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騒めく洞窟

 ダンジョンとは、摩訶不思議な領域である。


 学者によれば、創世の頃から存在する魔の領域と言われている。一度に侵入できるのは最大で十五人という謎の制約があり、侵入者は迎撃用に設置された罠や魔物との戦闘が課される。

 主に領主から権限を委託された冒険者ギルドが管理している。そのギルドが公開している情報によれば、ダンジョンの最奥には番人がいるという。

 冒険者の間では、番人を倒した者は更なる力を得るとまことしやかに囁かれている。その更なる力というものに対しては様々な解釈がなされているが、最も有力視されているのはダンジョンで見つかる『物』だ。


 魔力を纏う武具、無限に物資が入る収納袋、底を叩くとランダムで具が変わるスープストックなどが挙げられる。事実、高ランクの冒険者が携帯するものは全てダンジョン産だ。


 ゆえに冒険者たちはダンジョン探索の成果を誇りとする。番人を打ち倒した証として防具を作り、持ち帰った財宝を売り払って次のダンジョンに備えるのだ。

 踏破したダンジョンの数だけ冒険者を讃える曲が作られる、と吟遊詩人は詩歌に綴る。


 そんなダンジョンでも、人気のないダンジョンというものは存在する。魔物は弱く、手間や労力の代わりに得られるものがない『騒めく洞窟』だ。

 偶に事情を知らない新人パーティーがチャレンジして、苦い経験だけして帰ることで知られている。旨味は少ないが、洞窟にしては広めで一本道かつ人気がないのでバッティングを警戒しなくてよいので、腕慣らしに丁度いいダンジョンだ。


「ふん、私の攻撃で沈むとは骨のない連中どもだな」


 地面にめり込んだ魔物の頭蓋からメイスを引き抜いて、グレゴリアは不満そうにため息を漏らした。

 強敵との戦いを本能的に求めるオーガの彼女にしてみれば、ここはかなり手応えのないダンジョンだろう。


 今、シリウスはDランクのダンジョン『騒めく洞窟』を探索している。番人がいる最奥の三階層手前の階段前にある広場でそろそろ休息する予定だ。


 私は剣を片手にダンジョン内を見回す。

 ダンジョン内部に自生している魔草によって光源が確保できているので、視界に問題はない。

 他に魔物がいないかどうか目視で辺りを警戒しながら、後衛二人の様子をチェックする。


「まあまあ、肩慣らしみたいなものだから。バジルとルチアの魔力はどうかな?」


 彼らの顔色はダンジョンに入った時とそれほど変わっていないようだ。


 何度も魔力枯渇に至ると精神に異常をきたす。魔術師や神官は常に精神的なストレスに晒されているのだ。

 冒険者はある程度進むと、必ず装備の破損具合や体力・魔力の消耗具合を確認する時間を設ける。これをやるだけで生存率が変わるらしい。


「俺はほとんど魔力を使っていない。これならあと三年はダンジョンに篭れるぞ」


 バジルの大言壮語(ビッグマウス)を目の当たりにして少しドン引きしつつ、ルチアの様子を伺う。


「私も大丈夫です。装備品にも損傷はありません」


 ふんわり微笑むルチア。

 『幼ブラ』では負けヒロイン扱いだったけど、いかにも敬虔な聖女服を着た彼女はめちゃくちゃ可愛い。二巻だと内政に頭を抱えるレオを助けるんだよねえ。


 黙々と昼食の支度を整えるレオ。

 私は剣についた魔物の血を拭い落とし、欠けがないことを確認する。怪力で何本かダメにしてしまった。

「よしよし、グレゴリアの装備に破損なし。レオの荷物容量にはまだ余裕がある。私も体力と魔力ほぼ満タン。この調子なら番人に挑んでみるのもアリかもね」


 当初の予定では番人の手前で引き返すつもりだったけど、みんなの様子を見て大丈夫だと判断。むしろここで帰還を提案したら士気の低下に繋がりそうだ。

 このダンジョンから取得できる財宝は、支援系の魔術を底上げする魔法の杖だ。レオが追放され、仕方なしに向かったダンジョンで手に入れる。一度目はクリスティーナが売り払ってしまうのだが、私は敢えてレオに渡すことにする。

