40話
翌日、学校から帰って、無事に仕事も終わらせると、その足で早速街の雑貨屋に向かった。
ミゲラに指摘されるまで、アルマの誕生日プレゼントをすっかり忘れていた事に反省しながら街まで急いだ。
歩きながら彼女が好きそうなものを考える。
彼女との出会いは、彼女が落としたカーディガンのボタンを一緒に探した事がきっかけだった。
ピンク色のカーディガンの下には可愛らしいフリルのワンピースを着ていて、可愛らしい容姿にとてもよく合っていた。愛らしい見た目なのに小言を言う兄のエルドにこっそりと舌を出す様子とハキハキとしたしゃべり方から活発で元気な印象だ。
そんな彼女に、一体どんなものを選ぶと喜んでもらえるんだろう。エルドに聞いておけばよかったと少し後悔していると目的の雑貨店に到着した。
店内には様々な物が並んでいる。アクセサリーや洋服に小物。若い女の子が好きそうな物ばかりが置いてある。煌びやな店内に、女子としての私はついここに来た目的も忘れて、並んでいる商品に魅了されてしまった。ちょうど目の前には、店の照明に反射してキラキラと光っているブレスレットがあった。
綺麗だな…。そんな独り言がつい出てしまった。奥から出てきた店の若い定員さんが私に気が付いてこちらに近づいてくると、にこやかに声をかけてくる。
「何かお探しでしょうか?」
「はい、10歳くらいの女の子の誕生日プレゼントを探しているんです」
「10歳くらいの女の子ですね。そうですねぇ。ちょっと待っていてください」
そういうと店内を一周しながら品物をいくつか手に取って戻ると、私の目の前に並べて置く。
動物をモチーフにしたブローチやリボンのついた髪飾りやレースのハンカチなどだ。
「いくつか選んで持ってきました。どうでしょう。お嬢様の好きそうなものはございますか?」
「そうですねぇ…」
目の前に選択肢が沢山あると余計に選ぶ事ができない。
果たしてアルマの好みは一体どんなものなのだろう。
私が困り果てていると店の女性は再び商品を選びに立ち去ってしまう。
結局、その日はプレゼントを選ぶ事が出来なかった。
翌日も仕事を終えると街の雑貨店を見て回った。誕生日パーティは明日なので、今日はどうにか何か見つけたい。
何気なく入った店でふと目に入った物があった。私はそれを手に取り、すぐに会計を済ませた。
それから別の店に入り、目当ての物を購入して帰路に着いた。
玄関を開けると、いつものようにモリスが笑顔で出迎えてくれてその後ろにはミゲラもいた。
『お帰り~』
そんなふうに、私にしか聞こえない言葉を呑気に発している。
お風呂と夕食を終えて部屋に戻ると私は早速さっき買ってきたものを机に広げて作業を開始した。
『ねぇ、何を作っているの?』
「内緒。出来上がったら分かるよ」
そう言って私は再び作業に没頭していた。
私が何を作っているのか気になって仕方のないミゲラは暫く私の周りをうろついていたが、そのうち諦めたのか彼の寝床であるクッションの上で寝てしまった。念のため近くにあったひざ掛けを彼の上にかけておいた。
早朝、ようやくそれは出来上がった。我ながら良い出来栄えになった。ラッピングをして大振りのピンク色のリボンをかけると机の上に静かに置く。時計を見るともうじき夜が明ける時刻になっていた。
さて、時間まで少し寝よう。集中力が途切れた途端、一気に眠気が襲ってきて、ベッドに移動する事も億劫になった私はその場で欠伸をしながら机に突っ伏して眠ってしまった。
頬に何かが当たっている感触がしてぼんやりとしながら、うっすらと目を開けると、私の視界一杯に真っ白い猫の顔が写った。
視界一杯の猫のどアップに驚いた私は慌てて立ち上がると座っていたイスが盛大に後ろに倒れてしまった。
『あ~あ、起きちゃった。そんなに驚かなくてもいいじゃないか。とりあえずおはよう』
「いやいや、寝起きで猫のどアップは驚くでしょう」
『起こすつもりはなかったんだよ?手で頬をグリグリ押してもパチパチ叩いても起きないくらい気持ちよく寝入っていたもんだから何だか面白くなっちゃって』
「いや…十分起こす気だったでしょう。寝ている間に何してくれてるの」
時計を見ると11時を少し過ぎた頃だった。すっかり寝入っていたみたいだ。
約束の時間は13時だ。ここから徒歩で20分くらいの場所なので余裕で間に合いそうだ。
誰かの家に招かれる事は始めてなので少しフワフワした気分だった。
机の上にいるミゲラを黙って持ち上げると有無を言わさず部屋の外に出して着替えを始める。
着換えを終えて1階に降りると階段を降りる私の足音を聞きつけてモリスがすぐに駆け寄ってきた。
「おはよう。この時間に起きるなんて珍しいわね。体調でも悪いの?大丈夫?」
モリスが心配そうに私の額に手を当ててくる。
「熱はなさそうね。昼食は食べれる?痛い所はない?」
心配そうにソワソワとしているモリスにすかさず声をかける。
「大丈夫だよ。昨日寝るのが遅かったから寝過ごしちゃったんだ」
私がそういうとモリスはすぐに安心した様子を見せて、昼食の配膳を始めた。少しの事でこんなに心配してくれる彼女は私にとって第二の母親のような存在になっていた。そんな彼女を私も自然に手伝うと彼女は優しい笑顔を向けながら『ありがとうね』と一言呟いた。
「じゃぁ、行ってくるよ」
小脇にプレゼントの包みを抱えながら、私はアルマとエルドの家に向かった。