第1ゲーム 覚醒
ある日、目覚めると、そこには緑が広がっていた。
俺は自分の部屋で寝ていた筈だ。いつの間にこんな所へ?
とにかく、探索開始だ。留まっていても仕方がない。
暫くすると、町が見えた。外側は壁で囲われていて、なかなか栄えているようだ。
おかしい。この草原の中に町があるなんて、見た事も聞いた事もない。日本ではない事は確かだ。
もしかして、ここは夢の中なのか?その可能性はある。
あの町に行ってみよう。何か分かるかもしれない。
―――――――――
近くで見ると、感じられなかった迫力が伝わってくる。壁はかなり高く、頑丈に作られていた。
壁の一部には入り口があり、そこから街に入るようだ。門番らしき人も立っていて、甲冑を着ている。
これが現実だとしたら、外国なのは間違いなさそうだ。日本で甲冑を着る人なんて、コスプレ以外有り得ない。
早速、入り口に入ろうとした。だが…………。
「貴様、何者だ。
ここを通りたくば、身分カードを見せろ。」
そう言い、門番は俺の鼻先に槍を突き出してきた。
俺はゆっくりと手を挙げ、抵抗する意思がない事を示した。
それでも、門番の目には鋭い光が宿っている。
この門番は"身分カード"とやらを見せるまで、槍をしまう気はないらしい。
俺は動揺していながらも、あるかどうか、服のあちこちを探してみた。
ふと、上着の内側ポケットを触ると、何か硬い物が入っている感触に気付いた。
取り出してみると、腕輪のような形の物だった。これも、俺は見た事もない。用途は不明だ。
ここまで行くと、俺が何らかの原因で死に、転生してこの異世界に来た…………………というようなシチュエーションが王道だ。
門番に見えるような位置に腕輪を持っていくと、門番が何やら反応をした。驚いているようだ。
ふむ。これは、身分カードとは違ったみたいだな。それもそうだろう。カードじゃないのだから。
俺はこれしか持っていない。誰かがここに連れてきたのだとしたら、不親切だ。
俺は腕輪を元のポケットにしまい、顔を上げた。
先程までは門番が槍を突き出していたのだが、槍は収められ、門番は横に退いている。
何事かと思ったが、その疑問は直ぐに解決した。
「これは失礼しました。"プレイヤー"様の一人だったのですね。
どうぞ、お入りください。」
もう入っていいようだ。
これは身分カードとは違うらしいが、同じような役割があるらしい。
俺は町へと歩みを進める。その横で門番は敬礼をしていた。
気になる点がいくつかある。
あの腕輪を見せた途端に、門番の態度が豹変した。あの腕輪は何なんだ?
それに、俺の事を"プレイヤー"とも言っていた。
そうなると、ここはゲームの世界なのか?
そう考えると、ここはVRとかいう奴だろうか。しかし、俺はそれを持っていない。最近ゲームをやった覚えもない。
今の時点では、この謎は解明できないようだ。情報が少なすぎる。誰か説明してくれたら、楽に解決出来るんだが。
そんな事を考えていると、俺の上着の内側ポケットから光が漏れている事に気付いた。それ程激しい訳ではなく、ライトが点滅しているような光だ。
そのポケットには先程の腕輪が入っている。何か変化が起きたようだ。
腕輪を取り出し、見ると、腕輪についている液晶画面に手紙マークがアップになっていた。
よくあるメールのマークだ。この腕輪にはそんな機能がついているのだろうか?
