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指名の調査依頼

3/12 区切りが悪かったので「村について依頼の話をしようと持ちかける」から「村について依頼の話をしつつ、調査に出発する」に変更しました。後半部分が変化しています

【クリスティーナ率いる冒険者パーティー『シリウス』の活動を一ヶ月禁止する】


 冒険者ギルドからの通達は一方的なものだった。

 冒険者にとって一ヶ月のブランクはかなり大きい。熟達の経験者ならまだしも、駆け出しともなればそのブランクは致命的なものとなる。

 もちろん私は受付嬢リリスが誤解していると訴えた。しかし決定が覆ることはなく、ギルド上層部は冒険者ランク剥奪をちらつかせてきたので引き下がるしかなかった。


 冒険者ギルドの不誠実な対応に怒りは募るが、それよりも腹に据え兼ねるのが他の冒険者からの下品な視線だった。


 シリウスとして活動ができない以上、一人(ソロ)で依頼をこなす必要がある。私はもっぱらパーティーで狩るには面倒なゴブリンの討伐依頼をメインに引き受けて食い扶持を繋いでいた。


「リリス、依頼の報告に────」

「おい、聞いたか。シリウスのクリスティーナって奴は男と見れば見境がないらしいぞ」

「マジか。俺の童貞もらってくれるかな」


 こちらを見ながらニヤニヤと大声で私を話題にする中堅の冒険者。

 根も葉もない噂と、話している本人すら出所を知らない悪評の数々。それらを真に受けた馬鹿がウザい絡み方をしてくるので、私はすっかり人間不信になりつつあった。


「────報告に来た。これが討伐証明だ」


 極め付けは受付嬢リリスからの舌打ちだ。

 私が何をやっても気に食わないらしく、その癖『他の受付嬢だと騙される!』と担当に名乗りを上げたらしい。もっぱらプロメテウスの方にばかり力を入れていて、こちらは放任のようなもの。余計に手間が増えてストレスが溜まる。


「……一体どこの冒険者を騙して奪い取ったんですかね。いつかその尻尾も掴んでやります」


 お互いに敵意を向けながら金のやり取りをする。

 一週間ほどはリリスに誤解だと訴えたが、どうやらメンバーの申告があったらしく余計に彼女は誤解を深めた。私も時間を使って誤解と訴えるよりも、早いところ資金を貯めて拠点を変えた方が建設的と判断した。少しの間の辛抱と思えば耐えられる。

 その日も、また他の冒険者に絡まれる前に立ち去ろうとカウンターに背を向けた時だった。


「お待ちなさい」


 最低限の会話しかしないはずのリリスが、珍しく私を呼び止めてきた。足を止めて視線だけを向ける。


「開拓村より調査依頼が来ています。冒険者ギルドとしては信頼できる『プロメテウス』のようなパーティーに任せるべきだと提案したのですが、先方があなたを指名した以上は斡旋する義務があります。調査依頼を引き受けますか?」


 開拓村というワードには聞き覚えがある。これからオークが出現し、撃退できずに壊滅する場所だ。

 本来なら成長したシリウスで悲劇を未然に防ぐために向かう予定だったが、レオの離脱宣言とプロメテウス結成でそれどころじゃなかった。

 提示された金額は銀貨十枚。

 単独(ソロ)に支払うにはやや高額ではあるが、パーティー相手にはかなり足元を見た金額だ。相場はおおよそ旅費を含めて銀貨十三枚なのだが、依頼主を見てその代金に設定した理由を悟る。


