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30話

 

 館内はさらに薄暗い。

 さっきよりもさらに激しい雨音が聞こえている。


「二手に分かれて調べましょう。私は向こう側の通路から確認するわ。あなたはこっち側の通路をお願い。二人で両端から徐々に中心の通路に進んでいって、真ん中の通路で合流しましょう。いい?」


「分かった」


「じゃぁ、また後で。真ん中の通路で会いましょう」


 リサはテキパキと私に指示を出すと、すぐに向こう端の通路まで歩いていく。

 彼女の後ろ姿を見送りながら、私も歩きだした。

 校内のどの建物より古いこの場所は独特の雰囲気がある。今は薄暗い事もあって、どこかひどく不気味だ。

 慎重に辺りを確認しながら歩いていく。

 異変がないか通路と本棚を交互に確認しながら歩いていく。そのあいだずっと、自分の足音と雨の音だけが聞こえていた。


 一本目の通路の確認を終ると正面に壁面棚が見えた。二本目の通路に移ろうとその壁面棚の前の通路に出た。

 ふと、視界に入ったその棚の隅に違和感を覚えた。その一角だけ妙に本が乱雑に並べられているのだ。

 いつもテキパキと仕事をこなして、館内の点検もしているリサが、そんな状態の箇所を見逃すだろうか。

 そんな事を考えながらその一角をじっと見ていると、突然リサの悲鳴が聞こえた。


「きゃー!」


 私はすぐさま、声がした方向に走っていく。

 しかし、中々リサの姿を発見することができなかった。


「リサ!?大丈夫!?どこにいるの!?」


 広い館内を走り回りながら、懸命にリサの姿を探す。そんな状態で闇雲に通路を走っていると突然、躓いて転んでしまった。何かに足を引っかけられたような、そんな奇妙な感覚がしたのだ。


「痛ぁ…」


 思いきり突っ伏して倒れた衝撃は大きかった。痛みをこらえてようやく起き上がると、向こう側からリサが走って来るのが見える。


「ちょっと…!大丈夫!?怪我はない?」


 目の前までやって来たリサは、私の服についた埃を払いながら、怪我をしていないか膝や腕を確認する。

 腕が少し擦り切れて血がにじんでいた。


「あらら…。ここ、血が出てるわ」


 そういうとリサはハンカチを取り出して私の腕をまくり、手際よくそれを巻いてくれた。


「ありがとう。でも血がついたら落ちないよ。ハンカチ、ダメにしちゃった。ごめん…」


「そんな事いいのよ。気にしないで。あなたの怪我の方が心配よ」


「ありがとう…。もう大丈夫そう」


「帰ったらしっかり手当してもらうのよ。でも、どうして何もない所で転ぶのよ!」


「うん、それがね、何かに足を引っかけたようなんだ」


「何かってなによ、この通路にはそんなもの何もないわよ」


「うん、それがね、誰かに引っ掛けられたみたいだった」


「誰に!?…ちょっと待って?足元に何か落ちてる」


 リサは素早く私の足元から何かを拾った。


「何が落ちていたの?」


 リサが見ている紙を私も一緒にのぞき込む。


「またこのメモだわ…。なんて書いてあるのか意味が分からない…」


 不規則に文字が並んでいる。手に収まるくらいの大きなのメモで文字はその紙一杯に書いてある。


「確かに…。意味が分からないね」


「とりあえず拾っておくわ。何かの暗号かしら。面白そうだから後でゆっくり解読してみましょうよ」


 リサはそういうと、そのメモ紙を自分のブレザーのポケットにしまった。


「そういえばリサの方は大丈夫だった?さっき悲鳴が聞こえたけど」


「ああ、ごめんね。驚かせちゃった…。あれがいたのよ…あれが…」


「あれって?」


「だから、あれよ」


 そういうとリサは私の背後を指さしている。


 すぐさま後ろを振り返ると、真っ白な子猫が一匹、ポツンと座っている。その子猫は私と目が合うとすぐに、私の足元まで駆け寄ってきた。


「ねっ…猫!?」


「そう。猫。どうやってここに迷い込んだのかしら…。音の原因はこの子が原因かしら…」


「でも、こんなに小さな子猫にあんなに大きな音が出せる?」


「それもそうね。とりあえず、もう一度確認をしましょう」


「その前に、ちょっと気になる箇所があった。僕が確認していた側の壁面棚の隅だけど、そこだけ本が乱雑に並んでいたんだ。リサならすぐ気が付いて直すだろう?」


「えっ?またあそこ?そこだけたまに本が雑に並んでいるのようね…。どうしてかしら…。私ちょっと見て来るわ。だから今度は確認場所を交換してみましょう。私、そっち側を見て来るわ」


 リサは子猫を抱き上げると、私達はもう一度通路を確認しに行った。

 中心の通路で落ち合うと異常がなかったことをお互いに報告して館内を出た。


「あの棚、特に異常はなかったわ。でも気になるわね。今は薄暗いし、よく見えないのよね。明日の昼なら明るいわ。その時、もう一度詳しく調べてみましょう。それにしてもこの猫、これからどうしようかしら…。しばらくここでお世話をしながら飼い主を探してみるしかないわね」


 気が付くと雨はすでにやんでいた。しかし、相変わらず外は曇り空だった。


 リサは抱いている猫を撫でながら話しかけている。


「お腹すいた?でも…今は何も持っていないのよね…。そうだ!ちょっと待ってて。食堂で余ったものがないか聞いてくるわ」


 リサは子猫を私に預けると扉を開けて外に出て行った。


 しかしその瞬間、子猫は私の腕の中から飛び出して外に出て行ってしまった。




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