◎第4話〈 猫耳と少女 〉
◎第1章 - 異世界アンチの俺が渋々勇者になり魔王をボコボコにして帰るはずが、パーティーメンバーに止められてなかなか帰らせてくれない。-〈第4話〉『 猫耳と少女 』
シエル・ハルファーレンの右手には、“勇者の文字”と呼ばれる証があった。
その証とは、かつてこの世界を救った異世界の勇者、エデン・グラ・ヴェオレンスが最愛の妻に施した愛の証と同じ物である。
そのエデンって人が世界を救って以降、何百年に渡りその証を持って生まれてくる少女が各地で現れ始めたそうだ。
その都度、次々に現実世界から勇者が現れ、この世界を魔王から救うとか。そして使命を果たすと、2人は愛を誓い合い、添い遂げると言う。
なので、証が浮かび上がる女性が生まれる事は、勇者が異世界から召喚される前触れと呼ばれ、その者は勇者の妻に相応しい女性になるように、幼少期から厳しい訓練を受けるとされている。らしい。
そしてその勇者の殆どがグラディエーターの職を言い渡される訳なのだが…。
その後、勇者と花嫁さんがどうなったかは誰も知らないらしい。
正直、俺はその話を聞いてゾッとしてしまった。
つまり俺は、もう現実の世界には帰れないどころか、魔王討伐なんて面倒な事をしなければならないのか?!
俺は心底ガッカリしてしまった。
この異世界で魔王を倒し、結婚までしなければならないとは…。
そんな事を考えていると、魂の抜けた俺にシエルが問いかけた。
「私じゃ不満ですか…?」
シエルは心配そうに俺を見つめている。
正直、シエルに不満は無い。
将来を約束された上に結婚相手まで見つかるなんて、これほど幸せな事は無いだろう。
しかし、俺は違うのだ。
俺は歴代の勇者達みたいに、異世界ライフを満喫するつもりは無い。
俺はさっさと現実世界に帰って、あの有意義なオタクライフに戻りたいのだ。
なのに、何故俺がこんな目に遭わなければならないのだ…。
そんな事を考えていると、シエルが怒りながら俺にうったえてきた。
「私が嫌なら、私の事なんて忘れてさっさと魔王倒してくればいいでしょ!」
涙目になりながら訴えるシエルを見て、俺は少しのため息を付いた。
そのため息を見てシエルはホッペを膨らませている。
「もういいです!」
そう言ってシエルはギルドを出て行ってしまった。
シエルに不満なんて一切無い。これは本当の本当だ。
だって可愛いし、性格もいいし、悪い所を見つける事の方が困難なくらいだ。
しかし、それよりも俺は、これから異世界で一生過ごさなければならない事にガッカリしていた。
俺には現実世界でやり残した事が沢山あったのだ。
これも全て、異世界をバカにした影響なのかも知れないと思うと、俺は少し鼻で笑った。
そんな時、シエルは涙目になりながら森へ走って行った。
「何ですか。せっかく伝説の勇者が現れたと思ったのに。あなたを見た時、私はちゃんと感じたんですよ。きっとこの人だ!って。でも、あなたはやっぱり私なんて要らなかった。」
ポツポツと雨が降り始める。
「ずっと夢見てたんです。私は勇者に選ばれた女の子なんだよっ!ってパパやママに言われて、ずっと会えるのが楽しみだったんです。小さい頃からお稽古事をいっぱい頑張って、勇者様に認められるような素敵な女性にならなきゃって思ってたんです。獣人族が“勇者の文字”を得られる事なんて今まで一度も無かったから、私は特別なんだって思えてずっと頑張ってきたんですよ。言葉遣いも仕草も魔法も、全部あなたの為に頑張ってきたのに。」
シエルが独り言を言った瞬間、空がピカッと光り、雷が鳴った。
気がつくと街を離れて、さっき坂口と出会った場所まで戻って来ていた。
雨は激しく降り初め、森からは大きく澱んだ魔物の鳴き声が聞こえた。
「あれ、私なんでこんな所に‥‥?」
そう言って街へ戻ろうとすると、シエルは濡れた石に躓き転んでしまった。
その瞬間、また雷が大きく鳴り響く。どうやら、シエルは足を擦りむいてしまったようだ。
「イテテ、早く戻らないと‥‥。」
その瞬間、森から大きな魔物が出てくるのを肌で感じた。
どうやら、とても飢えた魔物がヨダレを垂らしながらシエルに近づいて来ている。
「なんで、こんな所に、ドラグネイトスネイクがいるんですか‥‥。」
シエルは擦りむいた足で立ち上がると、いつもの戦闘スタイルを構える。
しかし、シエルはそれと同時に気が付いた。自分の装備をギルドに置き忘れてしまった事に。
「あれ、私の装備が…」
その一瞬の隙に魔物が攻撃してくる。
その魔物は、ドラグネイトスネイクと呼ばれる肉食のモンスターだ。
シエルは腰に隠していた小型のダガーで魔物に対抗する。
しかしダガーではドラグネイトスネイクの巨大な体に致命傷を与える事が難しい。
視界は雨で見えにくく、空が雲で覆われていて薄暗い。尚且つシエルは全く戦闘に集中出来ていない。
まさにシエルは劣勢を強いられている。
ドラグネイトスネイクは強力な牙と尻尾でシエルの攻撃を全て跳ね返した。
「クッ‥魔導書さえアレば‥!」
シエルの攻撃は、ドラグネイトスネイクに一切通じなかった。
そしてドラグネイトスネイクのカウンターで、シエルは右肩と左足を負傷してしまった。
「ッ!!!」
ボロボロになりながら立ち上がるシエルに、ドラグネイトスネイクは容赦なく攻撃を仕掛ける。
そしてシエルは、自身が持っていたダガーをドラグネイトスネイク目掛けて思いっきり投げた。
そのダガーは奴の左目に直撃する。
「グゥワァオ!!!!」
ドラグネイトスネイクが怯んでいる隙に右肩を抑えながら、シエルは街に戻ろうとする。
しかし、ドラグネイトスネイクは右目でシエルを捉えて、尻尾を大きく振り上げた。
そしてシエルはドラグネイトスネイクの尻尾に吹き飛ばされる。
もう立つ力はほとんど残っていない。
その時、シエルは自分の死期を悟ったのだ。
「あぁ。私、今日死ぬんですね。せっかく勇者様に会えたのに。本当はもっと褒めて欲しかったな。本当は私を受け入れて欲しかったな。私頑張ったよ。いーっぱい頑張った!でも残念、私はあなたの隣には立てないみたいですね。守さん、どうかお元気で。」
シエルはそう言って目を閉じた。
そしてドラグネイトスネイクは鋭利な牙でシエルにトドメを刺そうとする。
その瞬間、どこからか声が聞こえてきた。
「ったく、これだから異世界ファンタジーはクソなんだ。」
その声が聞こえたのも束の間、シエルの前に盾を持った1人の男が現れた。
「よう、勇者様が助けに来てやったぜ?マイハニー」
そう言って現れた男は、シエルに手を差し伸べると、ニヤリと笑ってみせた。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
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