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目指せ、破滅フラグの回避!

 前世の記憶を思い出した私。

 どうやらここは私が前世に読んでいた『幼ブラ』の世界で間違いないらしい。

 おまけに私は一巻の悪役ことパワハラ系幼馴染の美少女クリスティーナに転生してしまったのだ。


 十四の成人を迎えると同時に冒険者になる為に私とレオは王都へ旅立つ。

 クリスティーナは憧れのSランクになるため。

 レオは村を出て仕事を得るため。

 各々の目的のために冒険者ギルドのある王都を目指して街を飛び出すのだ。


 破滅を回避するため、私はまず己の手数を増やすことにした。

 村の中で一生を終えるのはどうにも性に合わないし、外に出るなら面倒な手続きが免除される冒険者が便利だ。ある程度の資金が貯まったら、転職をすればいい。

 なんらかの理由でレオがパーティーから抜けてしまっても大丈夫なように自分自身を鍛えておくに限る。

 方針が定まったところで、次に何が必要か探した。


「レオく〜ん、あっそびましょ〜!」


 なので、レオの実力を測るがてら訓練を画策した。

 お父さんの書斎で埃を被っていた魔術教本を片手にレオのお家へ電撃訪問。

 困った顔のレオが扉を開けた。


「クリス、僕と遊びたがるなんて珍しいね」


 言われてみれば、たしかにクリスティーナとレオは頻繁に遊ぶ仲ではなかった。

 クリスティーナは夢のために剣術に励む毎日で、レオは毎日こっそり訓練する彼女を覗くのだ。


「ええっとね、んっとね、そうだ! 冒険者になるためには魔術があるといいと思ったの!」


 お、我ながら上手い言い訳を思いついたぞ。


「それなら魔術師に弟子入りした方がいいんじゃないの?」

「…………」


 レオが至って冷静に反論してきた。

 私は思わず真顔になってしまった。


「……で、弟子入りするのにも、相応の知識とやらが必要で、そう、下調べが必要なのよ。とにかく私に任せておきなさい」


 強引にレオを家から引っ張り、庭へ連れ出す。


「今日は簡単な『ライト』の魔術を習得しましょう!」

「僕、もう使える」

「……私、使えない」


 クリスティーナは魔術に適性がなく、また家庭環境が魔術を軽んじているため、本人も魔術を積極的に学ぼうとしなかった。

 作中でも、支援魔術でサポートしていたにも関わらずレオのことを無能呼ばわりしていたのだ。


「使い方知ってるの?」

「うん。知ってる」

「教えて!」

「やだ」


 びしりと固まる。


「な、なんで……?」


 まさか、まだパワハラすらしていないというのに好感度が低いのか!?


「だって僕が魔術の練習をしていたら馬鹿にしてきたじゃんか」

「あっ!?」


 言われて脳裏に記憶が蘇る。

 前世の記憶を思い出す前、クリスティーナは魔術の練習をするレオを揶揄っていた。悪ガキに絡まれる少年の図が目に浮かぶ。

 なんてことをしでかしてくれたんだよ、クリスティーナ……!


「そ、そんな……っ!」


 破滅フラグはもう既に通過していたという事実に私は膝から崩れ落ちた。


「もうだめだ、おしまいだ……私はこれから死ぬんだ……己の愚かさで首が締まって死ぬんだあ……」


 ああ、見える。

 己の愚かさからゴブリンにぼこぼこにされる傲慢なクリスティーナが……!


