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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

公式企画参加してみた ① 夏のホラー2023 短編集

拝んではいけない

作者: モモル24号

 残酷な描写があります。

 世の中には〇〇してはならないという、場所や行動というものがある。

 振り返ってはいけない、覗いてはいけない、これは神話や童話などによくある話しだろう。


 喋ってはいけない、これは葬儀で御坊さんが御経を唱える間や、詐欺の電話に個人情報をぺらぺら喋っては駄目など、意味合いは違うにしてもいくつか思いつく。


 年末のテレビ番組で、笑ってはいけないなんてのもあった。

 テレビの娯楽番組なら、禁忌(ルール)を破ってしまっても軽い罰を受けるくらいだ。


 しかし、生命に関わるような禁則事項を、遊びごころで破ることはオススメしない。

 私は昔からある約束事を、なんとなく浮かれた気持ちで破ってしまっために大変な目にあった。

 私がしてはいけなかったのは拝むことだ。拝んではいけないと、言われていたのに手を合わせて拝んでしまったのだ。


 私が昔住んでいた町は地方の都市で、田舎ながら栄えていた方だった。

 私の実家もその町の中にあり、子供時代は外で遊ぶことよりも、商業施設のゲームコーナーでみんなでワイワイやる事が多かった。


 駅や学校、商業施設は町の中央にあって、私の帰る道には小さな祠があった。発展しつつある街中にそぐわない古めかしい祠。

 新しく引っ越して来た住人からは、町に残された数少ない心霊スポットと言われていた。


 なぜそう呼ばれたのか、理由はわからない。ただ昔からこの土地に住む祖母や母は、けっしてこの小さな祠を拝まなかった。。


 子供の頃、学校の帰りに熱心に拝むお年寄り夫婦の姿を見かけて、疑問に思った事があった。


「どうしておじいちゃん達は拝んでもいいの?」


 家に帰って祖母にその事を聞く。


「あの人達はいいのよ」


 誰とも聞かずに祖母が私の頭を撫でるようにポンポンと叩く。あれは、忘れろという意味が籠もっていたのかもしれないと、今なら思う。


 神社に行って神様にはお祈りをしているのに、どうして近所のあの祠は駄目なのか。

 きっと幼かった私には、説明されても理解出来なかったのだと思う。

 普段は優しい祖母が、その話しをする時だけは厳しかったので、子供心に触れてはいけない話なのは理解した。


 そんな祖母も私が高校生に上がる頃には亡くなった。もともと心臓が弱く寝込みがちになっていた。

 祖母は自分の身体のことよりも、私を心配して最後まで祠で拝んではいけないよと言っていた。

 祖母があそこまで固執する理由はわからなかった。きっと道端のお地蔵様には、拝んではいけないものがあるのと同じような理由があるからだと思っていた。


 祖母が生きている間に、私はもっと詳しく話しを聞いておくべきだったのかもしれない。

 

 いつしか私も大人になって、町を出て社会人となった。好きな人も出来た。優しく気だての良い子で、付き合う内に半同棲までするようになった。

 仕事が忙しいので、実家に一人残る母には紹介が遅れていた。

 ようやく少し早めの夏休み休暇が取れて、彼女と帰省する事になった。

 

