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東方projectの二次創作(原作キャラメイン)

永琳がパチュリーに話があるそうです

作者: 陰猫(改)

「・・・貴女が自分から此処へ来るのは珍しいわね?」


 紅魔館の地下にある大図書館で本を読んでいたパチュリー・ノーレッジは眼鏡を外し、読み掛けの本にしおりを挟んで閉じると腰掛けていた椅子に深々と座り直し、その人物を見据えた。


 普段、風の入らない密閉された大図書館に新鮮な空気が入る時と言えば、メイド長である十六夜咲夜が食事の時間を知らせる時か、霧雨魔理沙が本を盗みに来る時くらいであろう。


 だが、今回はその二人ではなく、紅魔館の当主であるレミリア・スカーレットであった。

 彼女は幼さを残しつつも艶やかさのある顔でパチュリーに嬉しそうに近付いて来る。


「最近、平和過ぎて退屈じゃない、パチェ?」

「それを望んだのは貴女じゃなかったかしら、レミィ?

 今の環境に不満を漏らすのは贅沢な悩みじゃなくて?」


 二人はお互いに愛称で呼び合うーーそういう間柄なのだーーとしばし、見詰め合う。


 幻想郷の霧の湖の近くに佇む赤い館ーー紅魔館。

 その地下の大図書館で本を読みふける彼女の事を知るものなら、こう呼ぶだろう。


 動かない大魔法使い・パチュリー・ノーレッジと・・・。


 そんなパチュリーの元にレミリアが来たと言う事はまた何かしらの無茶ぶりな頼みだろうかと思いつつ、彼女は親友であるレミリアに問う。


「それで何の用かしら、レミィ?貴女の事だから、またとんでもない頼み事じゃないでしょうね?」

「あら?私が貴女に無茶なお願いをした事があったかしら?」

「月へ行く為のロケットの制作に室内で海を再現したプール・・・他にも色々とあるわよ?」

「でも、貴女はそれを全て叶えてくれたでしょう?ーーなら、パチェには可能だった頼みと言う事になるわ」


 レミリアはパチュリーとそんなやり取りをしてから、指を鳴らし、咲夜と椅子を召喚する。

 無論、パチュリーの知る限り、咲夜の能力によるものである。


(つまらない事に使うわね?)


 流石のパチュリーも呆れながら、わがままな主とそれに付き従うメイド長を見比べて溜め息を吐く。

 レミリアのわがままは今にはじまった事ではないので、またかと思いつつ、頭を切り替える。


「それで?そんなわがままな貴女が何の用かしら?」

「わがままとは失礼ね。まあ、いいわ。

 それよりもそんな不可能を可能にする私の親友に挑戦状が来たのよ」

「・・・挑戦状?誰からかしら?」

「月の頭脳と呼ばれる八意永琳については知っているでしょう?」

「ええ。勿論、知っているわよ。喘息の薬の調合でもお世話になっているしーーって、まさか、その八意永琳からなの?」


 パチュリーが尋ねるとレミリアは頷きながら咲夜の用意した椅子に腰掛け、カラフルな色の四角い物体を机に置く。


「ルービックキューブと言う子供の遊び道具らしいわ」

「察するにこれを私に解け、と?」

「正確にはこれを解くのが鍵になるらしいわ。薬を売りに来た鈴仙がそう言っていたわよ」


 パチュリーは「ふむ」と親友である彼女の持ってきたルービックキューブに触れ、パズルを解いて行く。


「成る程。ルービックキューブと言ったかしら?確かに頭を使う面白いパズルね?

 でも、これがなんだって言うの?」


 そう呟きながらルービックキューブの全面を同じ色に揃えてからパチュリーが前方に視線を戻すと、そこには白い空間だけが広がっていた。

 周りを見渡せば、前方だけでなく、周囲の空間も白一色に染まっている。


 一瞬、困惑したが、パチュリーはすぐに現状を理解し、ポツリと呟く。


「・・・成る程。これも月の科学力と言うものかしら、八意永琳?」


 彼女がそう尋ねると名前を呼ばれた八意永琳は後ろに束ねた銀色の髪とスカートの裾を揺らめかせてパチュリーの背後で微笑む。


「ええ。そうよ。ようこそ、私の世界へ」

「疑似空間による精神の隔離・・・実に興味深いけど、そんな空間に私を放り込んで何の御用かしら?

