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新たなるメンバーと依頼

 結論から言えば、私は一命を取り留めた。

 後から聞いた話だが、開拓村の村長は魔神との取引が公となり、司法機関に身柄を引き渡された。余罪の追求が終われば裁判となる。村どころか国を脅かした罪は重く、簡単には償えないだろう。

 開拓村は解体となり、住民たちはそれぞれ領主の取り計らいで別の仕事を任されることになったらしい。


 冒険者ギルド直轄の病院で集中治療を受けること数日。

 ギルドからの使者や領主からの取調べが終わったかと思えば、次はなんと魔神から救出した冒険者ドミニクから説教を食らっていた。


「いいかい、そもそも単独で調査依頼を引き受けるべきじゃないんだ。もっと自分を大事にしなさい!」


 ベッドの上で縮こまる私に、ドミニクはさらに詰め寄った。


「今回は俺が開拓村の村長を殴り飛ばして、家の名前を使って最速で王都への救援を申請したから助かったものの、ほんの少しでも違っていたら死んでいてもおかしくなかったんだ。しっかりと反省するように!」

「は、はい……すみませんでした……」


 腕を組んで鼻を鳴らすドミニク。

 ギルドの使者によれば、今回のSランクパーティーの派遣はかなり幸運かつこの地を治めるアンドロシュ家の後押しがあったから実現したのだという。本来ならあと一週間は討伐隊の編成にかかっていたはずだった。

 ドミニクの言う通り、本当に私が生きていたのは幸運だった。

 治癒に優れたルチアがいなければ、あの場で死んでいたと医者に言われたのだ。ルチアに感謝の手紙を書いたが、魔神討伐のゴタゴタで忙しいようだ。


「魔神に遭遇するなんて、マジについてない。まあ、情報提供の分の報酬は貰えたから良しとしよう」


 私は曖昧に笑った。

 治療費で報酬がなくなったことを知れば、きっとドミニクは更に冒険者として稼ぐことの意義について説教すると思ったからだ。


「それにしても、あんたがまさか噂のシリウスだとはな。いくら自分の実力があるからって、メンバーを追放するのはどうかと思うぜ」

「……えっと、私は彼らを追放してませんよ?」

「ん? いや、そんなはずはない。俺がこの耳でたしかにプロメテウスの魔術師からその話を聞いたんだぜ」


 首を傾げる。

 『幼ブラ』ではたしかにレオへの嫉妬で行き詰まったクリスティーナがメンバーを次々と解雇していくシーンがあった。でも、今の私はそんなことはしていないし、なんなら追い出された側だ。


「何かがあんたらの間で起きているのは間違いなさそうだな。……よし、決めた。俺をそのシリウスに加入させろ」

「えっと、活動禁止は解除されましたけど、評判はそんなに良くないですよ。他のパーティーの方が良いのでは?」


 ドミニクは肩を竦めた。


「あんたは見たところ腕が立つ。冒険者たるもの、強者の後ろを駆けずり回れというのが俺の座右の銘だ。これでも多少はコネと腕っ節はある。頭数ぐらいにはなるさ」


 魔神との絶望的な力量差を思い出す。

 魔力枯渇で精神的におかしかったとはいえ、全力を出して惨敗した。一人の限界を知った以上、単独で冒険者ギルドからの依頼を熟そうとは思えなかった。


「そうですね。では、これからよろしくお願いします。ドミニクさん」

「いや、呼び捨てでいい。敬称をつけてもらうほど偉い身分ではないからな」


 こうして、シリウスに新しいメンバーが加わった。

 ドミニク・アンドロシュ。

 貴族にルーツを持つCランクの冒険者だ。


「それで、リーダーの退院はいつになりそうだ?」

「明日の午後と聞いてます」

「なんか早くねえか?」

「プロメテウスのルチアが回復してくれたので、もうほとんどの傷は塞がっているんです」


 納得したドミニクは頷く。


「プロメテウスは何かと良くない噂を聞くが、実力はホンモノだからな。ルチアといえば伯爵家を勘当された令嬢だと聞く」

「……良くない噂?」

「ああ。聞いたことはなかったのか? なんでもプロメテウスのリーダーには沢山の支援者がいるそうだ。特に令嬢やご婦人が多くて、その額が大変に“お熱”だそうだ」


 言われてみれば、たしかに彼らの装備していた武具はどれも魔道具だったように思える。駆け出しのパーティーがどれだけ順調でも、すぐには手が届かないような値段のする装備品ばかりだった。

