7話
※5話と6話で登場人物2名の名前が間違っている箇所がありましたので修正しました。
訂正箇所 1人目、レイナではなくレイラでした。2人目 ステラではなくエスタでした。
混乱をさせてしまい大変申し訳ありませんでした。
ある日の事だった。
私が姉のように慕っていたリンダが半年後にここを巣立っていくと知った。この辺りで有名な男爵家のメイドとして職が決まったのだ。
私より2歳年上のリンダを私は姉のように慕っていた。だから私は巣立って行くリンダのために何か特別なプレゼントを用意したかった。そうして懸命に考えた末私は、彼女の為にドレスを作る事にしたのだ。
いつか特別な日に着てほしくて。
リンダの事を想いながら彼女に似合うデザイン画を時が経つのも忘れて描き続けた。気が付くと机の上には沢山のデザイン画が出来上がっていた。誰かを想いながら服を作る事はとても楽しかった。
ふと、ノックの音が聞こえてエスタが部屋にやってきた。私を呼びにきたようだ。
「何度呼んでも返事がないものだから心配で見に来たのよ。ねぇ。そんなに楽しそうに何を描いているの?」
「うん、リンダの為にドレスを作ろうと思ってね」
「それは素敵ね!きっと喜ぶわ。でも、使う布や他の材料はどうするの?」
「色々考えたんだけど私の持っているもので売れそうな物を街で売って、そのお金で買える布や材料を使おうと思っているの」
「そう…。ちょっと待っていて。私に良い考えがあるの」
そういってエスタは部屋を出て行く。そうして再び部屋にやって来ると今度はノラと母が一緒だった
「ねぇ。その材料費なんだけど、私達でお金を出させてくれない?私達もそのプレゼントに協力したいの。…いいかしら?」
「えっ…!?本当にいいの!?」
「うん。だからね、材料費は心配しないで。あなたはあの子のためにドレスを作ってほしいの。あの子が立派にここから巣立っていく晴れの日だもの。りっぱなものを作りましょう」
「うん!ありがとう!リンダのドレス、しっかり作るわ!」
この日から私はドレス作りに奮闘する事になった。
いつものように家事を手伝いながら時間を見つけて懸命にドレス作りを続けた。
ある時、私は夢中でドレス作りに没頭していた。ふと気が付くとノラが後ろから私が作業をする工程をじっと見ていたのだ。
特別な事は何もしていないのに何故そんなに食い入るような表情で見ているのか、とても不思議だった。
それから数日後、エスタとノラの二人から驚きの提案を受ける。
今作っているそのドレスを、服の仕立て技を競う街のコンテストに出品してみないかと提案されたのだ。
コンテストの日にちや結果発表の日はリンダにプレゼントする日までには十分間にあうし、その頃には問題なく仕上がっている時期だった。
しかし、私の技術でそんな大層なものに出場できるはずがないと思い、すぐさま断ったのだ。
そんな話をしていると、いつのまにかリンダも他の子達もみんな集まってきて、私が内緒でドレスを作っている事が分かってしまった。そうして私が作っているドレスを見るや否や、エスタやノラと一緒になって子供達も懸命に私を説得しだしたのだ。
みんなの熱意に根負けした私はコンテストへの出品を決めると、そこに居る全員が喜んでくれた。
リンダにはサプライズプレゼントがそのドレスであると分かってしまったがその日から毎日私のドレス作りを嬉しそうに見に来るようになった。
それからしばらくして私は、ようやくドレスを完成させる事ができた。苦労はしたものの十分に満足のいく出来きになった。
そうして仕上がったドレスをみんなに見せると、とても喜んでくれた。それだけで私は嬉しかったし、なにより、リンダを想いながら作ったその工程はとても楽しかった。だからコンテストの結果なんて正直、もうどうでもよくなっていたのだった。
コンテスト当日、この日は全員で街に行く事になった。街まで距離があるのでまだ薄暗いうちに出発する事にした。
ほとんどの子は、街はずれで近くに何もない事から外出した経験がなかった。その為、みな大はしゃぎで、荷馬車の移動はとても賑やかなものになった。
無事にコンテストが行われる街へ到着して、出品とエントリーを済ませ後は審査発表を待つのみとなった
みな順位が発表されるごとに一喜一憂している。私はコンテストに自分が参加できた事に満足していたのでさほど結果は期待していなかった。
最後の最優秀賞まで私の名前が呼ばれる事はなかった。
みな一様に落胆した様子だった。
しかし驚く事に最後の最後で私の名前が呼ばれたのだ。
信じられない事に今までに前例のない特別審査賞に入賞したのだ。
広い舞台上には私が作ったドレスがトルソーに飾られていた。
司会者が高らかに私の名前を呼びあげるとたくさんの喝采があがる。
私は恐る恐る舞台に上がった。
飾られているドレスの横に並ぶと、生まれて初めて数えきれないほど大勢の人達から拍手と喝采を浴びた。初めての体験だった。こんなにも沢山の人達に認められた。信じれらないほどの喜びが沸くと同時にまるで自分の事ではないような、どこか、ふわふわとした幻のように思えるそんな不思議な感覚だった。
母がそんな私を舞台の裾から見つめている姿が見えた。にこやかな笑顔だった。
そうして私はある事を決めた。
表彰式が終わると私は真っ先に母の元に駆け寄って、今しがた決めた事を打ち明けた。
「服を作る事は楽しいわ。母さん。私、自分の道を決めたよ!仕立屋になりたい」
母は少し涙目になりながら私の話を黙って聞いてくれた。
その後、地元の新聞にあのコンテストの話題が上がると、私の名前も同時に載せられた。そうして私はこの辺で一躍有名になってしまったのだ。
コンテストが終わってしばらくすると、いよいよリンダがここを巣立つ日がやってきた。
みんなが見守る中、彼女はトランクケースを引いて玄関のドアを開ける。
「リンダ!」
私が呼ぶ声に彼女は少し緊張した面持ちで振り返った。
私はリンダに駆け寄り、あのドレスを渡すと彼女の表情はパッと晴れやかな顔になった。
「私、このドレスをずっと大切にするわ。いつか特別な日に必ず着るから。あなたが私の事を想いながら一生懸命作ってくれた事、私ずっと忘れないわ。ありがとう!」
その日彼女は晴れやかな笑顔でここを去っていった。
それからすぐの事だった。
私の元に差出人不明で一冊の本が届けられた。