 私の方は特に貴女と話す事はないのだけれど?」


 そう言うとパチュリーは見えない壁に触れる。


「あらあら。以前、ヒントを与えたとは言え、独学で月へロケットを飛ばしただけの事はあるわね?

 もう、この世界のシステムに気付いたのかしら?」

「親友曰く、不可能を可能にする女らしいわよ、私は?」

「それなら私がそんな貴女にしか出来ない頼み事があると言ったら、貴女はどんな顔をするかしら、パチュリー・ノーレッジ?」


 そう言われて、パチュリーは指を動かす手を止め、永琳を一瞥する。


「月の頭脳と言われた貴女が頼み事、ねえ?」

「正確にはこのパズルを解ける一定の頭脳の魔法使いを対象にしているわ」

「その意図は?」

「私でも治せない患者を治療する為よ。無論、魔法絡みのね?」


 それを聞いて、パチュリーは再び考え込んでから再度、この空間から脱出する為に指を動かす。


「興味が尽きないけれど、貴女の元を訪れる体力がないわ。

 知っているでしょうが、私は喘息持ちなの。申し訳ないのだけれど、アリスや魔理沙みたいな他の魔法使いを頼って頂戴」

「勿論、貴女が拒むのも想定済みよ。

 だから、(トラップ)を仕掛けさせて貰ったわ」


 永琳がそう告げた瞬間、パチュリーのいる空間にアラームが鳴り響き、白い世界が赤黒く染まる。

 パチュリーが解いた脱出方法は偽装ダミーだったのである。


「解除方法は私しか解らないわ。ここで一生を過ごすのは如何かしら、パチュリー・ノーレッジ?」


 パチュリーは溜め息を吐くと指を戻し、この空間の支配者に視線を戻す。


「本も何もない空間で過ごすのは流石にキツいわ」

「ふふっ。交渉成立ね」

「交渉?・・・脅しの間違えでしょう?」


 そんな悪態をつきながらパチュリーは永琳に尋ねた。


「それでその人物とやらはどんな症状なの?」

「流石の私も専門外でなんとも言えないわ。ただ、症状からするとある現象の可能性が高いわね?」

「・・・それは?」


 勿体ぶる永琳にパチュリーは不平を言うでもなく尋ねると永琳は真剣な表情で応える。



「悪魔憑きと云う症状よ」

「悪魔憑き・・・また懐かしい症状ね?」

「幻想郷にも月にもない症状よ。だから、私ではお手上げね」

「それで有能な魔法使いを探していたと・・・」


 パチュリーは皮肉を込めて、そう返したが、当の永琳は気にした様子を見せる事もなく、彼女を見詰める。

 パチュリーもそれ以上の皮肉を言わず、悪魔憑きの件に対して考え込む。


「そういうのは悪霊祓いにでも頼むの方が良いのではなくて?

 まあ、この幻想郷にそう言った専門の神や仏はいないものね?

 でも、精神的な心療って言うものなら貴女の管轄ではなくて、月の頭脳さん?」

「勘違いしないで欲しいのだけれど、私の能力はあらゆる薬を作る程度の能力よ。それも知識を得なければ、限界がある。

 そして、医学にも色々あるのだけれど、私の専門は投薬治療よ。手術や精神的な症状に関しては知識はあれども、本来は専門外だわ」

「あら?話では烏天狗の作った予言による破滅とか云うデマが流行った時の事も聞いているわよ?

 確か、興奮剤だったか、抗鬱薬だったかしら?

