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神々のラノベ創造  作者: 一条アル彦


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19/57

そしてペンは渡された

「それにしても、御伽、いちウスに対して急に態度が砕けたな。さん付けの敬語だったのによ、今の今まで」

 そうなのだ。実のところ自覚はあった。口に出す会話だと、さん付け敬語口調になっていたけど、心の中で思う分には馴れ馴れしく呼び捨てにしていた。でも、いちウスの空想科学を受け入れてしまったら、自分の表と裏がスーっと馴染んだような感覚になった。友達と喧嘩してよそよそしい態度を取ったけど、すぐに仲直りして水に流しちゃったみたいな。でも、年上の初対面男性に対してこうも一気に距離を詰めるなんて、本来自分はそんなタイプじゃない。

「いやーなんか気が抜けたら取り繕えなくなっちゃった。丁寧に話してこんなに疲れる人は初めてだよ」

 自分で自分に納得いかないが、言ったことは嘘じゃない。

「いちさんの言うことは真に受けてしまった方が楽よ。それに、妄想だとしてもよくできているわ。案外面白いわよ」

「そうそう、いちウスの連載読んでみろよ。今日聞いた話どころじゃねえぞ。多分御伽は口が開きっぱなしで読むことになる」

 そうだ。いちウスは投稿サイトで連載している。すみれさんと蘭が、一応仮にも解釈次第ではおススメするようなコメントを発している代物だ。

「ネットで読めるんだよね。寝る前にでも読ませてもらうよ」

 口調が砕けていても、一応私としては目の前の執筆者に敬意をこめて言った。

「ぜひとも読んでほしい。で、その連載についてちょっと話があるのだが」

 いちウスが真顔で切り出す。こいつの真顔も笑顔も、その後の心構えのアテにはならない。

「今日ここに揃った君たちを見て思ったんだけど、うちのメンバーって結構個性が際立っているよね」

 古参のメンバーたちを順に見つめて、キャラ属性設定のようなコメントを言い渡し始める。連載と関係なくない?

「リアリストお姉さんキャラのすみれ、喧嘩上等俺っ娘キャラの蘭、野性児ちびっこキャラの小花。こんなイメージだよね」

 三姉妹っぽいこと言い出した。それぞれ思うところがあるのか、三姉妹(仮)が口々にコメントする。

「いちさん、そんな風に私たちを見てたのね。でも括りが大雑把過ぎない?」

「なかなかどうして、よく見てると思うぜ」

「私、野生児なの?」

 活発で感情豊かとは思ったけど、野性とは。そんな一面もあるのかな。

「腹減ったらすぐに肉、肉って言うし。五歳までワニに育てられたとか言われても不思議じゃねえ」

「まさかの爬虫類! ワニ違うよ、ちょっと前まで私を育ててたのは馬だもーん」

 ナニ娘だ。二人とも悪乗りする気満々だ。

「あはは、すげえ情報挟んできたな。小花足速えし。でも草食(そうしょく)ってのは冗談だろ。ありえん」

「じゃあ、肉食系ちびっこキャラが妥当?」

「ソレだと別の意味になっちまう。肉食獣ちびっこどうぶつでどうだ」

 それはただの猫だ。妥当だけど。

 蘭と小花ちゃんが漫才で盛り上がるが、すみれさんが横から真剣なコメントを挟む。

「この場で野性児とは快活な野性味のある人物という意味で、野生動物に育てられたという意味ではないわ」

「ここでマジレスで刺してくるとは……これがリアリストか」

 蘭のテンションが一気に下がる。小花ちゃんは早々(はやばや)と興味の対象が入れ替わっている。

「ねえ、いちウスぅ、御伽ちゃんのキャラがまだだよー」

 オチを期待するように小花ちゃんが催促する。

「そうだね。お待たせしました」

 待ってない。連載の話はどうした。いちウスはちょっとだけ間を置いて私に目配せする。絶対に私には三人とはなんか違うこと言おうとしている。

「そして、曲者(くせもの)キャラを束ねるべく現れた、巻き込まれお人好しリーダーキャラの御伽、君に頼みたいことがある」

 属性多いな。今日の私にお人好しの要素なんかあった? というか私、いつの間にリーダーになったの。私って、ハルヒのキョンみたいな立場なのか。そもそもあんたが既に怪異レベルの不思議キャラでしょうが。しかもしれっと頼み事までねじ込んできてるし。もう、ツッコミが一点に絞れなくて言葉に詰まってしまう。