 何故かぞくりとするような悪寒に襲われる。


「冒険者の間では、支援者とギルドがプロメテウスに忖度しているって話だ。今回の魔神騒動もSランクパーティーの『ナイトホーク』が偶然にも街にいたから出動したが、もしそうじゃなかったらと考えたら……俺たち揃って死んでいたかもな」


 自分の顔が強張るのを感じた。


「そうかも、しれませんね」


 絞り出すような声で肯定した私へドミニクが訝しむ視線を向けた。彼が口を開くより先に病室の扉がコンコンと叩かれた。

 病室に足を踏み入れた人物を見て、私とドミニクは慌てて床に膝をついて頭を下げる。


「顔を上げることを許可します。その目で帝国の皇女アケミの顔を刻みつけなさい」


 まるで人形のような均整の取れた顔。夜空のような綺麗で癖のない黒髪は腰までサラリと流れていて、細い身体をさらに強調する白のフリルドレスを際立たせていた。

 『幼ブラ』のヒロインにして天才魔術師とも称されるアケミ皇女がそこにいた。


「まずは魔神への速やかにして正確な対処を誉めて遣わします。ギルドから報酬は出ているでしょうけど、我が臣民のいた開拓村を救った恩人には更なる報酬がいるでしょう。さあ、受け取りなさい」


 アケミ皇女の命に従って、侍女が箱を持ってきて開封する。銀製の一振りの剣とブレスレットがクッションの上に置かれていた。表面には緻密な魔術式が書かれていて、その値段について考えるだけでも眩暈がしそうだった。


「御言葉ですが、これほど高価なものは受け取れません!」

「ええ。もちろんでしょうとも。これはあくまで報酬という建前で渡すだけですが、私から個人的に出す依頼の前払いも兼ねていると理解していただきたいわ」


 ドミニクがアケミ皇女の視界外であることをいいことに口パクで『断れ』と言っているのが見えた。

 たしかにドミニクの言う通りだ。皇室、しかも隣国からの依頼などきな臭い以外の何者でもない。

 たしかにアケミ皇女は心優しい女性ではあったが、政治にまつわる一族の娘だ。感情だけで動くことは決してない。


 そして、アケミ皇女がここに来た理由がなんとなく分かってしまった。

 魔神と王国貴族の繋がりを怪しんでいるのだろう。

 『幼ブラ』では、自ら動いて情報を集めて魔神にたどり着いていたが……私が色々と変なことをしてしまったせいで、まだ魔神がどこの誰と繋がっているのか分からないはずだ。

 私たちに接触してきたのは、魔神に関する情報を集めるためとみて間違いない。


「皇女殿下、そのご依頼を断ったとなれば……」

「まあ、私からの依頼を断った人などこれまで誰一人としていませんわ。もちろん、これからもね」


 アケミ皇女はニコリと微笑む。

 周囲に控える従者や護衛から殺気がビシビシと飛んできている。それをアケミ皇女は手を挙げて制した。


「それに、これはあなたたちの為でもあります。皇室の後ろ盾が今後のシリウスには必要になるでしょう」


 話の雲行きが怪しくなってきたことに胸がざわついた。嫌な予感が的中しつつある事実に冷や汗が頬を流れる。


「私からの依頼はただ一つ。レオが率いるCランクのパーティー『プロメテウス』の監視ならびに調査です。件のパーティーは魔神と接触した貴族からの支援を受けており、またレオ自身も魔神となんらかの取引を行なっている可能性があります」


 気絶する前に聞こえたレオの声が脳裏を過ぎる。

 レオが魔神と取引しているとは思えない。魔神の提案に頷いた人の末路など、童話で嫌になる程に教え込まれているはずなのに。


「……もし、プロメテウスが魔神と取引している証拠が見つかった場合は」


 聞きたくないという気持ちと、知らないと助けることもできないという冷静な思考がせめぎ合う。


「原則として、魔神との取引は極刑です。他に余罪があれば、その亡骸を晒し台に配置することもあるでしょう。一族で連座もありえますわ。隠匿した場合も同様ね」


 たしかに彼らはシリウスから離脱した、私の悪口を言いはしたが、決して人を傷つけて殺すような人たちではなかったはずだ。

 放っておけるはずがない。

 私の顔を見たドミニクが目元を手で覆って天井を見上げた。


「その依頼を引き受けましょう」

「……あちゃー、こうなるかあ」


 アケミ皇女は相変わらず笑みを浮かべていた。

 その目はちっとも笑っていなかった。

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