 それを投与して患者を治したんではなくて?」

「動かない大図書館と呼ばれている貴女にしては詳しいわね?」

「そういう噂好きの使い魔がいるのよ、私には」


 永琳はそれを聞くとパチュリーに改めて興味を持ったかのように彼女に微笑む。それに対して、パチュリーは多少の不快な思いは感じたもの悪い気はしなかった。

 なにせ、幻想郷でも実力者が自分を認めているのだから。


 ーーとは云え、面倒な事に巻き込まれているには違いない。

 期待されて嬉しくもあれど、彼女はやはり面倒臭いものも感じていた。


「それで具体的な症状って言うのはどんなモノなの?」

「奇行があるのは勿論だけど、悪魔の声を聞くらしいわ」

「悪魔の?」

「寝ているなとか、お前は駄目な奴だとか言う声らしいわ」


 パチュリーは永琳にそう告げられると腰を下ろす仕草をして見えない椅子に座る。

 仕掛けが解れば、パチュリーにもこの世界をある程度、操作出来るらしい。

 本当に厄介な事に首を突っ込んでしまったと思いつつ、パチュリーは顎に手を当てて考え込み、この場を早々に切り抜ける為に永琳に自身の考えを述べる。


「魔法にも色々あるわ。白黒の泥棒のように薬を開発したりする錬金術やアリスのように物を操ったり自動制御の研究ね。

 でも、魔術の書物などの大部分はまやかしだったり、何らかのまじないによって産まれた産物よ。全てに効く万能薬も賢者の石も迷信でしかないわ」

「あらあら。随分と魔法使いらしからぬ随分な物言いね?

 まるで魔法を否定しているようにも聞こえるのだけれど?」

「伊達に長年、地下で本を読んで研究したりはして来ていないわ。残念だけれど、貴女の欲しがりそうな魔術とやらはないわ」


 パチュリーはそう告げると「もう良いかしらね?」と言って永琳を見詰め返す。

 興味の失せたパチュリーにとって、これ以上の問答は意味をなさないと判断したのである。


「貴女の知りたい事は魔術的観点で行うのであれば、悪魔祓いって云う名の拷問ね?

 聖水と銘打って水を使ったりした刷り込みとでも云うべきかしら?

 精神的な疾患を解決する為にまじないに似た民間療法で治療する方法だけど、そんな事をするよりも貴女がお得意の投薬治療を行えば良いんじゃないかしら?」

「まさか、魔法使いが魔術を否定するなんてね?」

「無論、全てを否定するつもりはないわ。ただ、貴女の知りたがっている魔術とはその昔ながらの民間療法の類いってだけの話ね」


 パチュリーはそう告げると「そろそろ、解放しては貰えなくて?」と尋ねる。

 それに対して、八意永琳は微笑んだまま、パチュリーを見ると彼女を精神空間から解放する。


 解放されたパチュリーは急激に意識が遠退き、ブラックアウトするのであった。



 ー


 ーー


 ーーー


 気が付くとパチュリーはベッドに寝かされていた。


「おはよう、パチェ。寝覚めは如何かしら?」

「・・・最悪よ、レミィ」


 パチュリーは頭を押さえながら上体を起こすと此方を見詰めるレミリアと咲夜を見詰め返す。


「お嬢様も大変心配されておりましたよ。いきなり、倒れられるものですから」

「ちょっと、咲夜!余計な事を言わないで!」


 そんな恥ずかしがるレミリアと苦笑する咲夜のやり取りを見ながら、パチュリーは考え込む。


(悪魔の声に奇行・・・ひょっとして、あれかしらね?)


 パチュリーはすぐにベッドから起き上がるとレミリア達を制止を振り切って地下の大図書館へと向かい、自身の使い魔を呼ぶ。


「小悪魔。ちょっと良いかしら?」

「はい。なんでしょうか、パチュリー様?」

「確か、外の世界の外来本の新刊があったわよね?

 その中に確か、精神医学の本がなかったかしら?」

「あ、はい。パチュリー様が以前、医学と魔術の相違点を研究する為に鈴奈庵から御購入された本なら、まだこの図書館に眠っている筈ですが、どうされました?また研究でもされるのですか?」

「いいえ。その本を永遠亭まで届けてあげて頂戴。

 今の八意永琳が喉から手が出る程、欲しいものでしょうから」


 小悪魔は小首を傾げながらも「かしこまりました」と告げると目的の本棚を探しに向かう。


(成る程。八意永琳の狙いは最初からこれだったのね?)


