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神々のラノベ創造  作者: 一条アル彦


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見えざる白い何か(3)

「あの、それが何かの形に見えることが、イコール心に物語があることに直結するのはなぜでしょうか」

「言われてみれば、そうだよな。なんで、どうしてと、言い続けてもキリがない気もすんだけどよ、これだけは聞いておきてえな。俺とすみれはその辺の話を真に受けているからこそ、御伽を傷つけるようなことを言った。いちウスにしか視えないそれが『何となくそう思う』程度のもんだったら、いちウス、この話はお前の中だけに留めて、今後誰にも持ち出さない方がいい」

 腕組して話す蘭。眼が真剣だ。

「御伽の頼みだから答える……では済まなくなったみたいだね。蘭に責任を取れと(にら)まれて撥ねつける者はいないだろう」

「人をクレーマーみてえに……」

 蘭は小声でつぶやくが、いちウスの言葉を待つように、それ以上は何も話さなかった。

「僕にしか見えないIWMの存在を他人に証明することはできない。ここは納得してもらうしかない」

 食い下がっても仕方がないことなら、とりあえずは置いておこう。ここはうなずいておいた。

「個人の発するIWMを解析することで、個人が想像する物語世界の解読が可能だ。それは僕が感覚的に知ることができるという意味ではなく、技術的に物語世界を創ることが可能という意味だ。生物で言えば遺伝子の解析により、その成長した姿、さらには成長の過程さえ再現できることに酷似している」

「いや、もうすでに意味が分かんねえ」

 早々の理解不能宣言だが、蘭の態度はあまりにも堂々としたものだった。

「例えば、蘭の心にある物語が中世ファンタジーの世界だとして―― 城だの騎士だの国土国民ひっくるめたその世界を、この僕たちがいる世界とは別に、もう一個、架空じゃなくて、実際に、創ってしまえるということ」

 話がさらに荒唐無稽になってませんか?

「……もっと、分かりやすく頼む」

 蘭の口調がゆっくりと丁寧になっている。理解できないのは自分の頭が悪いからなのでは?とか考えてそうだけど、多分この場の全員同じだと思う。 

「異世界、創っちゃえる」

「はああああ?!」

 思わず声が出た。分かりやすいが過ぎる。過ぎるが、荒唐無稽がさらに過ぎる。

 いちウスは大げさに驚いた私をキョトン顔で見ている。

「だからサークル名はファクトリーU、即ち世界工場だと言った。物語世界の創造、それが理念だと」

 確かに言われたけど、そのままの意味とは思わないでしょ。文芸の創作という意味を工場に例えたと受け取るでしょ普通。リアクションさえ置き去りにした私たちを他所(よそ)にいちウスは続ける。

「まだ話は終わっていない。ただし、誰の妄想の物語世界でも創ってしまえるわけではない。それには新たに世界を展開するに足る十分なIWM情報量が必要だ。この情報量の指標を展開充足率と呼び、概ね展開充足率が87%を満たしていれば異世界として展開可能となる。これほどの数値を示す者は非常に稀だ」

 ついてきてる?と言いたげにいちウスは一通り私たちを見回した。だがその問いかけも答えも声に出されることはなく講釈は続く。

「では本題だ。心に物語があるというのは、心に、展開可能な物語がある状態をいう。この状態に顕著にみられる特徴として、IWMが何かの形に見えるという現象がある。以後これを象形(しょうけい)現象と呼ぶ。ゆえに、IWMが何かの形に見えることが、心に物語があることの判断の指標となる。ただし、象形現象は展開充足率が80%を超えた辺りから発現することが分かっているため、展開可能な87%には少し足りない状態も含んでいる。象形現象イコール展開可能とは限らないが、便宜上、象形現象があれば、心に物語があると判断することにしている」

 驚いたというよりは、設定のような説明を一気に話されて呆気にとられた。暫しの沈黙がもう話に続きがないことを告げている。最初に静寂を破ったのは小花ちゃんだった。

「そーゆーことだったんだねー。異世界創っちゃえるくらいガッツリ妄想できそうな子なら、なんか書きそうだからスカウトしよってことか」

 軽っ。情報量濃い目のいちウスの話に対して、わりとふんわりのコメントだ。

「俺も合点がいったぜ。奇天烈(きてれつ)な話ばかりだがよ、いちウスはちゃんと説明したと思うぜ。御伽はどうだ?」

 蘭の言う通り、いちウスはきちんと応えた。言ってる意味を理解もできた。信じがたい話であることが釈然としないモヤモヤを残して、素直に納得したと言えず、質問で返してしまう。

「二人とも信じてるってことだよね」

「私はもともと信じてるよ。いちウスの言ってること」

 小花ちゃんは真っ直ぐな目で答えた。

「俺は小花に同調する。他人任せに聞こえるだろうが、俺の下手な考えよりよっぽどアテになる。小花はこう見えてちゃんと見て考えて言っているからな」

「ええ? 私、どう見えてるの」

「そりゃカワイく見えてるに決まってんだろ。なんならみんなに訊いてみるか?」

 ニヤニヤする蘭に敵わないと思ったのか、小花ちゃんはそっぽを向いてしまった。

 すみれさんはどう思ってるのだろう。私の視線を察したのか、訊かれる前にすみれさんが答える。

「私はね、いちさんの言ってることが(いつわ)りでも事実でも気にならないの」

 迷い子をなだめるような優しい声だった。平たく言えばどっちでもいいってことか。すみれさんはその細くしなやかな人差し指を私にかざし、ひとつ、と続ける。

「私にとって今分かってる事実は、誘われて、応じて、書くための部屋まで提供されているということよ。だったら私は書かなきゃ。それだけよ。御伽さんも今後書くのか書かないのか、大事なのはそれだけではないかしら」

 自分への苦笑が漏れそうなほど、おっしゃる通りだ。私は(こだわ)るところを間違っている。心の物語とか、何かが見えるとか、そんなのスポーツなら背が高い程度の話だ。高ければ有利だけどそれがすべてじゃないし、伸びることもあるし、やるべきことは背を伸ばすことじゃない。信じるかどうかなんて二の次だ。グダグダと考えてしまうのは私の覚悟のなさの表れだろう。

「そうですよね。私も書かなきゃって思います」

 今までは迷ってたんじゃなくて、迷った気になってただけだ。今日こそが第一歩だと思えるから、うちのこの変な主宰者にも宣言しておこう。

「いちウス、答えてくれてありがとう。本当は答えにくい話だったんだよね。私も覚悟を見せなきゃね。頑張って書くよ、物語を」

「いや、構わない。今日話したことぐらいでは人類の技術の進歩に影響を及ぼすことはないだろう。それにサークルメンバーには永劫に秘匿することはできないと思っていた。いずれイマジオンテクノロジーの片鱗を目にする機会もあるだろうから、少しだけでも聞いてもらえてよかったよ」

「また知らない設定……じゃなくて単語が出てきたけど、訊かないでおくね」

 いちウスは満足げにうなずいていたが、その笑顔の下で一体どんなトンデモ理論が渦巻いているのか。この人騒がせなイケメンが黙って読みふけるくらいの面白い物語を、物語世界を作ってやろうじゃないか。

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