 すみれさんは曲者扱いにクレームを入れたいのか、目が吊り上がりそうになってる。でも頼みとやらが気になるのか、発言をいちウスに譲るようだ。

 私も頼み事は気になる。また突飛なことを言いだすのだろうと警戒しつつ、いっそ開き直って何なのと訊いてみる。

「投稿している連載はファクトリーUの活動記録だって言ったけど、サークル設立の経緯を書いてるだけでさ、ほとんど僕の身の上話に終始している。過去編みたいなつもりで書いてるけど、現代編もないのにいきなり過去編から始まってて、どうにも決まりが悪いし活動記録とも言い難い。過去編はもうちょっとで書き終わるから、この続きの現代編を御伽に執筆してもらいたい」

 文芸サークルとしては至極まともな頼みだった。まともなのに何故私はこんなに意外性を感じているのか。でもこの依頼、一筋縄ではいかなさそうだ。

「それって、日誌をつけるってこと、じゃないよね」

 日誌を書くことを執筆とはあまり言わないしね。いちウスが投稿したものをまだ読んでないので、どんな体裁のものか見当がつかないけど、少なくとも「続く」内容であることは(うかが)える。

「そんな形式ばったものではなくて、活動中の出来事を文章で書き記してほしい。文芸のジャンルで言えば随筆に相当するだろうか。これから、まさに今日から始まる皆の創作活動やよしなし(ごと)を、そこはかとなく書きつけてもらいたい。まあぶっちゃけると、いずれメンバーの誰かが発表するであろう作品の広報でもある。もちろん『誰か』の中には君も含まれているんだよ、御伽」

 最後に呼ばれた名前に胸が高鳴る。これは緊張が半分、いや八割、残りが興奮だ。依頼を軽く構えると痛い目を見そうな予感がするけど、私にできるだろうか。でもここで尻込みしていたら、今後何かを創作するなんてできやしないだろう。

 何のために両親と離れてここに来た。偶然にもここで同志を得た幸運を噛みしめる。それを思うとこの依頼を受けることは挑戦ですらない、つかむべき幸運だ。これも修練と割り切ってやってみよう。それに……サークル内の序列下っ端の仕事だと考えたら断れないよね。

「分かった、やるよ。でも上手く書けるか自信はないから、あんまり期待はしないでね」

「いやいや、期待するなと言われてもそれはちょっと無理だ。この胸に沸き立つワクワク感、上手く描写できない自分が恨めしい」

「そのワクワクはいったい何処から来るのよ」

「君たちこそ御伽が来た今の状況に何とも思わないのかい? 状況的に君たちの視点で書いてほしいんだよね。いや、書くべきだよ」

「状況的?」

 頼みごとをしやすいパシリが加入したってこと?ワクワクを煽るほどのことではないと思うけど。

「だってさあ、御伽が来て、今ここに個性際立つ美少女の女子高生が四人そろったんだよ。四人。そして四人は小説家を目指している。見事にテンプレ設定みたいじゃないか、この状況は!」

 狂言回しの道化キャラがよくやるように、いちウスは大げさに両手を広げて悦に入っている。確かにバンドとか南極とか四人組の話はよくある気がするけど……それでキャラ属性を力説してたのね。

「これはもう、ラノベで書くしかないでしょ! 君たちの目線で、君たちの奮闘を、ゆるふわな日常を、神々の、ラノベ創造の物語を!」

 芝居がかった高らかな声でちゃっかりタイトルコールまでやりおった。それは確かに芝居の幕開けのようで、物語の始まりを予感させるものだった。私の、私たちの、あとこの変なイケメンの物語。

「何よ、それ。あははは……」

 いちウスの奔放な思考回路がどうにも可笑しくって、失笑ではなく私は声を出して笑っていた。これよく考えたら、ホントにハルヒのキョンみたいな役どころの依頼じゃないの。

 しかし、どっちかというと……何かを目指す少女四人の日常を描くのは、ラノベというよりは4コマ漫画のテンプレだと思うけどなあ。

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