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神々のラノベ創造  作者: 一条アル彦


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トキワ寮の人々(1)

 トキワ寮の看板は手作り感満載で、最近掲げたばかりなのか、木の香りが漂ってきそうなほど真新しく鮮やかな木肌をしている。看板が取りつく石造りの門柱に、緩やかな曲線のアイアン格子で唐草模様を描いた門扉が開いているが、開きっぱなしで蔦が絡まっているので普段から閉めることはないのだろう。呼び鈴やインターホンは見当たらないのでそのまま中に入っていく。

 通路の両側は庭木というよりは山道に茂る草木のようで、荒れてはいないけど多少手入れしてあるだけの素朴な(おもむき)だ。緩いスロープを背丈ほど登ってようやく玄関が見えた。

 玄関は板チョコみたいな模様の木の扉で、真ん中に牛の鼻輪のような金属の輪っかがついている。ドアをノックするやつだ。扉の横にインターホンがついているけど気分的に牛の鼻輪の方を使ってみたい。力加減がわからないのでユルい目に叩いたつもりが、案外大きな音でゴインと扉を響かせた。

 とはいえ、果たしてこの音は家人に聞こえているんだろうか。インターホンがあれば普通こちらを使うだろうから、鼻輪を使うのは私くらいで、誰も気づいていないかもしれない。耳を扉に寄せて中の様子を伺うと、何だか賑やかな声が聞こえてくる。その声の中から足音がひとつ、ドタバタとこちらに近づいてきた。

 これは・・・突然扉が開けられて鼻輪に顔面を攻撃されるパターンだ!とっさに扉の前から身をかわすと、案の定、踏切を通過する列車のように戸先が目の前をかすめて行き、私の前髪をなびかせた。なるほど、インターホン使っていればこの危機は難なく回避されていた。

 中から現れたのは私より背の低い女の子で、金髪のショートボブをふわりと浮かせて私の方を振り向く。挨拶して名乗ろうとしたけど、私が口を開く暇もなく女の子はグイっと顔を近づけて勢いよくしゃべりだした。

「もしかして、御伽(おとぎ)ちゃんだよねっ?」

「はい、今日から・・・」

「おお、かわいい女の子おひとりさまご案内だよっ!あっ、わたし小花(こはな)っていうの、よろしくね!」

 さりげにかわいいと評されて口元がゆるむ。でも小花ちゃんの人懐っこいキラキラの笑顔のが万倍かわいいけど。

「こちらこそ。御伽です。よろし・・・」

 はねのける様に扉を全開にして、私の手を引いて招き入れられた。いや、引き込まれた。

「早く中に入ろっ!」

「わっ、ちょっと、靴をっ・・・」

 脱ぐ暇も与えてくれない。天気でも占うかのように靴を跳ね上げて脱ぎ捨て、玄関に上がる。明日は雨だと言いたげな靴を横目に、廊下をグイグイ引っ張られていく。てゆうか力つよっ。

「今からみんなでお昼ごはんだよ、御伽ちゃんを待ってたんだから、おなかペコペコだよぉ」

 ペコペコだよぉの部分だけ力なく(しお)れるように言ってても、引っ張る力は変わらない。

 みんなというのは伯父さん夫婦と他にも寮生がいるのかな。トキワ寮は寮という名がついてるけど、学校に付属する寮じゃなくて、学生や社会人に食事付きで部屋を提供するスタイルの宿舎で、正しくは下宿屋というらしい。下宿屋と呼ぶと寮生はバンカラ学生みたいなイメージが湧いてきてちょっと可笑しい。女子寮だしさすがにバンカラ学生はないだろうけど、我が良き友と出会えたらいいな。

 などと考えていると、あれよという間に廊下の中ほどにある扉に吸い込まれた。

「御伽ちゃん、到着でーすっ!」

 食堂と思しき部屋の大きなテーブルを囲んで伯父さん夫婦と二人の女の子が座っている。自然と視線が私に集まる。

「あの、今日からお世話になります、おと・・・周防(すおう)御伽です。よろしくお願いします」

 小花ちゃんの勢いに流されてか挨拶が早口になってしまう。でも、初めて最後まで言わせてもらえました。      

「あら、御伽ちゃん大きくなったわねえ」

 伯母さんはまじまじと私を見て言った。前に会ったのは小学生の時だから20cmは伸びていると思う。伯母さんは歳より大分若く見える人で、昔からそうだったから、私は伯母さんとは呼ばずに奈子(なこ)さんと呼んでいた。久しぶりに会ってもあまり変わりない感じで、やっぱり奈子さんと呼ぶ方がしっくりくると思った。

「来るときはちゃんと迷えたかい?」

 伯父さん、私の迷子趣味のこと知ってるんだ。お父さんが言ったのだろう。変わりないようで髪には少し白髪が混じっていた。

「いいえ。残念ながら迷えませんでした。あ、えと、お久しぶりです。これからお世話になります」

 カバンを両手で持ち直し、ペコリと頭を下げる。

「は?なんで迷子になりてえんだよ」

 男の子みたいな言葉遣いで茜色の髪の子が当然の疑問を口にする。前髪の隙間から覗く目つきも鋭い感じ。もしかしてヤンキーの人でしょうか。少し丁寧に答えることにする。

「道楽で迷子をたしなんでおりまして。これがまた意外と面白いのです」

「ぷはは、なんだそりゃ、楽しいのかよ。じゃあ、俺もいっぺんやってみよっかな」

 うけた。わりとフレンドリーで俺っ()だ。私の出迎えにわざわざ集まってくれてるんだから、悪い人なわけないよね。

「ねえねえ、それよりさあ、御伽ちゃんもおなかすいたでしょ、お昼はお蕎麦(そば)だよ。引っ越しだからね。私、お蕎麦茹でちゃうよー」

 小花ちゃんが張り切って腕まくりの素振(そぶ)りをする。

「小花、お蕎麦は菜子さんに任せて、御伽ちゃんを席に案内したらどうだい」

 伯父さんが先走る小花ちゃんを制止した。

「そーだった!そっちが先だよね、そんでもってみんなで自己紹介だ!」

 奈子さんがクスクスと笑いながら台所へ消えていく。


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