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仇を打つ少年の『心』  作者: 檸檬
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4.少年の本当の正体

「シン………、マモル君! ユミちゃんと仲良くなる方法教えて下さいぃ!!」


 マモルの机を両手で叩きながら泣きつくように頼み込む。それをマモルはただ呆然と眺めていた。表情は無を保っており、それだけではどのような心情なのか確認出来ない。


「思ったんだけど………、なんでそんなにもユミと友達になりたいんだ? 春からずっと拒否され続けてるのに、もう辛くなったり面倒くさくなったりするだろ」


「ならないよ。もしそうなるなら私最初からユミちゃんに話しかけてない」


「………よく分からないな、なんでそこまでして友達になりたいのか。ただのクラスメイト、一年経てばクラスも変わる。友達付き合いなんて形だけ、長くつるめば相手の嫌な所も見えてくる」


「―――それでも! 私はユミちゃんと友達になりたいの! クラスが変わっても私はユミちゃんと友達のままでいたい。嫌な所が見えても私は目をそらさない。これじゃあだめかな?」


 駄目なものなど何処にも無かった。マモルが思う限り最高の回答であると断言できる。だからこそ、マモルは頭を下げ、額を机の上に擦り付けた。深々と、そして無言を決めるマモルに、一つ遅れてエミが反応する。


「え……、ど、どういう状況!? な、頭なんて下げて………、何!?」


「俺が言いたいことは一つだ。ユミをよろしく、山田さん」


 頭を上げ、目を合わせて山田エミに託すマモルの表情は、先ほどの無表情とは別のものになる。

 些細の、ほんの些細の違いであったが、それを感じ取ったエミは一瞬ものすごく鳥肌を立てた。


「うん! 任せて!」


 ―――喜びの鳥肌だった。


 初めて名字を呼ばれたこと。託されたこと。その二つがエミとって最大の喜びだった。


「悪かったな。ユミがいる時に名字を呼べなくて。別に忘れてた訳じゃないんだ。ただユミが山田さんに対して負の感情を抱いてほしく無かっただけだからさ」


「そう………、だったんだ………」


 先ほどの悪ふざけが単なる嫌がらせではなく、フォローだったことにエミは更に心臓の鼓動が高くなる。


「うん! 決めた! 私マモル君とも友達になるよ! とゆうかもう友達だよね?」


「違うよ。何言ってんの」


「で、ですよねー………。調子に乗った私が悪かったです………。うぅ………」


 表情豊かなエミはがっかりと肩をおろす。それをマモルは正面から聞いていなかった。既にこの話は終わりを迎え、マモルの目線は窓へと向かっていた。

 マモルの席は窓側にあり、座っていても学校の校門は覗ける位置だった。

 故に、外の状況を確認できるマモルは直に立ち上がる事ができた。


「って、マモル君? どうしたんだい? もうすぐチャイム鳴るよ?」


 教室を出ようと立ち上がり、廊下に続くドアの一歩手前、マモルは呼び止められた事を辛うじて認識する事ができた。


「用事ができたから早退するよ。担任に言っといて、やっさん」


「ちょっ! 授業受けてないのに早退扱いにはならないよマモルくーん! ………ってもう居ないや………」


 エミの言う通り、マモルは教室から既に姿を消していた。それ以上何もする事が無くなったエミは席に戻ろうと一歩踏み出すが、そこで止まる。


 何故なら―――、


「だ………、だからやっさんって誰ぇ!!!???」


 家の屋根を激しく叩く雨は、一点に凝縮された雷により、一瞬雨音をかき消す。まるでそれが起こったかの様に、教室は一瞬静まり返った………。



 何処に行くか決まっている。故にマモルの足は早く動く。だがしかし、足取りが軽い訳ではない。むしろ逆だった。

 その一歩は、エベレスト山へ赴く者よりどっしりと廊下を踏む。

 その一歩は、戦火へ赴く兵士の様に心安らかではない。

 対象に近づくにつれ、その足取りは重く、鼓動は激しくなる。


 マモルが持つ、対象への心情は恐怖ではない。恐怖で無いのが不思議なくらいの気持ち悪さだった。言葉で表すなら、人の皮を被ったナニカ。

 見た目、声、口調。どれを取っても人間にほぼ近しい。だがそれを全て更地に戻し、改めて見てみるとどうだろうか………。


「まさか………。探偵以外にもストーカーを仕事としてたとは思わなかったよ。いや、ストーカーの方は趣味かな? 天龍 亜光」


 靴を中から外へと履き替え、校門へとその重たい足取りで進んだマモルは目の前に立ち構えている者に、嫌味のような物を投げかける。

 テンリュウ アミ。まさにかの有名なシャーロック・ホームズの様な探偵服と帽子を身に纏い、知的な笑みを浮かべる女性。ホームズと違う所と言ったら髪色が黄緑である所の他、その髪色に伴って服の色もライトな緑である。髪の長さは短いが、深々と被っている帽子の後ろから少し、後ろ髪が見える程度の伸びだった。


「全く………、これだから君という存在は。デリカシーに欠けるよ。ストーカーなんてしたことないし、趣味でもない。探偵と認めてくれた事は素直に嬉しいが………、それ以外はレイ点だ。半吸血鬼の心鬼 守」


 通行人はゼロ。二人の距離は近い。それを考慮したアミの一言。真実の一言は、マモルの奥底へ仕舞い込んでいた、時が満ちるまで保管しておこうとしていた怒りを呼び起こそうとしていた。

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