「ルビー商隊って、あの?」


 ゴブリンの群れに襲われていたキャラバンの行商隊が調査依頼で指名してきた相手らしい。彼らならばシリウスの事情を知って依頼を出してきたのも頷ける。

 人の善意に漬け込むのも気がひけるが……


「引き受けます」


 クリスティーナの親は今、新しい家族を迎えるために少しでも金がいる。彼らから娘を奪ってしまった以上、できる限りのことをしてやりたい。その為には金がいる。

 依頼を断る理由はなかった。


「失敗した場合、ペナルティが発生することもお忘れ無く」


 私の努力を嘲笑うかのように受付嬢リリスは唇を吊り上げた。

 依頼書を片手に私は冒険者ギルドを後にする。

 パーティーとして活動できない以上、単独で調査をする必要がある。危険性は伴うが、隠密の場合はむしろ発見されるリスクが減る。

 前々から目星をつけていた装備品を購入する為、私は道具屋へ向かった。


「いらっしゃい……って、またアンタか」

「このブーツと革鎧を買いにきました」


 鞄の解れを修理していた店主が顔を上げ、私の顔を見て鼻を鳴らした。この対応もすっかり慣れたものだ。


 クレーマーという言葉がまだ存在しないこの世界では、因縁をつけてくる客なぞ営業妨害で訴えてしまえと息巻く経営者が多い。

 女ならば外見で侮られて得という冒険者もいるが、こういうお金や利権が絡んだ話を想定していないと私は勝手に考えている。


「それなら金貨一枚だよ」

「仕入れ値が銅貨三十枚にしては随分な吹っかけですね」

「チッ、銀貨四十九枚まで負けてやるよ」

「今度は銀貨一枚分の値切りですか。この前、手持ちの金がないと魔物の素材を相場の半分で融通してあげたことをお忘れですか?」


 店主が無言で私を睨みつける。多くの手札を切って、ようやく対等な交渉の席につける。手間と労力に対して得られるものが少ない。

 法外な吹っ掛けも見過ごされるような社会なので、知らなければとことんまで搾取される。本当に辟易すると同時に法整備が進んでいた日本が恋しくなる。


「いいだろう、銀貨二十枚だ」

「その前に少し見させてもらいます」


 私がブーツと革鎧を買いに来たのは、隠密行動に特化した符呪が施された装備を手に入れる為。

 符呪の付け外しは魔術師ギルドがその技術を独占しているので、市場に出回るのは新入りの練習して成功したものだけ。大体の高品質な物は領主の抱える軍に流れる。

 しっかりと符呪の術式に解れがないかどうか目視で確認する。もし途中で効果が切れたら目も当てられなくなるからだ。


「銀貨二十枚で取引成立としましょう」


 カウンターの上に銀貨二十枚をキッチリ数えて置いた。店主は苦い顔をしながら、捨て台詞を吐く。


「嬢ちゃん、世の中の男は隙のある女の方が愛嬌があって好かれるぞ」

「魔物相手に隙なんて晒したら殺されますよ」


 店主の皮肉をサラリと流して目的の品を購入。ブーツと革鎧で銀貨二十枚、Dランクの報酬一ヶ月分があっという間に消えた。必要経費とはいえ、なかなかに精神的ダメージがデカい。その他にも傷薬や保存食など必要になるであろう物を買い集め、調査依頼の支度を整える。

 宿屋に戻って仮眠を取った私は、日が昇るよりも前に目を覚まして王都を出発。


 乗合馬車や徒歩で歩くこと一日。

 鬱蒼と茂った森に囲まれた開拓村。そこに辿り着いた私を出迎えたのは、村長と思しき老人とルビー商隊の面々。


「おお、シリウスのクリスティーナ様、遠路はるばるこの地へ依頼を引き受けに来てくださったこと、本当にありがとうございます」


 ゴブリンから救出した時と同様に深々と頭を下げる商人を前にして、私はなんとも言えない気持ちで苦笑いを浮かべた。

 シリウスの名を呼ぶ商人の声が、ここ数日で聞いた冒険者たちの嘲るような声音と真逆だったからだ。


「お一人ですか。他のお仲間は?」


 村長が胡乱気に私を見る。こんな経験の浅そうな女に仕事を任せて大丈夫なのか、と視線が訴えていた。この手の疑り深い人間は、実績や意気込みを語ったところで不安を払拭することはできない。


「その事も含めてお話いたしましょう。どうぞこちらへ」


 ルビー商隊の商人たちが持ってきた簡易的な椅子に腰掛け、村長と私は調査依頼について情報を擦り合わせることにした。


「シリウスは現状、私一人だけとなっています。戦力に不安があるかもしれませんが、極力は戦闘を避けるので調査依頼は可能です。だからこそ、ここに来ました」


 不安に駆られた村人たちがお互いの顔を見合わせる。何故か不安そうな顔をしていないルビー商隊の面々は何を考えているのだろうか。

 私と村長は依頼の話を始めた。


「事の始まりは数週間前。村で管理していた家畜が跡形もなく失踪した」


 よくある『魔物に家畜を奪われた農民の苦労話』はやがて不穏な雰囲気を纏う。家畜の失踪は、人の居住区を避ける魔物が酷く飢えていることを意味する。それが転じて、魔物の襲撃を知らせる前触れとも言われている。

