服をオーダーメイドする
悠真はネット通販を見て悩んでいた。
母は毎月支給される50万のお金を分割して、悠真の為に銀行に貯めておいてくれていたみたいで、資金は潤沢にある。すべて使い切る訳ではないが。
男性は女性に比べて少数だ。なんせ1千人に1人なのだ。男性専用の服の販売も数は少なく、デザインもイマイチで悠真の琴線に触れない。悠真好みの服が無いのだ。その割に客が少ないから値段が高い。
(オーダーメイドで服を作ってもらうしか無いか)
制服を作るために採寸してもらった身体データをもらって来たので、服のデザインを紙に書いてデータとして取り込み、オーダーメイドで服を作ってくれる店に注文をしてやり取りする。
悠真は5着注文して満足したら、ネットサーフィンをする。
(こっちの世界は女性が多いから、女性物が先進的だな)
ネット通販を見たら、女性物で溢れている。漫画なんかも読んでみたいが、男性が少ないせいか内容紹介文がどうも女性をターゲットにした物が多い。ほとんど女性の為の娯楽と言ってもいいだろう。
前に居た世界では男性をターゲットにしたちょっと下品な商品も多かったので、見ていて新鮮だ。男性が非常に美化されている気がするが。
パソコンの電源を切って、部屋から出て琴ちゃんの部屋をノックする。
「はーい」
「琴ちゃん漫画かゲーム、どっちか持ってる?」
「お兄ちゃん?入っていいよー」
琴ちゃんの部屋の中に入る。琴ちゃんが部屋のベッドで寝転びながら漫画を読んでいたみたいだ。
「お兄ちゃん、私の持ってる漫画全部読んでたと思ったけど、もう一度読みたくなったの?」
「そうなんだ。記憶障害だから記憶になくってね。漫画貸してくれる?」
「本棚にあるのなら持っていってもいいよ」
「ありがとう」
本棚で漫画を物色する。琴ちゃんは乙女ちっくな漫画が好きなようだ。前の世界で兄弟とバトル漫画を読んでいた私には未知の分野だな。
「これを借りていくよ。シリーズ全部借りていっていいかな?」
「いいよー。後で返してね」
琴ちゃんがいい子で良かった。
部屋に戻り、早速読む。
(ふぁー、絵が丁寧に書かれているなぁ。学園ラブコメか)
椅子に座り漫画を読む。琴ちゃんから借りてきた本は13冊。いい暇つぶしになりそうだ。
夕飯になる前に読み終わった。
(意外と面白かったけど、なんか男性が弱っちい感じ。男性を守りたい女性が多いのかな?この作品だけかもしれないし、また琴ちゃんに別の本も借りよう)
漫画はフィクションなので、男性が活躍したり強い漫画もあるが、この世界では男性は庇護される対象であり、女性よりも弱い者だと認識されていた。
悠真の身長189cmは男性の中だと高い身長に分類される。この世界の男性の平均身長は168cmだ。悠真は知らないが、自然と男性の稀少さと女性と変わらぬ身長が多いので、男性は守られるべき存在だと女性の頭に刷り込まれている。
悠真の身長は稀なので、気にいる服もないはずだ。もともと男性の服は少ないのに。
悠真が注文したオーダーメイド店では、男性の注文と悠真の身体情報を見て店員達がきゃーきゃーと興奮していた。
「母さん、夕食作るの手伝うよ」
いつのまにか母の呼び方が『母さん』になっていた。
「あら、そぅお。じゃあ、ジャガイモ切ってもらおうかしら」
悠真は高い背を猫背にして手を洗って、料理に取り掛かる。手際もだんだんとよくなってきた。キッチンのサイズが女性用なので仕方がないのだ。腰を痛めないことを祈ろう。
明日は高校の入学式だ。一応普段着で出席していいとは言われているが「あまり目立ちすぎないでください」と注意も頂いているらしい。どうしても、制服の中で普段着の悠真は目立ってしまうだろう。何よりも散髪してスッキリとオシャレな頭に、男らしく色っぽい顔、高身長の悠真が目立たない訳がない。
料理を作り終わり、母と妹と食卓を囲む悠真は入学式がどれだけ大変か分かっていなかった。
さくら時代に高校の入学式を体験してるからそれと同じだと思っているのだ。
食事を終えて風呂に入り、明日の準備をして、携帯アラームをかける悠真は入学式を楽しみにしていた。
(私好みの女の子に逢えるかな?)