34話
「これ、読めるよ」
「えぇっ!?なんて書いてあるの!っていうか、どうやって読むんだよ」
3人でルークに詰め寄ると、彼は若干呆れ気味に私達に説明を始めた。
「簡単だろ。文節の一番前の文字を繋げていくと言葉になっている」
「ん?どれどれ。ね・こ・に・つ・い・て・い・け?何だこれ。それにして謎解きの法則が結構ベタなやつだったんだね。それに驚いたよ」
私が内心思ってしまった事を、マシューははっきり言い放ったので思わず苦笑いしてしまった。
「ねこってあの猫かしら…。でも、昼にいなくなったきりだし…」
「ちょっと外を見てくる」
そういとマシューは扉を開けて外に飛び出していった。
「あの猫、そこにいるよ!」
マシューの声が聞こえる。
私達が外に出てみると、あの白い子猫が少し遠くでちょこんと座って私達を見ている。
それからスッと立ち上がると、踵を返して歩き出した。
「ついて行こうよ」
マシューはそう言いながら私とリサの腕を掴んで引っ張って歩いていく。
「ちょっと待って!私、受付の番があるから…!」
「そうだよマシュー、僕もここで用事があるんだよ」
「大丈夫だって。すぐ戻れるよ」
「でも…!」
結局、私とリサはそのまま強引に彼に引っ張られていく。私達は猫を追いかける事になってしまった。
先頭を歩く猫は一向に止まる気配がない。ルークとマシューは猫のすぐ後ろを歩いている。
「どこまで行くのかしら?」
いつの間にか整備されている道を大きく外れて歩いている事に気が付いた。辺りは鬱蒼とした木々が続いている。私の前にはリサがいて、私は一番後ろを歩いている。
ふと、微かに人の声聞こえた。
『ついてくるなよ!』
男の声が聞こえる。
『僕に構うなっていってるだろう!』
『どこに行くのよ。今日は学校の帰り、一緒にあそこに行くようにいわれているでしょう…』
男女が言い合いをしている声が聞こえている。
私はすぐに声が聞こえる方向に歩きだして行った。一人で違う方向に歩き出した私に、リサはいち早く気が付いて、すぐに私の後を追ってきた。
「レイ、一人でどこに行くのよ。ちょっと…!聞いているの!?」
リサの問いかけに答えている余裕がない。声の主を知っている気がするのだ。その声を聞く度に徐々に自分が自分ではなくなるような、そんな感覚に襲われていく。
『そんなもの知るか。君一人でいけばいいだろう!』
『でも…。あなたも行かないと…』
声は徐々に近づいて来る。このすぐ先に言い合いをしている二人がいるのだろう。早くその場所に行かなくてはいけない。訳の分からない使命感にかられながら足を速める。
『知らないよ。一人で行けよ。僕にかまうなっていってるだろう!』
『でも…!』
ついに男女の姿が見えてきた。
その二人が誰なのか、彼らの姿を見た瞬間、すぐに分かった。それはこの世界にいる母と父だった。
私は無言のまま静かに二人に近づいて行った。
「レイ!?どうしたのよ!!」
明らかに様子がおかしい私を不信に思ったリサが後ろから懸命に私にそう呼び掛けている。私はそんな彼女に構う事なく二人に向かって歩き続けた。
「うるさいんだよ!僕に触れるな!!」
その瞬間、父は詰め寄って来る母を乱暴に突き飛ばしたのだ。
「…いたっ…!」
母は地面にしりもちをついて倒れている。
倒れた母を冷たく見下ろしている目が記憶の中の父の姿と被った。こんなにも忌々しくて憎くて仕方がない男が、今この瞬間も母に詰め寄って罵声を浴びせているのだ。
腹の底からこみ上げる怒りで自我は完全にふっとんでしまった。すぐに母に駆け寄ると、男から守る様に彼女の前に立ちふさがる。そうして、すぐ目の前にいる父を睨みつけた。
「おい…。あんたは今、この人に何をしたんだ!?」
怒りで声が震える。静かな口調でゆっくりと目の前にいる男にそう訊ねた。
「誰だ?お前は」
この世界の父は、突然どこからか現れた私という存在の男に、驚きと戸惑いの表情を浮かべている。
「質問に答えろ。もう一度言う。あんたは今、この人に、何をしたんだ?」
「お前に関係ないだろう。一体なんだっていうんだ。あっちに行け!」
怪訝な表情をしながら吐き捨てるようにそういうと、私を睨みつけてくる。
そんな男の様子に、怒りで我を忘れた私は、父の胸倉に掴み掛かっていた。