 初めて母に合わせようと思うくらい大好きな彼女を連れて、私は気分が高揚していたのは確かだ。

 田舎というわりに人も多く賑やかで、私は実家へ向かいながらかつての思い出を彼女に語って聞かせた。


 実家の途中の古めかしい祠は、いまだにそこにあった。手入れをする人がいるのだろう、昔からこの祠だけは変わらない。


「この祠は?」


 無邪気に彼女が尋ねる。私は祖母の事を思い出し、昔からある拝んではいけない祠だと伝えた。

 彼女はさほど興味はなさそうに、それ以上は聞いて来なかった。


 実家では母が料理を用意して待っていた。彼女の事も気に入ってくれ、彼女も母とは仲良く出来そうだと笑いあった。


 一晩泊まって私達は自分達の家に帰る。顔見せは出来たし、年末年始の休みはゆっくり出来るといいねと再び笑い合い、母と別れた。


「仲良くやれそう?」


「ええ、自分の親よりもね」


 ずいぶん気が合っていたからリップサービスだとしても嬉しい。

 駅へと向かう帰り道、再びあの祠の前を通る。電車の都合もあるので早めに出てきた私達は、祠の前でお祈りする若い男女に目を向けた。

 あの時の老夫婦もこの男女にも何か起こる様子は見られなかった。


「迷信とか都市伝説の類いなのかもね」


 彼女の言いたいことはわかる。拝んでもトラックが突っ込んで来る様子は見られないし、男女の会話が聞こえた。


「この祠のおかげでこの町が発展し続けてるんだって」


「そんなん都市伝説だよ。そうやってパワースポットに仕立て人を集めたんだろ」


「いいじゃん、拝んで幸せになるならさ」


 この町の人じゃないようだ。ただ、私の聞いて来た内容と随分話しが違う。男女が立ち去ったあと、彼女も日傘をたたんでお祈り捧げる。


 私も、私達が幸せになるよう祈ろうと誘われた。亡くなってかなり立つ祖母の顔が思い出されたが、昼間で明るい事もあり、私も彼女の隣に並んで拝む。


 何も起きなかった。迷信だったのか、地元の人達が町を盛り上げようと一丸となって、都市伝説の類いを作りあげたという話しが正しいのかもしれない。


 私達は電車に乗り家に帰った。家に帰って来ても何もなかった。やはり担がれていたんだとわかる。

 祖母が、あまりにも真剣な表情で言うので乗せられてしまったけれど、そんな私に彼女は微笑んでくれた。


 翌々日の仕事が終わる頃に会社に警察の方が訪ねてきた。警察のお世話になるような事は何もしていない。

 母の事で話しがあると言われたので会社の応接室を借りて話しを聞く事にした。


「一昨日の晩、お母様が自宅で襲われお亡くなりになりました」


 一瞬、何を言われているのかわからなかった。一昨日の晩? 私達が帰った後に?


 犯人は見つかっていない。実家を訪れた私達は真っ先に疑われたが、実家から出る姿や電車に乗る姿、自宅の最寄り駅で防犯カメラでアリバイが成立しているそうだ。


 母も私達を見送った後、近所の人と話す姿を目撃されている。

 押し入った様子や争った形跡がなく、室内も物色され荒らされた様子もなかった。

 死因は首と胸と腹を刺され出血多量死だ。

 

「お母様の倒れていた近くには『みつけた』と古い文字で書かれていたようです」


 証拠は刺された傷口と、その文字だけ。調査中とはいえ、侵入経路も足跡も見つからない可能性が高いと言われた。


 警察が帰った後、私は彼女に連絡するかどうか迷った。今は私も動揺していてうまく話せる自信がないので止めた。私達が帰った後に母が殺されたなんて話しをして、心に傷を負わせたくないのもあった。


 母が亡くなり私は孤独になった。兄弟はおらず、親戚に叔母が一人いたような記憶があるだけだ。

 何も考えられず、とにかく家に帰ろうと思った。


 電車に乗り、駅へと着く。とぼとぼと放心した力ない足取りで自宅のあるマンションへの帰り道を進む。

 母の死のショックが大きくて、私は警察の言葉を意識して聞いていなかった。

 

