家と常識
家に着いたら、普通の一軒家だった。なんか入り口や駐車場に監視カメラがあったけど。セキュリティは万全だね!
鍵はカードキーで、私も持っていた。開け方を教えてもらい、家の中に入る。自動でロックされた。凄い。
玄関は広く取られていて、解放感がある。靴を脱いでお母さんについて行った。
お母さんがケーキを冷蔵庫に入れて、洗面所に案内してくれた。
手洗いうがいが終わったら、お母さんに聞いてみた。
「お母さん、家族は何人いるの?」
お母さんが困った顔をした。ふぅ、と息をついて「3人よ」と言った。
「お父さんとお母さんと私?」
「いいえ、私とゆうちゃんと妹の琴美よ」
「お父さんは亡くなったの?」
また、お母さんが困った顔をして「リビングで話しましょ」とドリンクを入れてくれた。
ソファに座って、ウーロン茶を飲んでから話を待つ。
お母さんもドリンクを机に置いて話し始めた。
「ママはね、精子バンクから精子を買って人口受精でゆうちゃんと琴ちゃんを産んだの。だからお父さんはいないのよ」
「精子バンク?」
「そう、精子バンク。男の人の精子を管理して保存しておく所よ。ゆうちゃんも精通したら精子を売るから、気持ちの整理をしておきなさい。1回は必ず売らないといけない法律だからね」
「なんでそんなのがあるの?普通に男女で結婚すれば良いじゃない」
「出来ないのよ。ゆうちゃんいろいろ忘れてるわね。困ったわ。
今の世の中じゃ、男性は約1千人に1人しか産まれないと言われてるの。ゆうちゃんは、男性はそれだけ貴重なのよ。だからゆうちゃんが出かける時は警護の人を雇うし、雇わない時はゆうちゃんが今日みたいに女性に見えるように出かけるの。ゆうちゃん、男性は女性に狙われてるの。誘拐だってあるんだから注意してね」
ひぇ!?1千人に1人!?誘拐?さくらの時もパパが過保護だったけど、そこまでじゃなかった。30人に1人は女性がいたし、一妻多夫制だった。女性にも自由があったけど、この世界では男性は希少種?
「じゃあ私は将来、一夫多妻になるの?」
「義務ではないわよ。そのかわりに精子バンクに精子を100回売らないといけないらしいけどね。実際に結婚しない男性もいるらしいから」
「へー」
「だからゆうちゃんは1人で出かけては駄目よ。必ず誰かと出かけてね。ママと車で今日みたいに出かけるか、政府公認警護を手配するしかないんだから。あと、インターホンが鳴ってもゆうちゃんは出たら駄目。誘拐犯かもしれないからね」
「えー。買い物に行きたかったら?」
「スマホを必ず持ってね、位置情報が確認出来るから。今回行方不明になったのはスマホを持っていなかったからだからね。それと1人じゃ出かけない。琴ちゃんと2人だけはもっと駄目だからね!」
自由が無いって不満になっちゃう。家に閉じこもっておけってこと?
「旅行に行きたかったらどうしたらいいの?」
「男性用プランがあるから、それを利用するの。家族も一緒に行けるからね」
「海外は?」
「男性は海外に行かないの。高確率で事件に遭うからね」
「行けないわけじゃないんだ」
「危険を覚悟すればね。そんな人は数えるくらいだけど」
「お母さんは仕事をしているの?」
「在宅ワークね。デザインの仕事をしているの。でも、男性がいる家庭は政府から手厚い補償を受けられるから働かない人もいるみたいね」
「補償ってどれくらい?」
「毎月男性1人に50万支給があって、公共料金無料。医療費も男性だけ無料よ。公共交通機関も無料だけど、利用する人はまずいないわね。住宅も無料。この家はゆうちゃんがいたから支給されたの。ご近所さんにも男性が多い地区よ」
「……男性は隔離されてるの?」
「いいえ、保護されてるの。この辺りで知らない人を見かけると道に配置してある監視カメラがとらえて、監視しているって話は聞くわね。交番も多いから何かあったら駆け込みなさいね」
なんか、監視されてるみたいで嫌だなぁ。
「お母さん、私の部屋を教えてもらってもいい?」
「部屋も忘れちゃったの。分かったわ。ついて来て」
頭が痛いと言わんばかりにお母さんは立ち上がって、2階に続く階段を登った。
2階の1番奥の部屋に着いた。ここもカードキーでドアを開けるみたいだ。
「鍵を無くさないようにね。この部屋よ。誰か家に侵入してきてもこの部屋は防弾ガラスがはめられているから安心だからね。不審に思ったら鍵を開けちゃ駄目だからね」
さくらの部屋を思い出すような部屋だった。何故かって?風呂とトイレはあるし、キッチンも冷蔵庫もある。10畳くらいの部屋だ。それになんか乙女っぽい部屋だ。編みぐるみなんかが飾られていて、小物も女性っぽい物が多い。男性の部屋だよね?心は女性だった説が有力だ。さくらの部屋は親兄弟からのプレゼントで乙女チックだった。もっとかっこいい部屋が良かった。
「ゆうちゃんの部屋は可愛いわね〜。癒されるわ〜」
「……スペアキーは?」
「ママだけが持ってるわよ。学校に遅刻しそうになったら起こしにくるから。でも明日は男性支援センターに行くからね」
がっくしだ。徐々にカッコいい部屋に変えていこう。
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