったけど3000億年間我慢した。観察しなかったので中でどうなっているか分からなかった。多分均質で一様だったのだろう。終わってから気が付いたのだが、我慢した結果、新たに知りえたことは何一つなかった。何の結果も得られないのに、一体何のために3000億年我慢したのか。一つだけ言えるのは、ことの外つまらなかったってことだけだ。僅か3000億年の無駄だが、この時僕のなかに後悔や願望といったものが生まれた。

 5回目からは気を取り直して観察した。それはもう、めっちゃ見た。原子や星が生まれたことは一緒だが、その様は3回目とは全く違うものだった。その後も、世界は繰り返し繰り返し創世と消滅を続けた。それでも一つとして同じ変遷を辿る世界は無く、68234回目まで飽きることなく世界の美しい移ろいを、僕は眺めていた。白ご飯、毎日食べても飽きないだろう?

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