「ちょっ、ちょっと泣かないでよ。まるで僕が悪いことをしたみたいじゃないか!」

「レオはなにもわるくないよ……わるいのはばかでおろかなわたしなのぉ!!」

「あー、もう、わかった、わかったから泣かないで!」


 レオは困り顔に怒りを滲ませながら、あわあわと手を動かしている。


「許してくれるの?」

「……もう馬鹿にしないって約束してくれるなら、まあいいよ」

「ほんとっ!? 約束する、約束するよっ!」


 涙と鼻水でべちゃべちゃになった顔をハンカチで拭う。

 切り替えの速さは前世でも評判だった。まあ、引きずるのが苦手なだけだったんだけど。


「ありがとう、レオ! ちょっと取り乱しちゃったけど、もう大丈夫。さあ、魔術の練習をしましょう!」

「ちょっと……?」


 何か言いたげな様子のレオが視界に入ったが、私の頭の中は魔術のことでいっぱいいっぱいだった。



 この世界では、魔物という危険な生き物が跋扈している。街などの大きな場所では結界が張られているが、結界の外では弱肉強食なのだ。

 冒険者とは、そんな危険な場所へ赴いて魔物を狩る職業を指す。

 それまで閉鎖的な社会を形成していた各都市は、冒険者の存在により沢山の情報を得、技術を得、大発展を遂げた。

 冒険者が持ち寄る情報の中で、最も重宝されたもの。それが魔術だった。日々の暮らしから魔物との戦闘に至るまで魔術を見ないことはない。

 元は魔物が使っていた魔法を文字に落とし込んだものらしい。


「いい? 体の中の魔力っていうのは、目で見えないの。だから、他の人の魔力を流し込んでもらって魔力があるってことを教えてもらうんだって」

「ほえ〜」


 小説になかった設定だ。

 そもそも物語が始まる時点で、既に魔術が使えていたので練習する場面がなかった。


「というわけで、僕の魔力を流してあげるね」


 レオに促されるままに掌を合わせる。

 相手が子供だからドキドキはしないけど、なんかちょっと照れくさい。


 しばらくすると、なにか温かいものが這うような感覚が掌から肘に伝わってきた。


「おお、これが魔力かあ!」

「も、もうコツを掴んだの?」

「なんかこうぐにぐにした感じを動かしているよ」

「……なら、それを指先に集めて『ライト』って唱えるんだ」


 レオに教えられた通り、魔力を指先に集める。


「『ライト』」


 ぽうっと淡い光の塊が指から出た。

 ふわふわと指先から数センチほど高く浮かんでいる。


「お、おお〜!!」


 まさか一度で出来ると思わなかったので、ついはしゃいでしまう。

 呆けた顔をしたレオが目に飛び込んできて、慌てて顔を引き締める。


 そう、前世からの悪癖とも言うべきか。

 とにかく私はそそっかしいとよく周囲から言われていた。早とちりしたり、空回ったり。

 さすがにそろそろちゃんとした大人にならないと。


「……じゃあ、僕はお皿洗いがあるから。じゃあね」

「あ、そうだったんだ。ありがとね」


 家の中に引っ込んだレオを見送った。

 いつまでも他人の家の庭に長居するわけにもいかなかったので、私も家に帰ることにする。


 夕陽が照らす帰り道を歩きながら、私は魔術教本を片手に練習できそうな魔法を物色する。

 『ライト』『ウォーター』『フレイム』

 次々と魔術を試していく。


 本によれば、火・土・水・光・闇の五つの属性がある。

 火は水に弱く、水は土に弱く、土は火に弱いという三竦みの相性だ。光と闇はそれぞれに弱い。


「うーん、スキルは『豪炎招来』でいかにも炎系なのに、魔術は水の方が適性があるって感じなのかな」


 試した結果、どうやらクリスティーナの魔術の適性はスキルと真逆らしいということが分かった。

 もしかしたら、クリスティーナの魔術嫌いはスキルとの相性にあったのかもしれない。


「とにかく出来ることは増やすに限る! 目指せ、破滅フラグの回避!」


 私は拳を固く握り、決意を新たに帰路についたのだった。

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[良い点] からかっただけで「馬鹿にされた」とか僻みもいいとこ 女→男のパワハラ判定厳しすぎる これが男→女ならどんなに馬鹿にしても威張り腐っても「俺様」の一言で許してもらえるのに
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