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神々のラノベ創造  作者: 一条アル彦


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その男いちウス(2)

 え、資格ってなに? 3人は才能を認められてサークルに入ったって言ってたけど、そういうこと? 文芸の腕前を試されるんでしょうか。さっきは気の利いた返しができなかったから頑張らないと。でもそれでは大喜利みたいで、文芸というよりは話芸な気がするが。

「最初からそのつもりだ」

 いちウスが意味深にフッと笑い、胸ポケットから黒縁眼鏡を取り出した。大喜利じゃなくて、ほんとに視るのか。ステータスが読めちゃうマジックアイテム的な眼鏡?と、変な期待が高まるけど、そんなわけない。単に目が悪いから眼鏡をかけるのだろう。……だよね?

 いちウスは直ぐにはそれを装着せずに目線より上に掲げて少し間を置く。……置く。心の中で効果音と共にアイテム名を唱えているのだろうか。これマジックアイテムではなくて秘密道具だ。

「小花は少し離れてくれるかな」

 なぜか怪訝な顔をした小花ちゃんを遠ざけて、眼鏡をかけたいちウスが一歩私に近づく。近い。お医者さんに聴診器を当てられるような緊張感。ヒヤリとした金属がお腹に触れて探られるような。戦闘力を測るアレみたいにピピピと鳴ったりもせず、ただ静かに私を、私の何かを見つめている。

 ほどなくしていちウスはゆっくりと目を閉じ、次に見開いたときには私を見ずに、言った。

「心に物語は、まだない」

 何の話? 何を視たの? 訳分かんない。でも、それが何なのか分からなくても……才能はないと宣言されたことは伝わった。

「ええー御伽はヤル気のあるやつだぜ。何でねえんだよ」

「残念ねえ。私も御伽さんには是非とも入って欲しかったのだけど」

 蘭とすみれさんが揃って落胆する。でも、何が何だかよくわからないまま落胆されてしまった私の落胆はそれ以上だった。この落胆に至るまでの経緯を頭の中で振り返る。

 言い訳だけは立派に言って日本に残った。そんな事情でたまたまトキワ寮に来たら、たまたま小説家のタマゴのたまり場だった。たまたま仲間に入れてもらえそうな雰囲気になったけど、今、自分は無能だと分かった。……でもそれは分かってた、だって言い訳なんだもん。無能だけは、たまたまじゃなくって、もともとだった。

「僕がサークルに誘う基準には満たないわけだが」

 いちウスが落第を告げた。頭がグルグル回りだすような感覚。

 今日が希望に満ちた日々の始まりであって欲しかったけどそうはいかなかった。

 よーいドンで転んだみたいでへこむなあ。

 これは必然なんだから気にしてはだめだ。

 当たり前だと笑わなきゃ。こんなことで泣いてはいけない。

 俯いて膝に目を落とした。今誰にも顔を見られたくない。

 強く握ったスカートが離せない。しわになってしまうかな。

 頭の片隅で悲しげなメロディーが奏でられるようとしている。いつから私の中にいたんだ、中島みゆき。

「うっ、うっ」不意に聞こえた小花ちゃんの嗚咽。「う……うわーーーーーーーーーーーん!」

 突如、小花ちゃんの大泣きに呑まれた。私の感情を、底から掬って裏返すほどの激しさで。

「いちウスのアホぉ! ごみカス!」

「ええ……」

 罵倒され、いちウスが面食らっている。それは私も同じだった。中島みゆきもギターをボロロンと鳴らしたきりで出番を失った。

「そんなの視なくってもサークルに入ってって言えばいいじゃん! 御伽ちゃんの何を視たの? 御伽ちゃんを見て分かんないの?」

「いやいや、小花も知っているよね。うちのサークルは心に物語があることを確かめて誘って……」

 小花ちゃんがガタンと椅子を鳴らして立ち上がり、いちウスの言葉を遮る。

「そーゆーことじゃない! いちウスは御伽ちゃんを傷つけた。仲間に入れようとして仲間外れにしたんだ。酷い。蘭ちゃんもすみちゃんも一緒だ!」

 小花ちゃんが涙目ながらもいちウスを()めつける視線に力を籠める。いちウスは黙っている。けど、言葉を失ったという風ではなく、小花ちゃんと交わす視線には、その言葉に納得したような雰囲気があった。

 そして私こそが小花ちゃんの言葉に心を揺さぶられていた。多分小花ちゃんには私をサークルに誘おうとかの思惑はなかっただろう。ただ、小花ちゃんは私を見ていた。私の才能じゃなく、私自身を見てくれていたんだ。ほんの少し前に初めて会っただけの私を、真剣に見ていて、だから私の気持ちに気づいてくれた。曇りのない目とはこういうことをいうのだと思った。

 小花ちゃんは堂々と意見して、堂々と泣いている。言葉にするのを躊躇(ためら)って一歩も進めなくなる私と大違いだ。私だってコソコソと泣いたりしないで、堂々としたいと願う。だから、皆に分かるように涙を拭い、思っていることを、心の巣にこもっていた至極単純な言葉を自分の前に押し出した。

「私に……才能がないことは分かってる。だけど、私は、きっとみんなと成長できるこのサークルに入りたい」

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