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初めての依頼はレオと一緒に

 『幼ブラ』をなぞるように、私とレオはシリウスを結成した次の日。


 初めて引き受けた依頼は街の外にある薬草の採取。

 ウルフが出現する草原に見られる、多くの薬能を持つ薬草だ。

 冒険者ギルドからの依頼によれば、その薬草は根も含めて採取する必要がある。


 レオと話し合った結果、採取はレオが、魔物の警戒は私が行うことになった。

 気まずさはあるが、エランドやユミルと違って私をクリスティーナと呼んでくれる唯一の人でもある。


「それじゃあ、クリス。魔物を頼むよ」

「分かった」


 小遣いを貯めて購入した剣を携え、胸当てが緩んでいないことを確認した私は頷いた。

 王都を出て、だだっ広い草原を進む。


 透き通るように青い空を、竜が遥か上空を飛行する。ワイバーンの群れがそれに追随し、咆哮をあげていく。

 『幼ブラ』の世界では、世界征服を企む魔族との抗争が根底にある。

 それぞれが都市国家となっているのも、他の都市が魔物に陥落させられていても崩壊しないようにするためだ。


 都市を守る結界があるので、魔物は近寄ることもできない。

 竜は王都を睥睨し、旋回して山岳地帯へと方向転換して消えていく。


「レオ、三時の方向からウルフが二匹」

「了解。あと少しで採取が終わる」


 こちらの様子を伺うウルフに向けて軽く剣を振る。

 たったそれだけの動作で風圧が生じ、斬撃が遠く離れたウルフを襲う。

 ……やっぱクリスティーナのスペック、おかしくない?

