悠真 お母さんに会う
目が覚めた。
部屋を見渡すと病院のようだ。点滴がされている。いや、個室だし、この部屋豪華すぎない?入院費大丈夫?パパとママに連絡は行ってるのかな?
点滴されてない手は動く。良かった。動かなかったらどうしようかと思っちゃった。足も動く。顔も動くな。とりあえずナースコールかな。ボタンを押す。
しばらく待ってると、部屋の入り口が開いた。
女医さんと看護婦さんが来た。女性の医者だ。珍しい。
「青葉さん、目が覚めたんですね。身体に異常はありますか?」
青葉さん?桜田だけど間違えたのかな?
「桜田です。身体に異常は無いと思います」
女医さんが怪訝な表情になった。なんか、出した声がおかしかったな。
「声がおかしいです。自分の声じゃないような」
「声ですか?喉を見ますよ。あーんしてください。んー、特に異常はないですね。後から精密検査をしてみましょうか。多分2日間、水分を取っていないからだと思いますが。飲み物をどうぞ」
部屋に備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを出してくれた。
「ありがとうございます。あの、両親には連絡がいっているのでしょうか?」
「父親がいるんですか?」
「はい。桜田翔紀です」
女医さんが難しい顔をした。カルテに何かを書いている。
「自分の名前を言えますか?」
「はい、桜田さくらです」
女医さんも看護婦さんも難しい顔をした。え?どうしたの?
「桜田さん?私の手を見てくださいね。これは何本ですか?」
「2本です」
「これは?」
「5本です」
また、カルテにメモをした。
「通っている中学校を教えてください」
「松尾中学校です」
女医さんがまた難しい顔をする。
「あなたは何歳ですか?」
「15歳です」
ちょっと安心した顔をした。
「あなたが倒れた場所は覚えていますか?」
「宝蘭神社です」
「5+7は?」
「12です」
「21−15は?」
「6です」
何回か質問をされてから「ゆっくり休んでください」と女医さんは出て行った。看護婦さんが甲斐甲斐しく面倒を見てくれた。
「尿道カテーテルを外すので、ちょっと違和感があると思いますが落ち着いてくださいね」
「はい」
看護婦さんが布団をまくって、ズボンと下着を下ろしてくれた。股間を見た私はギョッとした。ち◯こが生えてる!!あれは、夢の中だったんじゃないの!?胸を触るが硬い。柔らかい胸が無い!?混乱してきた。
看護婦さんが頬を赤らめてカテーテルを外してくれる。なんか申し訳ない。でも待って!股間の感覚がおかしい。やっぱりなんか生えたって感じがする。
「では、ゆっくりしてくださいね」
看護婦さんは優しく言って部屋から出て行った。
私は水を飲んでから横になって考える。夢が本当だった?あの声は何を言っていた?ああ!記憶が曖昧だ!私はあの男の子と肉体を交換したのだろうか?
ああ、疲れた。今は寝よう。現実逃避だ。
ー青葉 美奈子ー
「青葉さん、気をしっかりと持って聞いてください」
「悠真に何かあったんですか?」
2日前、朝起きたらゆうちゃんは家にいなかった。朝食を食べた後も無いし、スマホは家に置いてある。すぐに警察に連絡した。男の子が1人で外に出たら危ないからだ。保護してもらわなければと。
そうして連絡を待っていたら、神社で倒れていて救急車で病院に運ばれたと聞いて、血の気が引いた。何か事件にでも巻き込まれたのかと。
それから2日経って病院から連絡があった。目を覚ましたので病院に来てほしいと。気がせいていたからタクシーで病院まで来たら、ゆうちゃんは寝ていて先生に個室に呼ばれた。
「悠真さんは記憶障害があるようです。もっと詳しく検査しなければいけませんが、自身には桜田翔紀と言う父親がいて、本人は桜田さくらと名乗りました。年齢や倒れていた神社は言えましたが、通っている中学の名前も違いました」
「そんな!ゆうちゃんが!」
「青葉さんが悠真さんにお会いになって、お母様とわかられるかも不安があります。確か妹さんもいらっしゃるんですよね?確認に来られた方がいいかもしれません」
目の前が暗くなるようだった。
さくらは目を覚ました。ベッドの横には椅子に座った女性がいる。あ、こっちを見た。
「ゆうちゃん!ママの事分かる?」
「ゆうちゃん?ママ?」
「そう、ママよ」
「知らない」
女性は蒼白になった。乗り出していた身を戻して椅子にぐったりと座った。多分、この身体の母親なのだろうが知らないから滅多なことは言えない。素直に言わなくては理解が得られない。
看護婦さんが部屋から出て行った。
すまんが私も混乱してるんだ。いきなりママが出てきても、私のママは1人だけだ。パパはたくさんいるけど。
ノックして女医さんが入ってきた。
「青葉さん、どうでしたか?」
「私のことを、知らない、と」
「それはショックでしたね。落ち着いてください。何かの拍子に思い出すかもしれません」
「はい」
女医さんが私に向き直った。
「まずは、さくらさん。あなたの名前は青葉悠真です。覚えてください。記憶障害があり忘れているようですが、間違いありませんので」
「あおばゆうま」
「そうです。そして、青葉悠真さんの隣にいる女性は青葉美奈子さんです。あなたのお母様です」
ママは1人だけど、お母さんて呼ぼうかな。
「お母さん」
「ゆうちゃんはお母さんなんて呼ばないわ!」
「お母様、落ち着いてください。今1番混乱しているのは悠真さん本人ですよ。お母様が支えてあげなければ」
お母さんは静かに泣き出した。そうだよな。子供に自分のこと忘れられたらショックだよな。でも、私は私だもの。変えられないよ。多分本物の悠真さんは私になってると思う。私と同じ性同一障害だったのかな?仕草が女性っぽかったし。
「明日、精密検査をしてみましょう。お母様は立ち会いされますか?」
「も、勿論です」
ずびっと鼻をすすって答える。泣かせてごめんね。