 レオの為にも、パーティーの戦力向上の為にも、入手を逃す理由はない。


「そうだな。今のシリウスならば番人ぐらい簡単に勝てるだろう」


 グレゴリアは強敵との戦いを想像して、興奮した様子で拳を握り締める。キラキラと輝く瞳はまるで玩具を与えられた少年のようだ。


「たしかここの番人は『一つ目の大食いトロール』だったな。魔術に対する耐性はかなり低い。俺の魔術で足止めできるだろう」


 杖を抱き込み、胡座をかいて座るバジル。

 ダンジョン内にも関わらず、魔導書を開いて呪文に目を通している。肝が据わっているのか、あるいは何かあってもメンバーの誰かが対処するはずと思っているのか。


「トロールは飽くなき食欲に蝕まれた魔物と伺っています。巨大な棍棒を振り回しては村の作物を荒らす厄介な存在です」

「そうだね、ルチア。グレゴリアの防御力でもトロールの一撃を耐えるのは難しいかもしれない。それに盾へのダメージも抑えておきたい。そこで、一つ提案なんだけど……」


 私は『幼ブラ』でレオが暴いた『一つ目の大食いトロール』の弱点を知っている。

 奴は目がひとつしかなく、おまけに目を守るための瞬きという機能に問題を抱えているのだ。なので、砂や小石による目潰しへの対応ができない。


「番人の目を潰して攻撃した方が効率がいいと思うんだ」


 全員が顔を見合わせる。

 その顔には、どうやって番人の目を潰すつもりなんだという疑問が浮かんでいた。


「バジルが魔術で気を逸らしているうちに、私が剣で番人の目を潰す。グレゴリアは足を狙って攻撃して体勢を崩させる。レオは念の為に見張りをして、番人の体勢が崩れたら加勢するんだ。ルチアは全員に退魔の魔術を掛けるってことでどうかな?」


 私の提案を聞いたバジルが真っ先に口を開いた。


「クリスティーナ、簡単に言うが出来るのか? 番人となった魔物の臓器は最も柔らかいものでも鉄ほどの硬度を持つという。剣の腕だけではどうにもならないぞ」

「それは……」


 レオが私に視線を向けて何かを言い淀んだ。

 大方、私が筋力のゴリ押しでぶった斬ると思っているんだろう。出来そうなのは否定しないけど、ここはあくまでリーダーとして頭が良いアピールをしておきたい。


「ルチアの退魔の魔術とバジルの敵の防御力を下げる魔術を使った上で、私のスキル『豪炎招来』を使えば出来ると思う。出来なかったら、敵の攻撃を回避に優れた私が引きつけるってことでどうかな?」


 番人はダンジョンに巣食う魔物の中でも強力になる傾向にある。たとえDランクのダンジョンであっても、油断は禁物だ。

 私の提案に、まずレオが頷いた。


「クリスティーナがそういうなら、その作戦でいってみよう」


 他のメンバーも続々と頷く。


「トロール程度ならば苦戦はしても負けることはないだろうな」

「トロールの討伐はオーガの中でも一人前の証と言われている。奴の頭部を持ち帰って剥製にしよう!」

「剥製はちょっと大変そうですねえ」


 作戦の方針が決まったところで、私たちは本格的に番人戦に備えて休息を取った。

 すぐ下の階層に番人の『一つ目の大食いトロール』がいる。対策と撃退法は知っているが、全員の命を預かるリーダーとして万が一は少しでも排除するつもりだ。その為にも、体調は万全にしておきたい。

 初めての番人戦、気を引き締めて挑もう。

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