 パチュリーは確信に近いものを感じつつ、本を探す小悪魔を見守った。


「持って来ました。これを永琳先生の元に届ければ良いんですね?」

「ええ。そうよ」


 小悪魔が大事そうに両手に抱えるようにして持つ本を見て、パチュリーは頷く。

 そんなパチュリーに小悪魔は質問した。


「けれど、なんで今更、これが必要なんですか?

 宜しければ、どう言う事なのか、私にも教えて頂けませんか?」


 小悪魔のその言葉にパチュリーは溜め息を吐くと彼女にルービックキューブを解き、八意永琳と精神的な世界で対話をした事を告げる。

 無論、その意図が解らず、小悪魔の頭のまわりにはハテナマークが飛んでいたが・・・。


「えっと・・・魔法は多少なりとも私も使えるので、ある程度は解っているつもりなのですが、それと永琳先生がパチュリー様をーー魔法使いを頼った理由って、なんなんですか?」

「八意永琳は医師だけど、今回の件に関しては専門的な知識が不足していた。だから、私を頼ったって事よ」


 パチュリーはそう言うといつもの席に深々と座り、そこで一旦、言葉を切ると冷めてしまった紅茶で喉を潤す。


「八意永琳の欲していたのは、魔術と云う名の現代的な医学よ。

 時代が追い付かなくて受け入れられる事がなかった大昔の代物だわ。

 だから、魔法使いに聞くよりも外の世界の医学に触れてきた方が余程、信頼出来ると言ってやったのよ」

「それが精神医学について書かれたこの本と言う事ですか?」

「そういう事よ。理解出来たかしら?」

「はい!まあ、よく解ってませんが、今回は魔法は関係ないって事ですね!」

「まあ、そう言う事よ」


 元気良く頷く小悪魔にパチュリーは眼鏡を掛けながら、読みかけの魔導書を開く仕草をする。


「八意永琳が欲しがっている魔術と呼ばれた昔ながらの民間療法よりも、その外来本の方の信頼性が高いわ。

 いえ、最初から八意永琳はその本が欲しかったかもね。

 ただ、彼女のプライドがそれを阻んでしまっただけであって」

「そういうモノですか?」

「月の頭脳なんて肩書きがあるのなら、尚の事、人に頼みにくいでしょう?・・・だから、こんな回りくどい手を使ったのよ」


 パチュリーはそう告げると開いた本に視線を落とす。


「説明はもう良いかしら、小悪魔。解ったら早く、それを届けて来て上げなさい」

「かしこまりました!それでは行って来ます!」


 小悪魔が出掛けるとパチュリーはしばし、待ってから眼鏡を外し、ひじ掛けに手を着きながら椅子に背中を預ける。

 今回は八意永琳にとって魔法使いが本当に必要な出番ではなかったらしい。

 そもそも、八意永琳がパチュリーに医学の本を譲って欲しいと言えば、こんな回りくどい事をせずに済んだのだ。


 そう。これはあくまでもパチュリー・ノーレッジに対する挑戦状ではなく、遠回しな本の譲渡を促すのが目的なのである。


 しかし、彼女はこれがある一定の頭脳を持つ魔法使いが対象と言っていた。

 つまり、八意永琳は魔法使いが買っていったと言う情報しか知らなかったのかも知れない。


 ーーと、なれば、自分以外の魔法使いであるアリスや魔理沙にも、このルービックキューブが届いているだろう。

 もしも、ルービックキューブを解いたのが、先にあげた二人だったのなら、なんと答えていたであろうか?


 そう思うとあのルービックキューブをいち早く解いたのが、自分で正解だったのではないかとパチュリーは思う。


「・・・帰って来たら、小悪魔に紅茶を入れ直して貰いましょうかしらね?」


 そんな事を独り呟きながら、彼女は深呼吸して瞼を閉じるのだった。

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