試しに、そのマークを押してみた。すると、正しかったのか、目の前に立体映像が映し出されていた。
いつの間にか、周りの様子が停止している。まるで、時が止まったかのようだ。音も、動きも、光すらも停止している。
立体映像に目線を戻すと、フードを被ったマント姿の人物が映し出されていた。顔の上から半分は仮面をつけていて、顔を認識する事は出来ない。
もちろん、知り合いに心当たりはない。
すると、立体映像が喋り出した。
「ようこそ。私の世界へ。
君が最後だ。
しかし、驚きだ。今までのプレイヤーの中で、君が最も速くここに辿り着いているよ。」
軽く腕を開いて、歓迎の意味を示している。マントから薄橙色の肌が覗いている。どうやら、人間のようだ。
声は低く、かすれた時に近い声をしていた。どうやら、男の人みたいだ。
肌の色からすると、白人か……………。
しかし、"私の世界"………………。
この立体映像は質問したら答えるようにしてあるのだろうか。
まず、質問その1。
「私の世界とは、どういう事だ?
この世界は何なんだ?」
「この世界はゲームの中だ。
そして、この世界を作ったのは私だ。」
立体映像は率直に淡々と答えた。
質問には答えられるようだ。
俺とこの男と離れた所で会話している状態なのか?それとも、質問に対しての答えを予め撮っていた?
とにかく、質問に答えられるならそれでいい。
質問その2。
「お前がここに連れてきたのか?」
「その通りだ。」
質問その3。
「目的は何だ?」
「それは答えられない。」
質問その4。
「この世界から出るにはどうすればいい?」
「もちろん、ゲームをクリアする事だ。
クリア内容は、"真実を知る"こと。
クリアすれば、ここから全員強制的にログアウトされる。」
「"真実を知る"?何の?」
「…クリア内容に関しては、私から言えるのはそれだけだ。」
その後、数々の質問を俺は投げかけた。
「俺の体は今、どこにある?」
「誰にも見つからない場所だ。
例え、警察だろうと見つけるのは不可能だろう。」
「ここで死んだら、どうなる?ここはゲームの世界なんだろう。」
「もちろん、死んだ所で生き返る。永遠とな。」
「この腕輪は何だ?」
「その腕輪でプレイヤー同士で連絡をとったり、持っているアイテム・武器・防具の一覧を見たり、自分のステータスを見られる。プレイヤーの証ともなる。」
「この世界のしくみはどうなっている?」
「職業があり、それぞれでステータスが変わる。魔法という概念もある。私から言えるのはこれだけだ。」
「プレイヤーは何人いる?」
「それは自分で確かめるんだな。そのバングルで確認出来る。」
「職業はどこで決められる?変えられるものなのか?」
「職業はギルドで決められる。もちろん、変えられるが、LVは最初からだ。経験済みの職業では、LVはそのままだ。」
「バングルでは他のプレイヤーの情報を見られるのか?」
「ネームは見られるが、許可なく情報は見られない。」
「この世界の人間、俺達プレイヤー以外はコンピューターなのか?」
「その通りだ。」
他にもいくつか質問が飛んだが、男は律儀に答え続けた。
しかし、ついに男は終わりを告げた。
「こんなに質問が来たのは君が初めてだ。
ここまで冷静な者がいるとは、私も思わなかった。
さて、そろそろ終わろうか。」
「分かった。これで、最後だ。
お前は何者だ?」
質問をした後、少しの沈黙が続いた。どうやら、名を告げるのを躊躇っているようだ。
そう思っているうちに、男が名乗った。
「川島…………。そう名乗っておこう。
君の名もきいておこう。」
俺も男、川島と同じく、少し考えてから答えた。
「俺は………………シオだ。」
「シオ。君が謎を解き明かしてくれる事を期待しているよ。」
仮面の下から見える口が不敵な笑みを浮かべた。
そして、今までなかった乱れが立体映像に生じ始めた。
「当たり前だ。このゲームを絶対に俺がクリアしてみせる。」
俺も不敵な笑みを浮かべ、そう宣言した。
やがて、乱れが激しくなり、ついに立体映像は消えていった。
すると、周りの時が進み始めた。
さて、この先には何が待っているのやら。流石の俺にも、想像がつかない。
…………だが、案外楽しくなりそうだ。