 ところが、続いた村長の話には『幼ブラ』を読んでいた私だからこそ気づけた違和感を伴っていた。


「たまたま村を訪れていた冒険者に調査を頼んだところ、村を出発する前に行方を眩ませた。ワシらも不誠実な余所者に騙されたのかと思ったのじゃが……」

「この村に立ち寄る前、たまたま崖下に落ちていた荷物を我々ルビー商隊が回収した」

「そこの商人たちに説得され、前倒しで冒険者ギルドに連絡をしたという次第だ」


 ルビー商隊がぼろぼろの鞄を私に手渡してきた。

 何か鋭利な刃物で斬られたらしく、鞄は底から荷物がこぼれ落ちるほどに破損している。

 中身を漁り、私は一つの確信を得た。


「冒険者カードと日記がない?」


 単独あるいはパーティーリーダーは冒険者ギルドからカードと日記の携帯を推奨される。死体回収の際に役立つ可能性が高いからだ。ダンジョンから帰還しないパーティーの遺物捜索も、身元の確認と情報を得る為という側面が大きい。

 その冒険者カードと日記は、いわば魔物にとっては脅威ともなる。食料品は手付かずだが、その二つを奪うほどの知性を持つ存在に心当たりがあった。


「……魔神か」


 『幼ブラ』一巻のラスボス、魔物の大暴走(スタンピート)を引き起こすきっかけでもある凶悪な存在だ。

 森羅万象を生み出した創造主と相反する魔界に潜み、この世界に気まぐれに現れては破壊を楽しむ残虐な性格をしている。一体で一国を滅ぼしたという伝説もあるほどだ。

 なるほど、記憶がかなり曖昧になってきているけど、どうやら魔物の大暴走(スタンピート)の裏には魔神がいたらしい。


「そんな、魔神だなんて馬鹿な話が……あれは御伽噺ですぞ」


 村長は目を向いて首を横に振った。

 魔神は滅多に表舞台に姿を見せない。他人の不幸を裏で眺めるのが好きだからだ。反吐が出るような陰湿な性格をしている。

 魔神の仕業なのは100%確定なのだが、村長の反応を見る限り説得するのは無理がありそうだ。ならば、近しい脅威を提示した方が話が早そうだと判断。


「魔神よりも現実的な存在を挙げるとすれば、山賊でしょうか。冒険者カードがあれば別の支部で魔物の素材の買取や武器の修繕を頼めますから」

「山賊の方が現実的だが、それもまた困ったのう」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる村長。

 開拓村は貧しく、それほど身入りがあるわけではない。防衛に力を入れているが、それはあくまで魔物相手だ。人間を相手にするとなれば勝手が変わってくる。


「では、その行方不明になった冒険者を第一に捜索しましょう。開拓村の周辺にある森を軽く見て周り、山賊などの手がかりを見つけましたらすぐにご報告いたします」


 調べて手がかりを見つけたら報告。その報告を元に冒険者ギルドを通じて領主に治安維持のために出兵を嘆願できるだろう。

 そうと決まれば少しでも早く行動に移す必要がある。今の時刻は早朝。素早くこれからの指針を村長に提示する。


「もし私が夕暮れまでに戻らなければ、二名の冒険者が行方不明になったと冒険者ギルドへ報告を。更なる調査の為に実力のあるパーティーが派遣されるはずです」


 この依頼を仲介した受付嬢リリスが何か異変が起きていると判断して『実力のある信頼できるパーティー』を派遣するはずだ。


「分かりました。夕暮れ時までにこの村に戻らなければ、早馬を使って王都に連絡を飛ばしましょう」


 開拓村の村長は苦々しい顔で頷いた。

 過酷な土地を開墾する為に集まった彼らは、人生の全てを賭けて国内の過酷な土地を耕している農民だ。もし領主が撤退を命じれば、彼らは遠からず職を失う可能性がある。問題を報告するのは、村長にとって苦渋の決断なのだ。


「村長とルビー商隊の方々は防衛と見張りに専念してください。念の為に逃げ込める場所の確保を」


 ルビー商隊の商人たちが頷く。魔物の恐ろしさを知っている彼らの目に慢心はなかった。

 その商隊を率いるリーダーが私に一つの丸薬を渡す。


「クリスティーナ様、粗悪品ではありますがこれを……」

「これは回復薬ですか?」


 薬草のツンとした匂いは、回復薬のそれだった。

 この国では効果の高いポーションが好まれるが、薬草の輸入が盛んな帝国では日持ちする丸薬で有事に備えるという。


「こんな高価な物は受け取れませんよ」

「いえ、どうか受け取ってください。助けていただいただけでなく、依頼まで引き受けてくださったんです。他の冒険者の方ならば断っていたでしょう」


 リーダーの言葉に私は何とも言えず、静かに頷いた。依頼人がルビー商隊で、かつこれから滅びる開拓村だからこそ引き受けた。彼の言葉はまったく正しかった。


「分かりました。これは大切に使わせていただきます」


 村人たちの不安に満ちた眼差しとルビー商隊の期待に満ちた眼差しに見守られながら、私は開拓村を出発した。

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