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001

「今日をもって、俺はこのパーティーを抜けたいと思う」

 

 俺──エメリヒがそう告げると、ハンス以外のパーティーメンバーはきょとんとした表情になった。

 真っ先に声を上げたのは、剣士のブライアンだ。


「はあ!? お前、いきなりなにを言い出す!? しかもこんな、めでたい席に……」

「すまない。だが、前から決めていたことなんだ」


 そう頭を下げると、ブライアンは「ちっ!」と大きい舌打ちをして、酒が入ったグラスをテーブルに叩きつけた。


 体格も大きく、強面のブライアンが明らかに不機嫌になったのを見て、一瞬俺は怯んでしまいそうになる。

 しかし考えをあらためるつもりはなかった。


「な、なに言ってんのよ、エメリヒ。冗談よね? いくらエメリヒでも、言っていいことと悪いことが……」


 場の雰囲気を明るくしたいのか、アーダがへらへらと笑う。


 彼女はパーティーの中で唯一の女であり、同時に魔法を専門職にしていた。サイズが大きめのローブを羽織っているが、その豊満な胸は隠しきれない。いつも男どもの無遠慮な視線にさらされているものの、「いくらでも見せてあげればいいじゃない」といつもそっけなく言っている。


「俺だって、言っていいことと悪いことは分かっている。これは冗談じゃないんだ」

「しつこいってば! 冗談なんでしょ? なんで、あんたがパーティーを抜けないといけないのよ。これ以上冗談言うようなら、怒るわ」

「…………」

「ま、まさか本気で言ってるの?」


 震えた声で問うアーダ。

 だが、彼女も怒らせてしまうことを恐れた俺は、答えることが出来なかった。


「なあ……ハンスも黙ってないで、なんか言ってやれよ。今日のエメリヒはどこかおかしい。お前からガツンと言って、目を覚させてやれ」


 このままじゃらちが明かないと思ったのか、ブライアンがハンスに話を振る。

 ハンスはこのパーティーのリーダーだ。

 彼の意思がなによりも尊重される。


 ハンスはさっきから手を組み、じっと俺の顔を眺めているだけで、一言も発そうとしなかった。

 彼はブライアンに言葉を促されても、沈黙を守っている。

 ここは賑やかな酒場だっていうのに、俺たちが剣呑な空気を漂わせているからなのか、他の客たちも固唾を飲んでいる。異常とも感じるほどの静寂が、酒場を包んでいた。


 やがてハンスはゆっくりと重い口を開き、


「……理由を聞こう」


 と言った。


 どうやらアーダのように、俺の言ったことを冗談だと思っていないらしい。真摯な口調で問いかけてくれる。


「ああ」


 頷く。


 みんなになにも言われようとも、俺の意思は変わらない。しかし急にパーティーを抜ける罪悪感もある。せめて説明責任は果たすべきだ。

 それは分かっているし、事前に何度も考えていたことなのに、なかなか次の言葉が出てこなかった。

 何故なら、ここから先は俺の矮小さをさらけだすような行為になってしまうからだ。

 落ち着くために、何度か深呼吸をする。そうするだけで嘘のように頭がすっきりして、説明する勇気が出てきた。


 俺は彼らの顔を真っ直ぐ見て、こう説明を始める。


「はっきり言おう。補助魔法しか使えない俺は、いつもお前らに劣等感を抱いていた」

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