 どうして古い文字で『みつけた』なのか、少し考えればわかりそうなものなのに。


「ミツケタ」


 背後からゾッとする声がした。精神的に参っていたおかげで膝が笑い、体勢が崩れた。

 包丁、ではなく刃の長い小刀が頭上を刺す。白い装束、今時幽霊でもこんな格好しない。

 顔も身体も肌が焼けただれ見るだけで痛々しい。


 無言で白装束の女は急所を狙い刃物を突き刺す。転がって交わすけれど完全にかわせず、肩を貫かれ腹にも傷を負った。

 激しい殺意に私は動きが鈍り、刃を足で蹴って反らすしかなかった。


「大丈夫⁉」


 彼女の声がした。 殺される寸前、この殺人鬼が彼女を狙ったらとさらなる恐怖が身を襲う。


 だが、白装束の女は忽然と消えた。彼女が救急車を呼んでくれて、私は一命を取り留めた。彼女が無事で良かった。あれは私だけを狙って来たのだろう。


 生命があってホッとするのはまだ早かった。治療が終わり病室で安静にしていると、病室の暗がりから白装束の女が現れた。


「ミツケタ」


 帰り道で襲われた時に比べて、焼けただれ両目まで潰れて口だけの女がニタッと嘲笑う。

 ナースコールを押すだけの力はあった。誰かが駆けつけて来るまでベッドからろくに動けない私が生きていられるか保証はないが。


 バチッと明かりがついて、白装束の女は退散した。明かりに弱いというよりも『みつけた』者以外には見られてはいけないようだ。

 腹に再び刺し傷を負い、血が滲み出る。明かりをつけたナースがやって来て、パニックになる。


 その後もう一度手術となり、トラブルが起きないように、彼女が病室へ呼び出された。

 動けなくていいので念の為、他の患者もいる部屋にしてもらうと医者は不審そうな顔をすることなく計らってくれた。


 そういう患者は私に限らず、世の中には偶ににいるそうだ。


 彼女は私に泣いて謝った。私を偶然のタイミングで助けに来れたのは、彼女のもとにも警察官がやって来て、簡単な事情聴取を受けていた。

 彼女は古めかしい祠と文字と、私の拝んではいけない話しが紐づいて、直接話そうとやって来た所だったのだ。


◇◆◇


 あれから白装束の女は現れなくなった。私は傷の回復を待ってから実家のある町に帰り、母の遺体を弔い、実家の現場検証保全の協力の為に貴重品などの回収を行った。

 古めかしい祠は何も変わらず残っている。


 地元の警察の方の話しから、この町では町の出身地の人が正体不明の殺人鬼に襲われる事件が何度も起きていたらしい。


 殺人鬼の動機はいまもわからないけれど、昔から言い伝えを守る家の老婆の話しでは、古めかしい祠が関係しているとのことだった。

 こうした事件が起きると、すぐに神社へ祈祷を行ってもらい、殺人鬼を調伏するのだそうだ。

 

 私は不用意な私の行為で母を失った。祖母の言う事を守り続けて入れば、こんな事は起こらなかった。

 ただ、あの時は彼女や男女のカップルらしき二人組も拝んでいたはず。


 私の祖母は拝んではいけないと言い、世間的には幸せにしてくれる祠と言われているのは何故なのだろう。

 私は痛む身体を引きずるようにしながら町に関しての話しを集めた。

 町の人の大半は何も知らない新世代だ。市役所や、図書館にも古めかしい祠については触れられていなかった。

 

 真相を知っていそうな祖母のような人は、殆ど亡くなっていて手がかりは途絶えた。


 答えは意外な人から聞く事が出来た。私のもとに疎遠になっていた叔母が訪ねて来た。

 叔母は、ずっと昔に祠で拝んでしまい、白装束の女に襲われたという。私の父が庇ったが襲われる資格があったため殺されてしまったという。


 この土地の人間ではない祖父が家族を守りながら神社へ駆け込み、神主さんがお祓いをして助かったそうだ。

 

「あの祠は昔、村の発展の犠牲にされた娘の鎮魂を行う為に造られたんだよ」


 昔はよくあった話しだそうだ。ただ祠の主の怨みは凄まじく、その時の村の人間全てを永劫呪って焼死したという。

 あまりにも怨みが深い為に、当時から村にあった神社の神主が祠を作り鎮魂を行った。


 村の人間で拝んでいいのは神主の家系だけだった。集落の人間が拝みに行くと惨殺される事件が多発したため、拝んではいけないと言う話しが代々集落の家系に受け継がれたそうだ。


 時代が下がると村の家系も地元から離れたり、情報ツールの発達で言い伝えの信憑性も薄れていった。

 私も大人になってからきちんと話しを聞いても信じたかどうか怪しいものだ。


 実際それで夜道に襲われ母を失った今は、信じざるを得ない。非科学的であっても、二度と祠を拝もうなどと思わないだろう。


 祠が取り除かれる事があるとするなら、当時の集落の家系全てが滅んだ時だ。

 それに、拝んではいけないのは村の出身の家系だけで、私の彼女のように関係者と親しくても、白装束の女は襲われない。

 むしろ無関係の人間が拝みに来る事で、村の発展、町になり都市になった。

 

 何も知らない人間なら感謝の祈りを捧げたくもなるし、幸せを願い拝みにも来るかもしれない。

 この町に出身地を持つ先祖や身内がいたのなら気をつけてほしい。

 彼女はいつまでも探している。もしみつかってしまったのなら、夜の帰り道に『みつけた』と言う声を聞くことになるのだから。

 

 

 夏のホラー2023 三作品目となります。今回は有名な怪談ばなしの幽霊の殺人鬼、お地蔵様にまつわる話しなど取り入れました。

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