 慢心より先に恐怖が来る。

 獲得したものというより、授かったものという意識があるので、未だに実感がない。


「片付いたかい?」

「片付いたよ。レオの方はどうかな」


 周囲を見回しながら、魔物の気配がないかを探る。

 コツはエランドから教えてもらったが、それでも油断は禁物。魔物の中には景色に溶け込んで奇襲を仕掛けてくるような生態を持つものも存在する。


「僕の方も片付いた。薬草の数は十分に揃っている。ウルフの解体は任せてくれ」


 リュックから解体用のナイフを取り出したレオは、手際良くウルフを解体していく。

 実家が狩人である彼は、魔物の解体に心得がある。

 私も本で読んだが、その手順はとても複雑で、さらには魔物の種類によって異なる。


「は、早いね」

「僕にできることはこれぐらいだからね」


 肩を竦めながら、金になる部位を切り分けて厚紙に包んでいく。

 魔物の肉は、味では家畜の肉には劣るが、非常事態では優秀な保存食として重宝される。さらには強い魔物ほど魔力が多く、錬金術の素材にもなり得る。


「時間にまだ余裕があるね。もう少し採取してもいいかな?」

「王都からそれほど離れてもいないし、夕焼けまでまだ時間はある。問題ないよ」


 街の中は魔力が溜まりづらい。

 高濃度の魔力を蓄えた雑草ですら、量を集めれば相応の値がつく。

 人間は魔力を生み出す能力が低いが、蓄えることに優れている。魔力を獲る手段としてマナポーションや食事が好まれる。


「これはタンポポで、こっちは白詰草……ホタテアオイはライフポーションの材料になる……」


 大きなリュックの内側にある沢山のポケットに、分類分けして獲得したアイテムを次々と入れていく。

 冒険者向けに販売されているグッズの中でもかなり高価で頑丈な、大きいリュックだ。


「レオは凄いな」


 ポツリと本音が溢れた。

 しゃがんでいたレオが顔を上げる。

 眩しさに目を細めているが、ほんの少しばかり人相が悪く見えた。


「どうやら私は、どうにも器用で繊細な作業は得意じゃないみたいなんだ。レオが居てくれて助かるよ」


 万能に見えるクリスティーナのスペックにも弱点はある。鍵あけなどの繊細な作業は壊滅的。魔術は初級止まりだ。水属性の中級魔術なら辛うじて使える程度。

 出来ることが増えた一方で、出来ないことも明るみになった。至らなさを痛感するばかりの毎日だ。


「あっそ。それより採取は終わったよ」


 つまらなさそうに相槌をうったレオは、立ち上がってリュックを背負い直す。


「王都に戻る?」

「そうだね。目標金額はとっくに越えているし、今日の宿屋を取っておく必要もある。早めに戻ろう」


 傾き始めた太陽を見上げたレオと一緒に王都へと戻った。

 冒険者ギルドの報告カウンターで出迎えた受付嬢に冒険者カードを提出する。


「かしこまりました。Dランクのシリウス様ですね」


 駆け出しのシリウスは、パーティーランクと個人ランクは両方とも最底辺のDからスタートだ。

 地道な活動を続けていくことで信頼を獲得し、ランクが昇格していく。

 『幼ブラ』では、王都で活動を初めて二ヶ月ごろに遭遇するトロールを討伐し、異例の二ランク昇格、すなわちBランクになるのだ。

 ちなみにトロールはAランクに分類されるほど危険な魔物。クリスティーナはレオの支援があって、やっと互角に戦えるような相手だ。


 ぼーっと考え事をしていた私は、レオがリュックの中身をカウンターに広げ始めたことでハッと我にかえった。

 草の種類ごとにラベルが付けられていた。いつの間にやったんだ。


「……初日、ですよね?」


 次々とカウンターに載せられる薬草や魔物の素材を見て、受付嬢はヒクリと頬を引き攣らせる。

 涼しい顔でレオが答えた。


「ええ、朝方に登録を済ませたばかりのシリウスです」

「駆け出しでこの額とは……稼ぎだけで見ればCランクと同等ですよ」


 受付嬢はびっくりした顔で買い取りの査定を済ませる。

 依頼品の採取では税金のみ差し引かれるが、依頼のない品物の買い取りではさらに組合料を差し引かれる。その額が組合への寄付金としてカウントされ、ランク昇格に影響を与えるのだ。


「査定が完了しました。税金と組合料を引きまして、総額で千ウミユリになります」


 ウルフの素材、依頼品の納入、そしてレオが採取した薬草。それだけで簡単に千ウミユリを稼いでしまった。稼ぎの半分はレオの薬草によるもの。

 Dランクの二ヶ月の稼ぎに相当する。


 この世界では、金貨は存在せず化石や魔石などの小さな物が貨幣として使用される。

 その中でも、最も流通が多いのがウミユリの化石。

 親指ぐらいの大きさで、綺麗な五芒星であることが貨幣として運用される条件だ。


「報酬は折半……でいいんだよね?」


 事前に取り決めをしておいた『貢献度に関わらず報酬は折半』を念のために確認する。

 手柄の奪い合いや足の引っ張り合いを防ぐ為、貢献の度合いに関わらず報酬は折半が定石。

 『幼ブラ』では貢献度によって割合が変化していた。つまり、クリスティーナに有利な条件で報酬を分けていたのだ。レオは雀の涙ほどの額でやりくりしていた苦労エピソードもある。


「もちろん。僕一人ではウルフにすら勝てなかったからね」


 レオは折半した報酬を受け取りながら、懐にしまった。私も後でエランドたちに送金しておく為にカバンにしまう。


「いやいや、レオのおかげでこれだけ稼げたんだから謙遜しないで。私たちきっと良いパーティーとしてやっていけるよ!」

「そうかな」


 私の言葉にレオはくすりと笑った。


「お互いの長所を活かす、それがパーティーってもんでしょ?」


 こんな有能な人材にパワハラなんて出来るはずもない。むしろ申し訳なさで萎縮エブリデイ。

 だから、私はまた新たに誓いを立てる。

 クリスティーナは慢心して、メンバーの事など少しも考えていなかった。常に自分を中心としたパーティー運営をしていた。

 私はメンバーを中心とした運営を心掛けよう。


「レオ」

「なんだい、クリス」

「これからよろしくね」

「……それはこっちの台詞だよ。戦闘は任せた」


 私は胸を張る。

 『幼ブラ』の挿絵の通りたわわに育った胸がたゆんと揺れた。


「何言ってんの。一緒にどうにかしないと、私が死んだ時に困るのはレオよ!」

「はは、言えてる」


 レオはまだ支援魔術を使えない。

 支援魔術を使えるようになるのは、初めて潜ったダンジョンで見つけた魔術教本を入手してからだ。

 その為にも早くメンバーを見つけよう。

 レオの負担を減らし、私に万が一のことがあっても大丈夫なようにしておこう。

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