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26話


「でね、僕は朝が弱くて昨日は特にそれがひどくてさ、フラフラ歩いてたら、たまたま近くにいたあの彼が心配して教室まで送ってくれたんだ」


 翌朝、登校すると先に教室に来ていたマシューにあっさりと捕まり、半分だけ本当の事を混ぜて白状した。


 早朝に呼び出されて女子からの告白を断り、結果泣かれてしまって落ち込んでいたら偶然会ったエルドに慰められ、具合が悪そうだから寝た方がいいと提案され、寝て、起こしてもらった後、寝起きが悪すぎたため教室まで送り届けられたなんて突っ込みどころが満載な内容をあの性格のマシューに正直に言ってしまった場合、どうなるのか実行しなくてもよく分かる。考えただけで、ぞっとするほど面倒だ。


「そうだったんだ。なんだ、つまらない…。でも、あんな男前、見かけた事はないし、第一あの容姿だとすぐに女子達の噂の的になりそうだけど、今までそんな噂も聞かないし。だからレイが、謎の美男子に腕を掴まれて教室に入って来たもんだからさ、どうしたのかと思ってね。あの人もレイと同じで最近転入してきたのかなぁ」


「どうだろうね、そこまで知らないよ」


「でも、最初からちゃんと説明してくれればなんてことない内容を、どうしてすぐ教えてくれなかったの?それとも、他にも隠している事があるのかな?」


「ないよ!」


「ふーん、そうなの?」


「昨日はあれからずっと具合が悪くてね…。あまりしゃべる気がしなかったんだよ」


「えぇ!そうだったの!?それはしつこくして申し訳なかったよ。ごめんね…。もう大丈夫なのか!?」


 マシューは申し訳なさそうに謝ると、今度は本気で私の体調を心配しだした。

 彼のこういう素直で優しいところは結構好きだ。面倒くさいって思ってごめんね、と心の中で謝っておいた。


「あっでも、レイって色々面白いから、これからも何かやらかすのを期待してる」


 マシューがそう言った瞬間、ついさっき結構好きだと思った事は即撤回した。


「ねえ、マシュー。僕は君を楽しませる為に存在してるわけではないんだけど。昨日居眠りしていた授業のノート、見せてやらないから」


「…いや…。それは困る…!借りようと思ってたのに!レイのノートが一番見やすいんだ!ごめん!昼食に何か奢るからさあ…」


「じゃあ許す。はい、ノート」


「やった!助かる」


 私がノートを差し出すと、彼はすぐにそれを受け取って自分の席に向き直した。そうして自分のノートを開いて写し始めた。

 マシューの話を聞いて、エルドも転入生なのかもという疑問がうかんだ。今度会ったら聞いてみよう。そうだ、彼に昨日のお礼をしなくてはいけない。気軽に送れるもので貰っても困らないもの…。

 そうだ、ハンカチにイニシャルの刺繍を入れて渡そう。ハンカチなら毎日使うだろうし。でも、男だと思っている人物からハンカチなんてもらったら気色悪いだろうか…。


「ねえ、ルーク、僕が何かのお礼で君にハンカチなんて送ったら気持ち悪い?」


 横でうとうとしているルークに話しかける。朝からとても眠そうだ。


「…もらえるものは貰う…」


 ルークは頬杖をついて、半分寝ぼけながらそう答えた。


 いや、そうじゃない。どう思うかという事を聞いているんだけど。そんな回答は1ミリも求めていない。あぁ、これはダメだ…。聞く相手を間違えた。でも、マシューに聞いたところで同じ事を言いそうだ。なんだかんだで二人は全然違うようで感性は似ているのだと思う。だから気が合うのだろう。


 ルークはそんな私の様子など気にもしないで、机に突っ伏してすっかり寝入ってしまった。こちらに顔を向けて無防備な寝顔を見せている。

 いつもの無表情な顔と今の穏やかな寝顔はかなりギャップがある。

 よく見ると、とても綺麗な顔をしている事に気づく。いつもそんな表情ならもっと印象は違うのに。

 ふと、頬を流れる柔らかそうな黒髪に少しだけ触ってみたくなった。手を伸ばそうとした瞬間、無情にもベルが鳴り響いた。


 

 いつものように図書館まで続く道を一人で歩いていた。


 結局二人の婚約を破棄させるいい方法が見つからない。母さんを見つけて接触をしよとう思っているのだが、見つける事に苦労している。食堂でも一度も見かけた事はない。そもそも学校に来ているのか来ていないのか、それさえも分からない。


 校門で帰りを待つだとか朝早くきて待ち伏せをするという手段もあった。でも、前者はダンの仕事の時間に間に合わなくて断念した。年長クラスは終了時間が遅いのだ。後者は警備員に問答無用で不審者扱いをされ、それも断念したのだ。じゃぁ直接別棟に行けばいいのかもしれないけど、一度これも試みた。見知らぬ顔で警戒されたのか、他の年長者に何の用事があるのかと問われ、それに答える事が出来なかった。大義名分を掲げて別棟に行ければいいのに…。

 ん?そうだ。エルドだ。彼にお礼の品をもって別棟に行こう。もうハンカチ以外にお礼の品が思い浮かばない。早速今日用意しよう。


 図書館に着くと受付の場所にいつもの女子が座っている。

 入って来た私に気が付くと、いつものようにニコリと笑顔を向けてくれてた。

 ここにこうして通う事は毎日の日課になっている。あの日以来父の姿は見ていないし何の情報もつかめていない。

 父が書いたあの忌々しい小説のせいで相変わらず物語を読む事が辛い私は、こうしてここに来ることでそれを克服しようとしている。でも、ここに来る度、物語を読むために本を開く事もできないし、まして、借りていく事もできない。ただ無駄な時間をこの場所でのうのうと過ごしているだけの自分に苛立つだけだった。



 通路を歩いていると目に入った棚に冒険小説が並んでいた。

 母さん昔、冒険小説をよく読んでいたと言っていた。

 でもそれはいつ頃の話なんだろう。そう思いながら棚に並んでいる一冊を手に取る。タイトルを見ると、母さんが好きだと言っていた小説だった。


「この本…」


 そうだ、母さんがこれをここでも読んでいるかもしれない。

 借りた人の履歴は受付で管理されているはずだ。

 早速その本を持って窓口に行くと、受付の女の子に話しかける。


「あの、」


「あぁ、あなた。やっと本を借りる気になったのね!本っていいでしょう?それで?何?何を借りるの?」


 受付の女の子は私が本を持っていくと捲し立てるように話しだした。

 私の持っている本が何なのか、とても興味を持っている様子だ。


「いや、あの、この本を前に借りた人をしり…」


 私の話をさえぎって受付の女の子は話しを続ける。

 控えめで大人しそうな印象だったのに意外とよくしゃべる子のようだ。


「あーその本!その本が好きでよく借りていく人がいるのよ。確か…、ローラさん?といったかしら?あなたと同じ髪の色の女の人よ」


 母さんだ。この学校にいる。私はそう確信した。

 


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