桜田さくらと青葉悠真
私、桜田さくらはママと7人のパパと8人の男兄弟達と暮らしている。
家は複数世帯向け。7人のパパ達がママを取り合わない為に家の中でリビング・ダイニングは共同だが各部屋は別々で、ママが通い妻みたいに暮らしている。
私の実のパパは私のことを「可愛い、可愛い」と猫可愛がりしてくれる。私もパパとママが大好きだ。
この世界は、女性が30人に1人と極端に女性が少なくて、一妻多夫性で、または卵子提供で子供を増やす。そうしないと人口が激減して社会が破綻しかねないからだ。
そう、女性には生まれながらにして沢山の夫と結婚する義務が生じる。結婚しない女性には毎月卵子の提供が義務づけられている。私も生理が来てから毎月卵子の提供をしている。お金が貰えるからお得な感じだけど、病院に毎月行くのはちょっと恥ずかしかったりする。
もちろん私の部屋は鍵付きの頑丈な部屋が与えられている。これは家族でも女性の身体を狙って性犯罪を犯す人が少なからずいるからだ。私のパパや兄弟達は心配ないけどね。お風呂やトイレも部屋に付いていて、この部屋だけでも暮らせるようになっている。(パパが寂しがるから、ほとんどリビングにいるけど)
家族仲はこれ以上ないくらい良いが、私には秘密がある。
私は性同一障害なのだ。すなわち心は男性。恋愛対象は女性だけど、この女子少子化社会では女の子と結ばれるのは0%だ。私は卵子提供だけして独身でいるつもりだけど、大家族で育ったから人恋しいのはどうしようもない。それに女性が結婚をするのは義務だ。
私は将来が不安で今から憂鬱だ。だって、心は男性なんだよ?私は女の子と恋愛したいだけであって、男の人は恋愛対象にならない。それなのに男性と結婚しないといけないなんて私からしたら地獄だ。
男性と友達付き合いは出来るけど、恋愛?無理無理!いつも好きになるのは女性ばっかりだったもの。はぁ、特例でも出来ないかな?
私は学校に行き帰りするだけでもパパに送り迎えしてもらっている。パパ曰く「さくらは可愛いから、1人で歩いていたら攫われる」だって。嬉しいけど複数。
でも確かに私は可愛いいらしい。自分の顔を客観的に見るのは難しいけど、小さい頃から他人にも可愛いと言われる。告白されたのも数えきれないくらいある。
でも、いつも考える。私はどうしてパパみたいに男性になって生まれてこなかったのだろうと。まあ、今の世の中、女性と恋愛結婚出来るのは稀だ。契約結婚してる女性もいるらしいし。
高校に入ってから、今まで出会ってこなかったオラオラ系の男子がいて、私にアプローチしてきて凄い困る。だって全然ときめかないし、迷惑なだけだ。
だけど、何かとベタベタと触ってくるし、私と2人きりになりたがるし、ストーカーもしてくる。
このあたりから、私は精神的に追い詰められていたんだと思う。セックスアピールっていうの?気持ち悪くて仕方がなかった。
少し病んできていた私は夜中に家を飛び出して、近所の神社まで行った。
困った時の神頼りっていうか、パパもママも私の心配をしてくれるのが心苦しくて、視野が狭くなって何かに縋りたかった。
それで調べて、お百度参りをした。疲れたけど無心で何かをしてその時だけは煩わしい思いから抜け出せた。
そして丁度100回目。朝日が見え始めた時に耳元で鈴の音がなった。神楽鈴の音に聞こえて、ハッと目を開けると白い空間にいた。私は浮いていた。少し離れた所に裸の男の子がいた。私はその子をじっと見ていた。私と同じくらいの身長だ。同じ歳か少し小さいくらいかもしれない。
向こうも私に気がついて顔を真っ赤にした。
はて?顔が真っ赤になるようなことでもあったかと自分を見たら、私も裸だった。わお!これはちょっと恥ずかしいかもしれない。そっと、胸と股間を隠した。男の子も隠していた。え?男の子も胸を隠すの?とちょっと疑問に思ったら、どこからか声が聞こえてきた。
『桜田さくら、青葉悠真。2人は並行世界で同じ願いを同じ時に願った。お互いの魂を入れ替えて望み通りにしてやろう』
とても厳かな声だ。身体に響くような。
意味を理解する前に、私と男の子は何かに押されるように近づいて思わず目を瞑ると何かの膜を潜り抜けた感じがした。
思わず目を開けると、私が目の前に居た。私が驚いたように私を見る。
えっ?と驚いて自分の身体を見ると膨らんだ胸が無くなって、ついてなかったものが股間にぶら下がっていた。私が驚くと世界は粉々に崩れた。
『幸せになれ』
最後に声が聞こえて、私の意識が落ちた。
「きゃあ!誰か倒れてる!」
「救急車を呼ばないと!」
「あなた!大丈夫!?起きて!起きないよ!さっちゃん!」
「今電話してるから待ってて!はい、◯◯神社です!1人倒れてます!すぐに来てください!」
聞こえてるのに、身体が動かない。私、どうしちゃったのかな?病気かな?死ぬの?死にたくないよ!パパ!ママ!助けて!神様、仏様!
「うわ!さっちゃん!男だよ!男!」
「え!男!?りぃ!触っちゃ駄目だよ!警察に捕まるよ!」
「これは人命救助です!だから大丈夫!ふんすっ!ふんすっ!」
「息が荒い!でも綺麗な子だね。私、男をこんな近くで見たの初めて……」
「良い匂いがするよ!くんかくんか」
「近い!近い!匂わない!本当に捕まるよ!」
「あああ!殺生な!もう少し!」
なんだか騒がしい。男なんて珍しくもないだろうに。それよりも私のこと助けてよ。
騒がしい声をBGMに私は動けないまま時間が過ぎる。
バタバタと人が来た音が聞こえる。
「患者さんはそちらの倒れてる方ですか!」
「そうです!男の人です!」
「おとこぉ!?」
「ちょっと、落ち着きなさい!患者を早く運ぶわよ!」
「りょ、了解です!」
私の身体が持ち上げられる。あ、良かった。助けてくれるんだ。変な2人組だったけど、良かった。ちょっと昨日から気疲れしてたから寝ようかな。身体が動かないのが不安だけど。
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